涙道閉塞に対する顔に傷がつかない手術治療-涙道閉塞

富山大学附属病院

耳鼻咽喉科

富山県富山市杉谷

涙はどのような働きをしているのですか?

涙(涙液(るいえき))は目の斜め上方にある涙腺(るいせん)から分泌されます(図)。眼球結膜の保護作用や、目についた埃(ほこり)をまばたきによってワイパーのように拭き取る際の洗浄液になります。しかし涙液は多すぎると涙目に、少なすぎるとドライアイになり、いずれも不快な症状となります。余分な涙液はまばたきの際に、涙点(るいてん)と呼ばれる小さい穴から吸い込まれ、涙嚢(るいのう)に入り、そのほとんどが吸収されます。涙嚢で吸収されなかった涙液は鼻涙管(びるいかん)を通り、鼻の中に出ていきます。

悲しくて(嬉しくて)涙が溢れたときに鼻水が出ることがありますが、その鼻水の中には涙点から吸収され、鼻に排出された涙液が含まれていると考えられます。

イラスト
図 涙腺と涙道
涙道は涙点―涙小管―涙嚢―鼻涙管といった涙の通る道です

涙道閉塞はどのように起こるのでしょうか?

涙道(るいどう)(涙嚢に吸収されなかった涙液が鼻へ抜ける通り道)閉塞(へいそく)は女性に多く、男性に比べ女性の方が涙嚢・鼻涙管が細いため、涙道閉塞を起こしやすいことが考えられます。加齢の影響もあります。加齢とともに涙嚢が吸収する涙液は減少します。涙道が閉塞すると、余分な涙液が鼻内に排出されないため、涙嚢に貯留することになります。涙道が閉塞すると涙は行き場がなくなるので、逆流するしかありません。これが流涙(りゅうるい)(涙目)です。

貯留した涙液は流れず停滞したままですので、感染源となります。ここが細菌に感染すると、膿(うみ)が生じ、眼脂(がんし)(目やに)が発生します。さらに悪化すると、目と鼻の間が赤くなって腫(は)れ上がる涙嚢炎を起こします。

加齢とともに白内障になる患者さんがいますが、涙道閉塞があると前述のような感染を起こしやすくなりますので、白内障の治療(手術)が困難になる場合があります。

涙道閉塞はどのような治療法がありますか?

まず検査で涙道閉塞部位を診断します。造影剤を涙点から注入して鼻腔(びくう)に流れるのか、あるいは狭窄・閉塞しているのかが分かります(写真1)。軽度の狭窄であればプロービングといって、シリコンチューブを涙点から挿入、一定期間留置する治療法があります。

写真
写真1 涙道造影
右(矢頭):涙道に閉塞がなく、造影剤はうっすらと見えるのみです
左:涙道が閉塞しているため、造影剤が貯留し閉塞部位がはっきりと分かります

しかし、涙嚢炎を起こすような高度の涙道閉塞に対しては、閉塞部位の上方で涙道を鼻腔に開放する涙嚢鼻腔吻合術(ふんごうじゅつ)(DCR)を行います。DCRは眼科が主に行う鼻外法と、眼科・耳鼻科合同で行う鼻内法があります。

新しい手術法はどんな利点がありますか?

涙嚢鼻腔吻合術の基本は、涙嚢粘膜を切開して広げ、その粘膜を鼻の粘膜に縫合するものです。これまで、涙嚢鼻腔吻合術は鼻外法が主流でした。それは顔から切開するため術野が広く、涙嚢と鼻腔粘膜の縫合が確実に行えたからです。鼻内法も古くから行われていますが、手術操作は狭い鼻腔の中で行うため、鼻外法のように粘膜の縫合は行えず、開いた涙嚢粘膜の上に鼻腔粘膜を重ねるような形で涙道を鼻腔に開放してきました。そのため、開いた涙嚢粘膜が元の位置に戻って閉塞する例があり、鼻外法に比べて、手術の成功率はわずかに低下する傾向にありました。

そこで当科は眼科と共同で、鼻内から粘膜を縫合する手術法を新たに開発しました(写真2)。その成果は英文誌(Acta Otolaryngol.2015 Feb;135(2):162-8)にも掲載されています。鼻内法の最大の利点は、鼻外法で行う顔面の切開創(せっかいそう)がないことです。また手術の成功率も98%と、過去の他施設の報告と比較しても劣ることのない結果です。

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写真2 鼻内から粘膜を縫合する新たな手術法
1.切開し展開した涙嚢粘膜と鼻腔粘膜に針糸を通しています
2.ノットプッシャーという特殊な機器で縫合しています
3.縫合終了し、涙嚢が鼻腔内に広く展開されました
4.シリコンチューブが涙点から涙小管を通り、鼻腔に出ています

涙目でお困りの方はぜひ眼科を受診していただき、涙道閉塞があるようでしたら、成功率も高く顔面皮膚切開の必要ない当院での新しい手術を考えてみてください。

1.涙目の方、目やにの多い方、涙道(鼻涙管)閉塞の可能性があります。治せる病気ですので、まずは眼科を受診してください。

2.涙道閉塞があると、白内障の手術が受けられないことがあります。早めに治療を受けましょう。

3.皮膚切開を必要としない、成功率の高い新しい涙嚢鼻腔吻合術鼻内法がお勧めです。

更新:2022.08.10