神経調節性(反射性)失神を知っていますか?

愛知医科大学病院

総合診療科

愛知県長久手市岩作雁又

神経調節性失神は、どのように起こるの?

失神の頻度(ひんど)は年間1000人当たり6.2人と有病率が高い病気です。失神の原因疾患は大きく分けて、①神経調節性失神症候群(神経調節性失神・血管迷走神経性失神・頸動脈洞(けいどうみゃくどう)失神・状況失神)、②起立性低血圧、③心原性失神(不整脈によるものと構造的心肺疾患に伴うものがある)、④脳血管性失神、⑤その他、に分類することができ、欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインでは、失神全体の60%が神経調節性失神症候群であると報告されています。

採血時あるいはその直後に緊張・痛みで失神する、学校の朝礼、電車の通勤などで長時間立っているとき気分が悪くなって倒れてしまう場合などが神経調節性失神症候群になります。これらは、自律神経の調節の異常が関与しているとされています。自律神経は呼吸や、血圧、脈、胃腸の働きなど呼吸器官、循環器器官、消化器器官などの活動を調整し、24時間働き続けている神経で、体の活動時や昼間に活発になる交感神経と、安静時や夜に活発になる副交感神経があります。

神経調節性失神(反射性失神)は、交感神経の活動が活発になったときに体の過剰な反射により起こるとされています。この反射は誰しもが持っていますが、人にとって合目的性が示唆されています。たとえば、出血に際しても徐脈と低血圧の反射を起こすことが止血の可能性を高め、また、過度の交感神経緊張状態の心臓は、反射により酸素の消費を減少させ、心臓の機能を改善させることで心臓を守る役割が期待できます。このように、この生体の防御機能反射は誰でも有しており、二足歩行で社会生活を営む現代の私たちにとっては、この過剰反応が失神という症状に現れるわけです。

検査法はあるの?

失神の検査は、病歴、身体所見から始まり、心電図(24時間心電図など)、心エコー検査、脳波検査、頭部の画像検査(CT、MRI)などを行います。これらの検査で異常がない場合には、自律神経の異常が疑われ、追加の検査を行います(シンチグラフィーなど)。

神経調節性失神では、ヘッドアップティルト試験を行います。「写真1、2」に示すように、ベッドの上に横になり、血圧計や心電図などのモニター類を装着します。その後、検査台を起こしていき、それに伴い起立姿勢になります。血圧を繰り返し測定し、脈の状態、失神の兆候がないかどうかを判定します。通常の検査で症状が出なかった場合は、薬剤を点滴して検査を行うことがあります。検査時間は1~2時間程度です。患者さんがほかの病気で内服している薬剤の影響がある場合がありますので、検査に当たり、その内服薬を中止することがあります。また、検査中気分が悪くなる場合がありますので、食事を検査の数時間前から摂取しないようにしていただきます。

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写真1 ティルト試験:ティルト台(検査台)で横になり、検査台を起こしていきます
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写真2 ティルト試験:起立姿勢時の写真

治療法はどんなものがあるの?

病気の重症度によって治療法は変わってきます。神経調節性失神の多くは、失神前にふわふわしためまい、目の前が一瞬暗くなる、手がしびれる、呼吸が苦しくなる、お腹(なか)が痛くなるなどの症状(失神前駆症状)が出ることがあります。失神回避のため、前駆症状の出現時にしゃがみ込んだり、横になったりするのが効果的ですが、立ったまま足を動かす、足を交差して組む、両腕を組みひっぱり合うなどの方法があります。また、弾性ストッキングの着用や、自宅でもできるティルトトレーニング(起立調節訓練法)などがあります。

これらの治療は失神の再発予防に有効ですが、継続を怠ると再発する場合があります。また、重症度が高い場合は、薬の投与、あるいはペースメーカー治療を要する場合もあります。

プライマリーケア・総合診療科って何ですか?

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写真3 プライマリケアセンターでは、診察室(常時稼働5~6診)・点滴・観察室を有し、全人的医療を行っています

プライマリーケアとは、良好な「医師―患者」関係をもとに「身体―精神心理―社会生活面」の相互関連を診ながら総合的・全人的にアプローチしていく医療です。総合診療科は、原因が明確でない症候のある患者さんや、複数の臓器にまたがるような疾患を持つ患者さんの診療に、幅広い知識を駆使して医療面接、診断および初期診療などのプライマリーケアを行っています。当院のプライマリケアセンターでは、初診時に罹患臓器を特定できない患者さん、いろいろな問題を抱えている患者さんなどを積極的に受け入れており、専門各科と連携して診療を行っています。

更新:2024.10.29