一人ひとりに合わせた膵臓がんの内科的治療

山梨大学医学部附属病院

消化器内科

山梨県中央市下河東

膵臓(すいぞう)がんとは?

膵臓は、胃の背中側に位置する細長い臓器で、背骨に巻き付くような形で存在します。インスリンなどのホルモンを作り出す内分泌機能、消化酵素が含まれる膵液(すいえき)を分泌する外分泌機能の2種類の働きがあります。膵液の通る管を膵管(すいかん)といい、膵管の上皮から発生する悪性腫瘍(しゅよう)が膵臓がんです。

図

膵臓がんと関連のある要素としては、糖尿病、肥満、喫煙、飲酒などがあげられます。また、近親者に膵臓がん患者さんが多いほど膵臓がんに罹(かか)る危険性が高く、親、兄弟姉妹、子の中で2人以上膵臓がんの患者さんがいる家系は、家族性膵がん家系といわれています。

閉塞性黄疸、消化管閉塞に対する内科的処置

膵臓がんは進行すると、胆管や消化管が閉塞(へいそく)する(詰まる)ことがあります。胆管が閉塞すると胆汁が胆管内に溜(た)まり、皮膚の黄染(おうせん)、灰白色便、尿の濃染(のうせん)(褐色尿)といった症状が出ます。このような状態を閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)といいます。また胃や十二指腸などの消化管が閉塞すると、嘔吐(おうと)や食欲低下が出ます。閉塞性黄疸や消化管閉塞は、患者さんへの負担が少なく安全性が高い内視鏡治療が最も多く行われています。

閉塞性黄疸は、胆管内に溜まった胆汁を胆管外へ流すこと(胆道ドレナージ)で改善します。多くは金属製もしくはプラスチック製のステントやチューブを挿入します(図1)。胆道ドレナージは、胆管や膵管が開口する乳頭部から内視鏡的にアプローチする経乳頭ルート、超音波を使って体外からアプローチする経皮ルート、胃や十二指腸などの消化管から超音波内視鏡を使ってアプローチする経消化管ルートの3種類があります。

写真
図1プラスチックステントと金属ステント
(画像提供:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社)

経乳頭ルートは、側視鏡(専用の内視鏡)を十二指腸まで挿入し、乳頭部から胆管にステントを入れる方法です(図2①)。現在はこの経乳頭ルートが主流であり、当院でも最も多く行われています。

図
図2閉塞性黄疸に対する胆管ドレナージのルート
①経乳頭ルート、②経皮ルート、③経消化管ルート(超音波内視鏡下肝内胆管胃吻合術:EUS-HGS)、④経消化管ルート(超音波内視鏡下胆管十二指腸吻合術:EUS-CDS)

経皮ルートは、体外式の超音波で肝内の胆管を確認し、胆管に針を刺してチューブを入れる方法です(図2②)経乳頭ルートが難しい場合に行いますが、外瘻(がいろう)(チューブを体外に出した状態)になるデメリットがあります。

経消化管ルートは、胃や十二指腸から超音波内視鏡で胆管を確認し、胆管に針を刺してステントを入れる方法です。胃から肝内の胆管にアプローチする超音波内視鏡下肝内胆管胃吻合術(ちょうおんぱないしきょうかかんないたんかんいふんごうじゅつ)(EUS-HGS:図2③)、十二指腸から胆管へアプローチする超音波内視鏡下胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS:図2④)があります。経乳頭ルートが難しい場合や、消化管閉塞で経乳頭ルートで入れたステントが機能しない場合に、特に有効な治療法です。体内で胃や十二指腸と胆管をつなげるため、外瘻チューブが不要というメリットがあります。近年経消化管ルートの有効性、安全性が示され、経消化管ルートで胆道ドレナージを行う患者さんの数は増加しています。

また膵臓がんは進行してくると胃や十二指腸が閉塞し、食物が流れなくなることがあります。このような消化管閉塞に対しては、閉塞した部分に内視鏡的に金属ステントを挿入します。

写真
当科の胆管ドレナージの様子

膵臓がんの化学療法

膵臓がんは、抗がん剤を使う化学療法と手術療法を組み合わせて治療を行います。当科では化学療法を主に行っています。

主要な血管への浸潤(しんじゅん)(がんがまわりに広がっていくこと)や他臓器への転移がない患者さんは、ゲムシタビンとティーエスワン、2種類の薬物を使った併用療法(GS療法)の後、手術を行います。

主要な血管への浸潤や他臓器への転移がある患者さんは、オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、レボホリナートの4種類の薬物を併用するFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法、ゲムシタビン、ナブパクリタキセルの併用療法(GnP療法)のいずれかを選択します。
全身状態、併存疾患などを考慮して、ゲムシタビン単独療法、ティーエスワン単独療法を行うこともあります。

いずれの治療も、患者さんの状態を確認しながら減量したり投与間隔を広げたりすることで、無理のないように進めます。膵臓がんが小さくなり主要な血管への浸潤や他臓器への転移がなくなった場合には、手術を行うこともあります。

新しい治療薬の開発が進み、遺伝子検索を行って、それに応じた治療を選択することも可能になってきています。膵臓がんではまだ適応となる確率が低いですが、今後さらに発展していく可能性があります。

更新:2024.04.26