大腸がんの早期発見・早期治療

富山大学附属病院

光学医療診療部

富山県富山市杉谷

早期大腸がんには症状がありますか?

大腸がんに伴う症状として、腹痛、便秘、下痢、血便、食欲不振、体重減少などがあげられますが、いずれの症状も出現したときにはかなり進行した状態です。また、かなりの進行がんでも症状がないこともあります。早期の大腸がんともなると、症状は全くありません。進行がん(図1a)と早期がん(図1b)の典型的な写真を示します。早期がんでは症状が出ないことが一目瞭然です。

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図1a:進行がんはがんによる狭窄で、便も通らない状態です
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図1b:早期大腸がんは内視鏡でも発見が難しく、症状は全くありません

早期がんは症状がないため、大腸がん検診(便潜血検査)で要精密検査となり、大腸内視鏡検査を受けて発見されるケースが最も多いです。しかし、「2回のうち1回だけ陽性なので大丈夫」「もう1回受けてみたら陰性だった」などの理由で精密検査を避けて通ってはいけません。1回でも陽性であればがんの疑いがあるため、必ず精密検査を受けてください。

どのような大腸精密検査がありますか?

大腸精密検査には、内視鏡検査、CT検査、注腸造影検査がありますが、最も多く行われているのが大腸内視鏡検査です。大腸内視鏡検査を受けて、最も多く発見される疾患が大腸ポリープです。大腸ポリープにはさまざまな形や大きさのものがあり、良性と悪性を区別する必要もあります。内視鏡検査技術の進歩により小さなポリープも発見しやすくなり、発見したポリープを色素染色や特殊光で観察し、さらに約100倍で拡大観察することで、良性と悪性の区別も可能になりました。当院ではこうした技術で適切な診断を行い、安全にかつ完全に切除できるものについては、日帰りでポリープの切除を実施しています。

早期大腸がんの治療法について教えてください

内視鏡診断で早期大腸がんと診断された場合、切除後の再発のない治療を行う必要があります。特に大きさが20mmを超えると、一括して切除することが難しく、取り残して再発する危険性もあります。このような早期大腸がんに対しては、内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)(ESD)で治療を行います。

大腸ESDは2012年に保険適用となった治療法です。胃や食道もESDが行われていますが、大腸のESDが特に難しい理由は、大腸壁の厚みが胃壁の半分くらいの2~3mmしかないことです。このような薄い大腸の表面一部を高周波ナイフで薄く(は)がすこの治療は、慎重で確実な治療技術が要求されます。大腸壁が薄いため、ちょっとした操作ミスで穿孔(せんこう)(腸に孔があくこと)などの偶発症を招く危険性があります。また、大腸がんが存在する部分でも治療難易度が大きく違うため、治療技術に習熟した内視鏡医のいる医療機関で治療を受ける必要があります。

大腸ESDの方法は、まず病変のあるところまで内視鏡を挿入します。大腸がんの周囲をよく観察し、病変の周囲粘膜を高周波ナイフで1周切り離します。粘膜下層に十分液体を注入し膨隆させてから、粘膜下層を高周波ナイフで剥離していきます。この粘膜下層の剥離を効率よく行うために、当院では病変を一定方向に牽引(けんいん)できるS-Oクリップ®(Zeonmedical社)を用いて治療を行います。このS-Oクリップ®による牽引効果で、剥離する粘膜下層の視認性が向上し、治療が安全・確実に行うことが可能になります(図2a~f)。当院ではこの方法を2017年6月から導入し、治療完遂率の向上、手術時間の短縮と、偶発症率の低下を達成しています。

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図2 大腸ESD

当院での大腸ESDは手術前日からの入院を行い、腫瘍(しゅよう)の大きさや出血等の合併症にも左右されますが、平均5日の入院で治療をしています。

大腸精密検査から難度の高い内視鏡治療まで、患者さんの負担が少ない検査・治療を目指し、スタッフ一同サポートしています。

・大腸がんの早期発見には、症状が出てからではなく、便潜血が1回でも陽性であれば「大腸内視鏡検査」を受けましょう。

・大腸ESDは難易度の高い内視鏡治療ですので、治療経験数の多い医療機関での治療をお勧めします。

更新:2024.10.09