食道がんの最新治療

山梨大学医学部附属病院

消化器外科、 乳腺・ 内分泌外科

山梨県中央市下河東

食道がんとは?

食道は口から入った食べ物を喉(のど)(頸部(けいぶ))から胸部、そして腹部(ふくぶ)の胃まで送る管状の臓器であり、胸の中で肺や気管、心臓、大動脈などに囲まれています。

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国内のがん全体の5年生存率(がんと診断された患者さんのうち、診断から5年後に生存が確認できた割合)は64.1%といわれていますが、食道がんは41.5%と(1)難治性のがんの1つです。食道がんの治療には、手術、抗がん剤治療、放射線治療などが行われますが、近年、免疫治療も加わり、これらを組み合わせた治療を行うことにより、治療効果を高めるようにしています。

[出典](1)全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターが 対策情報センター、2020)
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書

食道がんの原因や症状、治療

食道がんは、食道の内側にある粘膜から発生し、だんだん深く入り込んでいきます。また、周囲のリンパ節へも転移しやすいといわれています。その原因には飲酒や喫煙があげられ、さらにフラッシャーといわれる、飲酒時に顔が赤くなる人もなりやすいことがわかっています。

食道がんの初期には症状はありませんが、進行するにつれて食事の際、しみる感じやつかえ感、胸焼けや痛みなどが出てきます。食道がんが進行している場合は、手術に放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせて、治療を行います。また手術後には、再発予防のため免疫治療を行うこともあります。

食道がんに対する低侵襲手術

食道がんの手術は、頸部、胸部、腹部の3か所の手術を順番に行います。従来、胸部の手術は、大きく切開する開胸手術が一般的でしたが、胸壁の破壊が大きく、体への負担も大きいため、より低侵襲な(体に負担の少ない)胸腔鏡手術(きょうくうきょうしゅじゅつ)が急速に普及しています。

胸腔鏡手術はまず、肋骨と肋骨の間の4~5か所に、ポートといわれる5〜10mmの筒を入れます。その中の1つからカメラ(胸腔鏡)を入れ、胸の中の様子をハイビジョンモニターで観察します。残りのポートから、マジックハンドのような器具を入れ、手術を行います(写真1)。

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写真1 胸腔鏡下食道切除

この方法によって精緻な手術が可能になり、創(きず)が小さいだけでなく、出血量も明らかに減少し、術後の重篤な肺炎も起こりにくくなりました。

さらに2018年に、ロボット支援手術が保険で認められました。この手術は3次元の視野のもと、手ぶれ防止機能を備えた自由度の高い器具をポートから挿入することにより、高い安全性と優れた治療成績が期待されています。当院でもロボット支援手術を導入し(写真2)、積極的に行っています。

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写真2 ロボット支援手術
左:サージョンコンソール(操作ボックス。医師が内視鏡画像を見ながら、操作を行います)
右:ペイシェントカート(ロボットの本体。アームの先端に器具を取り付け、操作します)

食道がん治療のチーム医療

食道がん手術は、体への負担が大きいため、手術後、さまざまな合併症が起こり得ます。特に肺炎は命にかかわることがあり、できるだけ予防すべきものです。

肺炎の菌は口の中の菌が原因となるため、手術前に歯科医により歯科治療を行っています。また術後の誤嚥(ごえん)(食べ物などが気管に入ってしまうこと)を防ぐために、手術前から飲み込みや全身のリハビリテーションを行い、肺炎にならないようにさまざまな業種がチームとなって、退院までサポートしています(図)。

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図 食道がん治療のチーム医療

食道がんの集学的治療

食道がんは、手術だけでは根治(こんち)(完全に治すこと。治癒)が難しいがんです。それは、早い段階で広い範囲に広がってしまうからです。そこで集学的治療といって、手術や抗がん剤、放射線治療を組み合わせることにより、食道がんの根治をめざしています。

具体的には、手術前に抗がん剤治療や放射線治療を行い、がんを小さくした後に、手術を行ったりしています。さらに近年、食道がんに効果がある免疫治療が開発され、注目されています。免疫治療は第4のがん治療とされ、自らの免疫の力でがんを治す治療です。免疫治療が食道がんの手術後の再発予防に有効との知見から、当科でも積極的に行っています。

更新:2025.01.30