がん患者さんのQOL(生活の質)を重視した多職種によるチーム医療の推進

福井大学医学部附属病院

がん診療推進センター

福井県吉田郡永平寺町

外来・病棟での緩和ケアチームの取り組み

現代の緩和ケアは、2002年にWHOが「患者さんとご家族の持つ身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に対応し、生活の質(Quality of Life)を改善する取り組み(1)」と定義しました。つまり、従来のイメージである終末期医療という位置づけではありません。

当院の緩和ケアチームは、医師、看護師、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカーといった多くの職種で構成されています。がんによる苦痛は診断と同時に対処するべきです。また、治療を行っていく上でさまざまな身体的症状と社会的な状況の変化が生じ、治療を継続することが困難な状況もあります。病気と向き合っている患者さんは1人で抱え込むことが多く、精神的にも不安な状況の中で治療を受けていることがあります。

身体症状、精神症状、社会的な問題などの悩みを緩和していくことは、治療継続に重要な要素でもあり、私たち緩和ケアチームは、各職種が連携し、診断時からの早期から、患者さんの支えとなる環境づくりを行っています。また、入院中のみならず、外来でも切れ目のない緩和ケアを提供できる環境づくりに努めています。緩和ケアチームがサポートすることで、多くの患者さんに悩みが少なく、希望の多いがん治療を提供し、病気があってもその人らしい生活を送れることを目標とし、日々活動を行っています。

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表 福井大学医学部附属病院緩和ケアチーム介入件数

1)World Health Organization:WHO Definition of Palliative Care

通院治療センターでの最新の取り組み

通院治療センターは、がん患者さんの化学療法を外来で専門的に行うことを目的に、2005年5月に開設しました。快適な治療環境を提供するため、2015年8月に外来化学療法室を12床から20床へ増床し中央診療棟2階へ移転しました。治療室は落ち着いた内装とプライベートを配慮した空間を用意し、液晶テレビ付きのベッドとリクライニング椅子の2種類のタイプが選べ、患者さんの希望や病状に合わせた治療環境を提供しています(写真1)。

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写真1 通院治療センターの治療室

センターはがん薬物療法専門医が運営にあたり、がん専門薬剤師、認定看護師が専任し、治療の安全確保と予期せぬ緊急時にも速やかな対応が可能となっております。

また治療ごとに「症状に関する質問票」を患者さんに記入していただき、化学療法ごとの症状のつらさを数値化し、主治医とセンタースタッフが情報を共有するようにしています。言い出しにくい治療のつらさを「患者さん発」の情報をもとに客観的に評価することで、吐き気や痛みに対する支持療法を遅滞なく開始しており、双方向性の医療の提供に取り組んでいます。

リンパ浮腫ケア外来の活動

リンパ浮腫(ふしゅ)とは、「リンパ管の途絶・圧排によりリンパ流が停滞し、リンパ液が組織間に貯留してむくみを生じる状態」をいいます。

私たちは、日常生活の中で上肢や下肢を動かすことが不可欠です。仕事の内容によっては酷使していることも考えられます。リンパ浮腫には、潜伏期間があり、術後にリンパ浮腫に対する指導を受けていても初期症状を見逃し、症状が悪化してから困惑する患者さんも多いです。

リンパ浮腫の治療は、第1に早期発見・治療です。発症6~8週以内の対処が必要であり、悪化を防ぐための一番の方法は、予防です。リンパ浮腫に対する知識を持って、日常生活でセルフケアに心掛けることが必要です。しかし、症状が悪化してしまったときには、専門的な治療が必要になります。

リンパ浮腫ガイドラインによると、乳がん術後リンパ浮腫の治療として弾性スリーブを使用することで、浮腫が軽減したという報告があります。リンパ浮腫に対する弾性着衣の有効性が示唆されています。また、ほかの治療法を加え複合的に介入することにより、さらに改善するとも示唆されています。

当院ではリンパ浮腫ケア外来を開設し(写真2)、早期発見のためのリンパ浮腫に対する情報提供とセルフケアへの支援を行い、浮腫が発症した患者さんに対し複合的理学療法を施行しています。リンパ浮腫ケア外来において、乳がんや子宮がん、前立腺がんなどの治療によって起こるリンパ浮腫に悩まされる患者さんのための治療環境をつくり、患者さんが安心して治療を受けられるように支援していきます。

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写真2 リンパ浮腫ケア外来の活動

参考文献:日本リンパ浮腫研究会編 リンパ浮腫診療ガイドライン 金原出版株式会社

がん相談支援センター

当院は、地域がん診療連携拠点病院で、「がん相談支援センター」を設置しております。「自分のがんについて知りたい」「どの治療を受けるか迷っている」「今後の生活が心配だが、誰に相談すればいいか分からない」「気持ちが落ち込んでつらい」「仕事が続けられるかどうか分からない」など、さまざまな相談に対応しています。

認定がん相談員、医療ソーシャルワーカー、医師、栄養士、薬剤師が連携して相談を受けています。

治療を受けながら仕事を続けたい!を応援します

現在、日本人の2人に1人は「がん」になるといわれ、また働く世代である25歳から59歳でがんになる方も年々増加しています。こうした中、医療の進歩により、治療によって治るがんは多くなってきており、多くのがん患者さんが治療しながら働き続けることができる時代になってきています。

第2期がん対策推進基本計画に「がん患者や家族の就労支援」が盛り込まれ、全国の医療機関でもさまざまな取り組みが始まっています。当院でも、ハローワークの相談員担当の方との連携で「お仕事に関する相談会(毎月第4木曜13:30~15:00)」と、産業保険センター社会保険労務士との連携で「両立支援(毎月第1金曜14:00~17:00、『サロンやわらぎ』にて開催)」を行っています。医療ソーシャルワーカー、がん相談員が対応していますので、がん相談窓口で相談してください。

更新:2023.02.25