ホルモンの治療に年齢や性別が関係ありますか?大人でも成長ホルモンが必要なのですか?

愛知医科大学病院

内分泌・代謝内科

愛知県長久手市岩作雁又

どうしてホルモンの病気になるのですか?

脳の中心の少し下の部分は、間脳(かんのう)と呼ばれます。この間脳のすぐ下には、下垂体(かすいたい)という小さな突起があります。間脳は、生命活動の三本柱である、食欲・睡眠・性行動、そのほかにも自律神経、体温、口渇感などのコントロールセンターであり、人間の行動や体の働きを24時間調節しています。一方、下垂体は、間脳から命令を受けて、成長ホルモンなどのさまざまなホルモンを作る分泌腺です。下垂体から分泌されたホルモンは、血液の流れに乗って、体の隅々まで運ばれ、卵巣を刺激すれば女性ホルモンを、精巣なら男性ホルモンを、甲状腺では甲状腺ホルモンを分泌させます(図1)。そのほかにも、いろいろなホルモン分泌臓器があり、体内では100種類以上のホルモンが作られています(図2)。

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図1 間脳下垂体は、人間の生命活動を制御しています。間脳には、いくつもの重要なセンサーがあり、下垂体のホルモン分泌をコントロールすることにより、全身を管理しています
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図2 全身には、さまざまなホルモン分泌臓器があります。このほかにも、筋肉、脂肪、骨など多くの場所でホルモンや、ホルモンのような物質が作られます

間脳や下垂体の腫瘍(しゅよう)、炎症、また強いストレスは、これらホルモン分泌のコントロール異常を起こします。また、間脳・下垂体から命令を受ける各種の分泌臓器そのものが、腫瘍や炎症を起こすことによっても、ホルモン分泌の異常が起き、さまざまな病気を引き起こします。

どのような症状が出ますか?

ホルモンは、種類によって働きが異なります。また、同じ種類のホルモンでも、年齢や性別によって、分泌量や効果が変化します。成長ホルモンは、成長期にたくさん分泌され、子どもの骨を縦に伸ばし、成長と発達を促します。成人した後も分泌されますが、その量は子どもの頃に比べれば少なくなります。大人の骨はすでに完成しているため、長さは伸びません。代わりに、成熟した大人の、太く丈夫な骨を維持します。骨以外にも、筋肉の増強、脂肪や糖質の代謝など、さまざまな働きがあります。成長ホルモンの分泌が不足すると、筋肉量の減少、体脂肪の増加、骨・脂質・血糖の異常のほか、疲労感、集中力低下、抑うつなどの精神症状が現れます。子どもの成長ホルモンの不足は、低身長を起こすため、周囲が気づくことが多いのですが、成人の場合は老化現象と間違えられて、見過ごされがちです。また逆に、成長ホルモンの分泌が多すぎると、成人では、顔かたちの変化、睡眠時無呼吸、関節の痛み、糖尿病などを起こします。男性ホルモンも、成長ホルモンと似た作用を持っています。不足すれば、筋力や性力の低下などが起こります。

ホルモンは、決して休むことなく分泌され続けていますが、その量はほんのわずかです。例えば、一生の間に分泌される女性ホルモンの総量は、ティースプーン1杯程度とされます。このうちの、ごく小さな乱れが、無月経や骨粗(こつそ)しょう症による骨折などの、深刻な病気を起こします。

どのような検査や治療がありますか?

まず、血液検査が必要です。ホルモンを刺激する物質を注射、または内服して採血を行い、血中のホルモンの分泌量が、どのように変化するかにより診断します。血中のホルモンの濃度は非常に低く、時間帯・食事・体位などにより、分泌の状態が変化します。このため、安静・空腹など、各種ホルモンの分泌が影響されない状態で検査を行います。また、ホルモンを分泌する臓器の画像検査も行います。必要に応じて、超音波、CT、MRI、シンチグラムなどを選びます。下垂体からのホルモン分泌が障害された状態を、間脳下垂体機能障害と呼びます。重症であれば、厚生労働省の指定難病に該当します。治療の基本は、分泌の乱れを正常に戻すことです。ホルモンが不足していれば補充を、過剰であれば抑制をします。治療に使われる薬の多くは、ホルモン製剤です。内服や注射により、ホルモンのバランスを、各患者さんにとって最適な状態に回復させ、維持します。

専門医の多様な視点から病気を診る

例えば甲状腺なら、バセドウ病は100人に1人、橋本病や甲状腺腫瘍は5~10人に1人と、とても多い病気なのです。特殊な病気ではないのですが、時にほかの病気の原因となり、また合併症として発病します。患者さんの体は1つですが、病気は1箇所だけ診ればいいものではありません。遺伝や体質、精神にも関係します。

私たち内分泌・代謝内科専門医は、全国で2000人余りと内科のなかでとびきり少ないので、馴染みがないかもしれませんが、臨床遺伝・糖尿病などの専門医でもあり、さまざまな視点から診察し、遺伝のことで悩む方の遺伝カウンセリングも行います。現在診察中の下垂体機能低下症の患者さんは、東海・北陸・近畿・中国・四国エリアで最多数、全国4番目です。このようなすべての患者さんに応えることが、私たちの願いです(表)。

主な症状 原因となり得る病名
倦怠感、低血圧、勃起障害、無月経、多尿、女性化乳房など 下垂体前葉機能低下症、尿崩症、中枢性肥満症、巨人症、先端巨大症、クッシング病、低ゴナドトロピン性男性性腺機能低下症、女性化乳房、神経性食欲不振症など
動悸、疲労感、不眠、傾眠、脱毛など バセドウ病、橋本病、亜急性甲状腺炎、甲状腺ホルモン受容体異常症、甲状腺腫瘍など
低身長、体型異常、骨密度低下など 骨粗鬆症、骨形成異常、副甲状腺機能亢進症または低下症、偽性副甲状腺機能低下症、骨軟化症など
倦怠感、低・高血圧、低血糖・糖尿病など 原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、副腎腫瘍、アジソン病など
思春期欠如、性器発達異常、肥満など クラインフェルター症候群、カルマン症候群、特発性など
ホルモン異常を伴う遺伝に関する悩み 染色体異常症(ターナー症候群、ダウン症候群)、遺伝子変異(多発性内分泌腫瘍症、家族性高コレステロール血症、乳がんなど)、プラダーウィリー症候群など
表 内分泌・代謝内科で診察する疾患

更新:2022.03.16