人にやさしい看護を目指して
福井大学医学部附属病院
看護部
福井県吉田郡永平寺町

当院看護部は、「最高・最新の医療を安心と信頼の下で」という病院の理念のもと「人にやさしい看護」の実践を目指しています。
高度先進医療を行う大学病院を紹介され、来院した患者さんや家族は、治療を受けるために来られたとはいえ、初めての検査・治療に戸惑い、不安も大きいと思います。そのような中、治療の選択や治療後の在宅復帰などに迷う場面も多く見受けられます。このような患者さんや家族の思いに寄り添い、「患者さん主体の意思決定」を支援し、患者さんと家族が望む在宅支援ができるように、日々努力しています。同時に、当院で働く看護職にとっても働きやすい職場環境を整えることを大切にしています。それが、私たちが目指す「人にやさしい看護」です。
当院で開発した新看護提供方式PNS
2009年、当院看護部では、看護師としての適切な判断力と行動力を養い、患者さんに安心・安全で質の高い療養環境を提供することを目的に、看護界初の新看護提供方式Partnership Nursing SystemR(PNS:パートナーシップ・ナーシング・システム)を独自で開発しました。
PNSでは、2人の看護師が1年間パートナーとなり、対等な立場でお互いの特性を生かし連携を図り、お互いに補完し合いながら、担当の患者さんを受け持ちます。また、日々の看護は2人がペアになり行います。新人看護師も以前は入職後2~3週間もすると、1人で行っていた検温や処置、ケア、記録も、PNS導入により2人1組で行うため、目の前で実践する先輩看護師から、患者さんの観察点やケアのポイント、患者さんを支援するコミュニケーションの取り方まで、その臨床判断と看護実践のスキルを学び身につけることができます。そのため、新人看護師のヒヤリ・ハットが激減し、患者さんに安全な看護が提供できるようになりました。さらに、リアルタイムな記録や患者さんを待たせることなく体位変換やケアを行うことが可能となり、定時帰宅やプライベートタイムを楽しめるようになりました。このように、PNSにより、患者さんにとって安全で安心できる、看護師にとっても働きやすい病院になり、全国からPNSを取り入れようと、多くの病院が研修に訪れています。

看護総合力育成プログラム
新人看護師の教育体制
看護師になるには、中学校、高校を卒業し専門過程を経て多くの学習を積んで看護師国家試験を受験し、合格してはじめて看護師となります。しかし、晴れて看護師になっても、すぐに一人前の看護師として仕事ができるわけではありません。新人看護師は、病院に就職し仕事に就くと、学生時代とは違う体験の連続や、高齢化・医療の高度化、医療安全確保など看護師に求められる責任の増大など、緊張の連続で大きなストレスにさらされます。
そこで当院看護部では、看護基礎教育を卒業した新人看護師が、スムーズに臨床の看護師として適応できること、新人看護師の離職を防ぎ総合的な看護実践の能力を育むことを目的に、2008年より各部署をローテーションする屋根瓦方式の研修プログラム「看護総合力育成プログラム」をスタートしました。病棟に配属された新人看護師は、副看護師長を中心としたグループに所属し、グループや病棟の看護師全員から育成のための支援を受けます。病棟や外来などの各部署には、新人看護師の教育を担当するクリニカルコーチを3名置き、部署を離れて行われる看護技術などの集合研修での教育はもちろん、部署に戻り、その技術が安全に1人で行えるようになるまで、新人看護師に直接、または病棟看護師と協力して独り立ちできるようにサポートする体制です。

ローテーションの方法
4月から11月までの8か月間に、2つの病棟と救急部、手術部、さらに希望があれば小児科や神経科精神科、集中治療部なども含めてローテーションします。1ラウンドは13週間、2ラウンドは16週間かけて基本的知識・技術・態度を身につけ、さらに各部署でよく行われる看護技術を習得します。複数の部署をローテーションすることで、多くの体験ができ、また先輩看護師や医師、理学療法士や薬剤師、栄養士といった他職種の職員とのかかわりから社会人としての態度も身についていきます。大学病院ならではの体験を通して、自分がやりたい看護を見つけて自分が勤務したい場所を希望します。
11月下旬に正式な配属部署が決まるまで、同じグループのメンバー同士で励ましあいながら、頑張ります。毎年50名以上の新人看護師が就職し、1グループ4~5名でローテーションをしますが、新人看護師は「どんなにつらいときも、同期の仲間がいたから頑張れた。グループメンバーが支えになってくれた」と話しています。
看護技術習得のための集合研修
新人看護師が1人で、患者さんに安全な看護を実施できるようにするためには、1年間で66項目の看護技術を「1人でできる」レベルまで、看護技術を確実に習得することが必要です。そこで、当院では4月から6月まで毎週金曜に新人看護師全員が病棟を離れ、看護技術習得のための集合研修を実施しています。集合研修では、シミュレーショントレーニングを取り入れ、より臨場感あふれる現場に合わせた研修を実施しています。7月からは月1回金曜日に集合し、講義や演習、グループワークなど、クリニカルコーチ(新人教育担当者)と各専門分野の認定看護師が協力して指導にあたっています。専門的で最新の知識や技術を学習することができます。集合研修で定期的に集まり、ほかのローテーショングループのメンバーと顔を合わすことで、「みんな頑張っている。私も頑張ろう」「元気が出る」と新人看護師には好評です。
日々の現場での教育
日々の各病棟での業務は、当院が開発した新看護提供方式PNSに従い、先輩看護師と新人看護師が2人1組のペアになり、検温などの業務にあたります。そのため、ベットサイドで患者さんの検温や状態を観察するとき、先輩看護師の行う観察方法やケア方法を直接見て、聞いて学ぶことができます。同時に、新人看護師の看護技術が「1人でできる」レベルまで到達しているかを、タイムリーにチェックしてもらうことができることで、新人看護師が早く安全に看護技術を提供できるようになり、そのことが自信にもつながっています。また、新人看護師が1人だけで看護を行うわけではないため、患者さんも安心して入院生活を送ることができます。
このように、新人看護師は教育体制を整えた職場で充実した教育を受けることができます。
「退院後訪問指導」について
患者さんは、病気やその治療により、退院後も継続が必要な薬管理や人工肛門や酸素、おしっこの管などにより、さまざまな医療処置が必要になることがあります。また、入院したことにより身体機能や認知機能が著しく低下し、日常生活に何らかの不都合が生じることもあります。そのような状況が生じても、患者さんが安心して自宅で生活するためのサポートとして、家族の協力や介護保険を中心としたサービスがあります。そして、2016年4月からは、当院の看護師が退院した患者さんの自宅を訪問し、在宅療養ができるようにサポートする「退院後訪問指導」が始まりました。
退院後訪問指導とは
退院後訪問指導とは、人工肛門や在宅酸素療法などの医療処置が必要な患者さんや家族の方が、安心して安全に在宅療養を続けることができるように、退院後1か月間に限り5回まで、病院の看護師が患者さんの自宅を訪問し、さまざまな支援を行うもので医療保険が利用できます。
退院したばかりの不安な時期に、早めに病棟の担当看護師や専門・認定看護師が訪問します。患者さんの病状や個別の問題について十分把握している病棟看護師やその分野のスペシャリストが、自宅で看護を行うことで、患者さんや家族が安心して在宅療養に適応できるようにサポートします。また、地域の訪問看護師が同行することで病院看護師と直接会い、情報を共有し、在宅のケアチームと連携します。

これまでの退院後訪問指導を振り返って
これまでの退院後訪問を行った患者さんとその家族からは、「知った顔の看護師さんに、入院中練習した医療処置が家でもできているか確認しに来てもらえて、安心と自信につながった」という言葉をいただきました。
また、訪問した病院看護師は、「退院後の痛みがコントロールできているか心配でしたが、患者さんと家族がしっかり管理されていることを確認できて安心しました」「入院中は、医療中心の生活を送っていた患者さんが、自宅では医療処置や心身の症状と付き合いながら過ごしている姿を見て、患者さんの日常生活にどのように医療を組み込むと良いのか、という視点で指導しかかわることが重要だ」などの気づきを得ることができました。
これからも、訪問した経験を振り返りながら、継続してより効果的な退院後訪問を行い、在宅療養をサポートしていきたいと思います。
外来受診から退院後まで継続して患者・家族支援を目指す病棟と外来の一元化
団塊の世代が75歳以上になる2025年に向けて、厚生労働省は「ときどき入院、ほぼ在宅」となるように医療改革を進めています。その結果、急性期病院の入院期間は短くなり、これまで入院で行われていた検査や治療、その説明の多くが外来で行われるようになりました。そこで、2016年度より産科婦人科病棟と外来、と神経科精神科の病棟と外来をそれぞれ1つの部署にすることで、外来から入院、退院後まで、同じ部署の看護師が患者さんをケアすることが可能になり、安心して治療や検査を受けていただく体制にしました。
産科婦人科病棟と外来の一元化
産科婦人科外来では、これまでも行ってきた、病棟助産師による妊婦さんの母親学級、産後のお母さんの産後外来や乳房ケアなどはもちろん、外来患者さんの診察介助や、今後どのような治療を受けるか、治療選択の説明などにも立ち会い、患者さんや家族の意志決定の支援を病棟の助産師・看護師が行うようになりました。例えば、医師から、婦人科外来で患者さんが入院して行う手術や、抗がん剤の治療内容の説明を受ける際に病棟の看護師が立ち会うことで、難しい説明内容への補足や治療方法の選択に迷う方、不安の大きい方への精神的サポートなどを行っています。

また、合併症がある方や双子(双胎)などのハイリスク妊婦さんの情報を早めにキャッチし、外来受診時から患者さんにかかわることで、入院後も外来でかかわった看護師が担当することになり、患者さんから「安心する」との声もいただいています。
今後さらに、自宅から外来、入院、退院後の外来通院、自宅での在宅療養と切れ目のない支援を看護師が行えるように目指していきます。
神経科精神科病棟と外来の一元化
神経科精神科病棟では、退院前に患者さんの自宅を訪問し、患者さんが退院後地域生活を送るための支援体制の強化や、就労支援の促進を医師・看護師・精神保健福祉士が連携を取って行っています。
さらに、神経科精神科外来では、退院後も病棟で担当していた看護師が、通院する患者さんや家族に自宅での状況を伺っています。そうすることで、入院前・入院中・退院後まで、一貫して患者さんや家族に寄り添った退院支援・生活支援を目指して取り組んでいます。

更新:2023.02.25