障害を受けた脳を守る脳低温療法
福井大学医学部附属病院
集中治療部
福井県吉田郡永平寺町

脳低温療法とは?
脳低温療法は、何らかの原因で障害を受けた脳がそれ以上悪くなることを防止するため、脳だけでなく体全体の体温を低く保つ治療法のことで、低体温療法ともいいます。
この治療は、1963年のヨーロッパで、5歳の子が凍結した水中に20分近くいて体温が24℃まで下がったにもかかわらず、後遺症なく救命されたという報告があり、以後も同様の救命報告が世界でも相次いだため、低体温は脳を保護する作用があるのではないかと考えられ、はじめられた治療です。
どうして低体温が障害を受けた脳にいいのでしょう?
通常、脳が重大な障害を受けた際には脳組織にむくみが起こるほか、脳組織にとって良くない物質が脳組織自身から放出され、どんどん組織が壊されていきます。脳の温度を下げることにより、脳組織があまり酸素を使わなくてすむようになり、脳組織の破壊を食い止めることができるのです。
どんな脳の障害に行われる治療なのでしょうか?
頭部外傷のほか、脳出血、くも膜下出血、蘇生後脳症(そせいごのうしょう)(心肺停止の蘇生後に生じる脳の損傷で低酸素脳症ともいいます)などに行われます。ただし先に述べた脳の障害があっても、血が固まりにくい病気、重症の感染症、妊娠中、血圧や脈が不安定、頭蓋内(ずがいない)出血、心停止する前から意識がないなどの方は行うことはできません。
実際にどのように治療を行うのでしょうか?
脳低温療法は脳に障害を受けた後、速やかに実施します。時間に関しては、さまざまな議論がありますが、4時間以内が1つの目安となります。
具体的な方法は、体表面に水冷式のブランケットを当てて冷却したり(写真)、冷たい輸液を行ったりして、体温を32~34℃程度に下げます。目標の体温に到達したら、約12~24時間その低体温を保ち、その後ゆっくりと体温を戻すことになります。体温を35℃以下に下げようとすると、全身の筋肉の収縮を繰り返して冷えすぎた体を元に押し戻そうとする、シバリングという生体防御反応が起こり、放っておくと患者さんは体力を消耗しきってしまいます。そこで、脳低温療法では、同時に筋弛緩薬、鎮静薬、鎮痛薬を使用します。また、不整脈や電解質異常が生じたり、感染症にかかりやすくなったり、血が固まりにくくなったりなど命にかかわる合併症への注意が必要です。脳低温療法は高度な治療なので、24時間監視体制が整ったICUで実施します。

当院では、年間数例の方が、この治療を受けられますが、後遺症なく社会復帰できるようにスタッフ一丸となって取り組んでおります。
更新:2023.02.25