食物アレルギーの予防・治療

浜松医科大学医学部附属病院

小児科

静岡県浜松市東区半田山

アレルギー疾患とは?

アレルギー疾患(食物アレルギー・喘息(ぜんそく)・鼻炎など)の原因の1つに、乳児期のアトピー性皮膚炎があることが知られています。アトピー性皮膚炎をしっかり治療して、その後のアレルギー疾患の発症を予防する必要があります。

また、食物アレルギーは少しずつ食べていくことで予防や治療になります。併存する喘息や鼻炎のコントロールも重要です。全体をトータルケアしてアレルギー疾患を克服しましょう。

食物アレルギーの原因

食物アレルギーの原因メカニズムは、まだ未解明な部分が多いです。ただ、原因となりやすい食品はある程度決まっています。米や野菜で食物アレルギーになることはまれで、卵や牛乳、小麦、近年ではナッツ類やピーナッツ、魚卵が増えています。

また、「図1」の通り、①アトピー性皮膚炎(炎症のある皮膚についたものは敵と勘違いしてしまいやすいため)、②環境アレルゲン(家族や実家の人が定期的にアレルギーが起こりやすい食品を食べており、ホコリと一緒になって部屋に成分が残るなど)、③本人は食べていない、の3つがそろうと、その食品にアレルギーを起こしやすくなります。

図
図1 食物アレルギー発症の原因と対策

具体的なイメージとしては、赤い皮膚に、ホコリの中の鶏卵などがつくと敵と考えてしまい、アレルギーのアンテナであるIgE抗体が作られます。一方、対策として少しずつ食べていくとそれが敵ではなく栄養と覚えるため、アレルギーの治療や予防となります。そのため、原因を断つこと、食べて慣れていくことを並行して行っていくことが重要と考えられています。

少しずつ食べて慣れる治療

2000年前後は、除去することで食物アレルギーを治そうと考えるのが主流でした。しかし、少しずつ食べていく方が、除去をするよりも早く食物アレルギーが治ることがわかってきました。

ただ、少しずつ食べるのも、年単位で継続する必要があり、安全に継続しやすい方法で行うことが重要です。食物アレルギーの治療も重要ですが、社会生活のバランスを崩しては元も子もありません。患者さん本人に寄り添った継続しやすい治療方針を立てていく必要があります。そのために重要なことは、重症度を知ることです。既往歴(今までにどのくらい食べてどのようなアレルギー症状が出たか)や血液・皮膚検査をもとに、ある程度わかることもあります。

一方、それでわからないときは、食物経口負荷試験(しょくもつけいこうふかしけん)(病院で実際に食べてもらう)を行います。

実は、口腔粘膜(こうくうねんまく)の吸収による症状(食べた直後に、口の中や喉がイガイガする、顔にじんましんが出ただけなど)は、重症度とは関係しません。そのため、この症状だけで不必要に完全除去をする必要はありません。

ただ、イガイガすると、食べていく治療のときに患者さんが嫌がってしまいますので、食べ方を工夫する必要があります。また、ある程度の量が摂取可能とわかれば、加工品を食べることができ、それも治療となります。少しずつ生活の幅を広げながら、本人・家族と一丸となり、治療していきたいと考えています。

食物アレルギーの予防

乳児期に鶏卵・牛乳・ピーナッツアレルギーを予防するために、生後1~6か月頃から食物の摂取開始・継続していくことが、食物アレルギーの発症を予防することがわかってきました。とはいえ、ピーナッツを生後1か月から食べるのは難しく、粒のまま食べさせて窒息してはいけません。また、すべての食品を食べさせようとするのはとても現実的ではなく、全員がそれをする必要もありません。

その対象となるのが、特に「図1」の①に示したアトピー性皮膚炎の乳児です。

かゆみ・かき傷のある湿疹があれば、アトピー性皮膚炎を積極的に疑いましょう。そして疑いが強いと考えたら、鶏卵や乳製品を生後5~6か月から少量ずつ食べ始めることで、食物アレルギーを予防していきましょう。

ピーナッツを家族が週に何回も食べている家庭では、欧米のガイドラインと同じく、ピーナッツバターを水で溶かして食べていくなどして予防することも大切かもしれません。ただ、食べさせていくのが大変な場合、家族や頻繁(週に1回程度)に行く実家の人がピーナッツを食べるのをやめてしまえば、ピーナッツアレルギーとなる原因を断つことになるかもしれません。家庭の状況次第で相談していきましょう。

イラスト
図2 アレルギーになる状況

また、鶏卵アレルギーと診断されて、食べる治療を始めた患者さんも、ほかの食物アレルギーを合併しないか、そして、今後発症しないかを並行して考えていく必要があります。アトピー性皮膚炎の治療、食べる治療、今後発症するかもしれない食品を予防など、トータルケアが必要になります。どこに力をいれて、どこは楽ができるのか、患者さん本人だけでなく、保護者の方にも負担にならないよう効率の良い診療をめざしたいと考えています。

更新:2023.10.26