脱腸(鼠経ヘルニア)は身近な病気ですが、治療について教えてください

愛知医科大学病院

消化器外科

愛知県長久手市岩作雁又

鼠径ヘルニアだと思います。どうすればいいですか?

鼠径(そけい)ヘルニアは若年者、特に子どもに多い病気ですが、人口の高齢化に伴い成人にも非常に多くなっている病気です(国内では年間16万人の方が手術を受けています)。

鼠径ヘルニアは、子どもと成人で原因も治療法も違ってきます。いずれにしろ薬を飲んで改善することはなく、成人では、自然に治ることはありせん(子どもの場合は、まれに自然に治ることもあります)。鼠径ヘルニアでお悩みの方や鼠径ヘルニアかな?と思われた方は、悩まずにできるだけ早く診察を受けてください。

鼠径ヘルニアは手術が必要ですか?

鼠径ヘルニアは、太ももの付け根(鼠径部)からお腹(なか)の臓器が脱出して膨らむ病気です(図1)。

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図1 鼠径ヘルニアの現れる部分

症状は、鼠径部の腫(は)れとともに違和感や痛み(子どもは機嫌が悪かったり、泣き止まなかったりします)が現れます。お腹の臓器が嵌頓(かんとん)(はまり込んでしまうこと)すると緊急手術が必要です(図2)。

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図2 緊急手術が必要なヘルニア嵌頓

成人の鼠径ヘルニアには、どのような治療をしますか?

成人の鼠径ヘルニアは加齢とともに鼠径部の組織が弱くなり、弱くなった部分から腹膜の一部が袋状に脱出し、鼠径部に皮膚が腫れ上がります。

治療は、弱くなった組織を人工物(ポリプロピレン製メッシュ)を使って補強します。当院ではしっかりした診断の上、痛みが少なく、両側の鼠径部のヘルニアも治すことができる腹腔鏡(ふくくうきょう)(細い管(くだ)の先端にカメラがついた手術器具)による手術を積極的に行っています(手術時間は1時間15分程度が多い、写真1)。

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写真1 鼠径ヘルニアの腹腔鏡治療

子どもの鼠径ヘルニアには、どのような治療をしますか?

子どもの鼠径ヘルニアは小児外科で最も多い病気で、先天的な要因で発症します。治療は手術ですが、成長過程にあることや、成人のように体の組織が弱くなることが発症の原因ではないため、人工物は使わずにヘルニア囊(のう)を閉じる手術を行います。

当院では、腹腔鏡を用いて、へそのしわに隠れる創(きず)が1か所のみで手術を行い、反対側の鼠径部のヘルニアの有無の確認と予防的に手術を行うことも可能です(手術時間は20分程度、写真2)。

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写真2 子どもへの腹腔鏡治療

鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡治療のメリットは何ですか?

以前は、鼠径部を切開して治療していましたが、最近では腹腔鏡を用いた手術が行われるようになってきました。腹腔鏡のメリットは手術創が小さく、術後の痛みも少ないため、早期に退院・日常生活を送ることができるようになることです。

当院では、2015年4月~2016年3月の1年間で159人の患者さんに手術を行いました。腹腔鏡治療は、小児外科や内視鏡外科の資格を持ち、十分な経験があるエキスパートが外科治療を行っています(写真3)。

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写真3 十分な経験があるエキスパートが執刀

鼠径ヘルニアの治療法は手術だけです

鼠径ヘルニアは、腸が嵌頓し、壊死(えし)すると命にかかわります。鼠径部が腫れていることに気がついたときは、すぐに病院を受診しましょう。

鼠径ヘルニアは、手術しか治療法はありません。以前は、鼠径部を切開して治療していましたが、最近は、痛みが少ない腹腔鏡治療を導入する病院が増えています。腹腔鏡治療は、医師の手術技量によって患者さんの負担が軽減されるので、内視鏡技術認定医を取得した医師に執刀してもらうのがお勧めです。

更新:2022.03.14