わずかに残った白血病細胞を調べる「MRD測定」で、より良い治療を提供

愛知医科大学病院

小児科

愛知県長久手市岩作雁又

急性リンパ性白血病が治る病気になった理由

以前、白血病は不治の病の代表として、多くのドラマや報道で扱われてきました。今でもそのイメージは強く、命を落とす患者さんもいます。しかし実際は、白血病(特に急性リンパ性白血病)の治療は、近年めざましく進歩したおかげで、まさに、治る病気の仲間入りを果たしたといっても過言ではありません。

急性リンパ性白血病は、圧倒的に小児の患者さんが多く、年間約700人が発症しますが、現在その5年生存率は80%を超えています。その治療成績の向上の原動力となった技術の1つに「微小残存病変(びしょうざんぞんびょうへん)〈MRD(エムアールディー)〉測定」があります。この技術は、治療の後でわずかに残った白血病細胞量を測定するもので、その結果によって治療のメニューを最適に調整することができます。

白血病細胞は顕微鏡で見えなくなっても、まだ残っています

治療前は約1兆個あるといわれる白血病細胞は、治療がうまくいくと、どんどん減っていき、顕微鏡で見えなくなります。これを寛解(かんかい)と呼びますが、実はまだ約10億個が残っているといわれています(写真)。ここで治療をやめると必ず再発をきたしますので(図1)、わずかに残った白血病細胞を根絶するために、抗がん剤治療を続ける必要があります。これまでの研究で、残っている白血病細胞、すなわちMRDの量によって、その後の再発率が異なることが分かってきました。したがって、たくさん残っている患者さんに対しては、再発を防ぐためにより強い治療を行います(図2)。

写真
写真 寛解時の骨髄は正常ですが、顕微鏡では確認できない白血病細胞が残っています
グラフ
図1 顕微鏡では見えない白血病細胞をMRDと呼び、多いほど再発しやすくなります
フローチャート
図2 MRDの量によって化学療法の強さを調節し、最適な治療を選択します

現在、MRDは、再発を予測する強力な因子として広く役立っています。

患者さんごとに異なる白血病細胞を遺伝子レベルで同定します

正常なリンパ球は、免疫を司(つかさど)るための遺伝子(免疫受容体遺伝子(めんえきじゅようたいいでんし))にさまざまな変化(再構成(さいこうせい))が生じ、細菌やウイルスなどの外敵に対応できる力を身につけます。この遺伝子はそれぞれが違う指紋(遺伝子の構成要素)を持ち、リンパ球によって異なります。一方、白血病細胞はある1個の細胞が無秩序に増えたものですので、すべて同じ遺伝子の指紋を持っています。MRD測定の際には、白血病細胞の遺伝子の指紋を調べて明らかにし、それを手がかりにして、どれだけ白血病細胞が残っているかを調べます。

国内で2か所しかない先進医療認定施設

MRD測定はヨーロッパで研究開発が進み、世界中に広まっています。しかし、検査方法の複雑さなどの理由から、一般の検査会社では行うことができません。国内では、当院を含めた2つの施設でのみ検査が可能です。

当院では、2007年からヨーロッパの研究グループと連携し、国内で初めて国際的な研究ネットワークへの参加資格を取得したことで(図3)、世界水準の検査精度を確立しました。それが認められて、現在は高度先進医療の検査施設として、全国から送られてくる急性リンパ性白血病の患者さんの検査を行っています。MRD測定は、すべての白血病患者さんに、より良い治療を受けていただくために行われています。

図
図3 ヨーロッパ諸国を中心に世界中の研究室が参加して研究を行っています

更新:2024.01.26