肺がんに対する分子標的治療薬-肺がん

富山大学附属病院

臨床研究管理センター  臨床腫瘍部

富山県富山市杉谷

肺がんに対する分子標的治療薬とは、どのような治療ですか?

転移を伴う肺がんは薬による治療の対象となります。

かつては点滴薬を主体とする抗がん剤が肺がんに対する唯一の薬でしたが、分子標的治療薬が登場したことによって肺がん診療は一変し、肺がん患者さんの寿命は大幅に長くなりました。

分子標的治療薬を代表する薬剤にチロシンキナーゼ阻害薬があります。チロシンキナーゼ阻害薬は、がん細胞の増殖に関係する分子の働きを抑えることにより、治療効果を発揮する薬で、従来の抗がん剤と比較して吐き気や食欲不振といった副作用が少なく、がんを縮小させる効果が非常に優れています。

一方で、チロシンキナーゼ阻害薬は特定の遺伝子変異を治療標的とするため、その遺伝子変異を持たない肺がんには効果を発揮しないという特徴もあります(図1)。チロシンキナーゼ阻害薬が有効かどうかを判断する遺伝子検査は、肺がんの診断時に採取した腫瘍(しゅよう)組織を用いて行うことができます。肺がんの中でも特に肺腺がんである場合は、約半数の患者さんでチロシンキナーゼ阻害薬が有効な遺伝子変異が検出されます(図2)。

イラスト
図1 チロシンキナーゼ阻害薬は遺伝子変異がある肺がんに対して治療効果を発揮します
グラフ
図2 2015-2018年 富山大学附属病院第一内科肺腺がん126例のデータ

肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬とは、どのような治療ですか?

もう一つの代表的な分子標的治療薬に免疫チェックポイント阻害薬が挙げられます。抗がん剤やチロシンキナーゼ阻害薬はがん細胞を直接攻撃しますが、免疫チェックポイント阻害薬は人のリンパ球が本来持っている、がんを抑える力を活性化することによって効果を発揮します(図3)。免疫チェックポイント阻害薬はいったん効果がみられた患者さんでは、その効果が長く続くという特徴があり、免疫チェックポイント阻害薬単独での投与に加えて、抗がん剤との併用療法の有効性も示されています。

フローチャート
図3 免疫チェックポイント阻害薬はリンパ球に作用して治療効果を発揮します

一方で、免疫系に作用するという特性から、さまざまな免疫関連の副作用が生じます。その中にはホルモン異常や糖尿病の発症など、従来の肺がん診療では経験しなかった副作用もあり、投与にあたっては注意を要する薬剤だといえます。こうした長所・短所を十分に理解したうえで、最大限の効果を引き出すことが大切になります。

分子標的治療薬の投与を受ける際に注意点はありますか?

チロシンキナーゼ阻害薬は、にきびに似た皮疹(ひしん)、肝臓の障害、下痢などを副作用として引き起こすことがあります。またチロシンキナーゼ阻害薬によって肺炎を発症することがあり(薬剤性肺障害)、これは発現頻度が数%と低いながらも、発症した場合は重症化することがあります。

これら副作用の出現時期はある程度は予測することができ、定期的に受診・検査を行い、症状や検査結果に応じて適切な薬剤の減量・休薬を行うことで対応しています。また皮疹や下痢に対しては、患者さんや家族に日々のケアを行っていただくことも重要です。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、治療が継続されている限りは注意し続けることが必要です。早期発見のためには定期的に検査を行うことと、体調の異常を感じた場合はすぐに申告していただくことが必要です。免疫チェックポイント阻害薬の副作用は全身のいずれの箇所でも起こり得るため、症状が軽度である場合、それが薬剤の副作用なのかどうか患者さん自身では判断が難しいかもしれません。何らかの症状が出現し、それが軽快せず悪化傾向をたどる場合は、早めに医療機関を受診してください。

・従来の抗がん剤と比較し、格段に有効な分子標的治療薬が開発されています。

・チロシンキナーゼ阻害薬はがんを縮小させる効果が非常に優れています。

・免疫チェックポイント阻害薬は治療効果が長く持続する特徴を持ちますが、免疫関連の副作用があります。

更新:2024.01.25