口腔がん—正しい知識で怖れず、侮らず
浜松医科大学医学部附属病院
歯科口腔外科
静岡県浜松市東区半田山
口腔がんとは?
口の中にできる「がん」を口腔(こうくう)がんと呼びます。できる場所によって、舌にできる舌(ぜつ)がん、歯茎にできる歯肉(しにく)がん、ほっぺたの内側にできる頬粘膜(きょうねんまく)がん、上顎(じょうがく)の歯の内側にできる硬口蓋(こうこうがい)がん、舌と下の歯の間にできる口底(こうてい)がんに分けられます(図1)。
「口腔癌診療ガイドライン」2019年版によると、日本での口腔がんの割合は、全がんの約1%であり、舌がんが60%で最も多いです。男女比では3対2で男性に多く、年齢では60歳代が最も多いです。最近の超高齢化社会の到来に伴って患者数が増加している傾向があります。
口腔がんの症状と診断
口腔がんの初期は、食事のときに熱いものや辛いものが痛い、しみるなどといった口内炎のような症状が2週間以上続く場合が多く、このような症状は要注意です。さらに、ただれやできものが次第に大きくなることが特徴です。
口腔がん専門医を受診し、がんが疑われた場合、できものの一部を切り取って顕微鏡検査で確認します(これを病理組織検査といいます)。
がんであれば、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断)、PET(ポジトロン断層撮影)などの画像検査で、がんの大きさ、首や体全体への進行(転移といいます)を検査します(図2)。
口腔がんの治療とその後
検査結果をもとに治療方針を決めます。その際、がんの状態(大きさや転移があるかどうか)、患者さんの年齢やほかの病気があるかどうかはもちろんのこと、患者さんの社会的背景(仕事や生活環境など)も十分に考える必要があります。
口腔がんは命にかかわる病気ですが、がんを治しても、食べたり、話したりできないのでは困ります。治った後も、患者さんができるだけ元の生活に戻れるような治療法を選ぶことが大切になります。
口腔がんの治療法は、手術と放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の3つで、それぞれを単独、または組み合わせて行います。
手術は、小さな早期がんであれば手術時間も数十分程度ですが、首にリンパ節転移がある場合は、首のリンパ節を脂肪、筋肉、血管と一緒に切り取る手術を合わせて行う必要があります。さらにがんが大きい場合は、舌がんであれば舌の半分以上を、下顎歯肉がんであれば下顎骨を合わせて切り取ることもあります。
もちろん、舌や顎の骨がなくなれば食べたり喋ったりできなくなり、このままでは普通の生活は望めません。このため、腕や太もも、足のすねから皮膚や筋肉、骨をもってきて、舌や顎を作る必要があります。この手術は形成外科との合同手術となり、10時間を超える手術となることもあります。
放射線治療も有効であり、手術よりも優先させる場合もあります。繰り返しになりますが、大切なことは、手術と放射線治療の長所と短所を患者さんと十分に話し合い、がんの状態、社会的背景、患者さんのニーズなどを、総合的に判断することです。
また最近では、以前からの抗がん剤に加えて、分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)、免疫チェックポイント阻害剤などの新薬が口腔がん治療に使われてきています。今後はさらに治療法の選択肢が広がっていくことが予想されます。
小さな手術であれば、手術の後すぐに元の生活に戻れます。一方で、大きな手術の後は、食べたり話したりするためのリハビリテーションが必要になります。
治療後は定期的に通院してもらい、再発がないかどうかの様子を見ていきます。
口腔がんの早期発見のために
口腔がんは、がんの種類でいうと90%以上が扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんというタイプになります。「上皮」、つまり口の粘膜の表面からできてくるため、本来は発見しやすいのです。
しかし、初期の口腔がんは、いわゆる口内炎や、入れ歯、虫歯によるすり傷によく似ており、口腔がん専門医でも一目見ただけでは診断に困る場合があります。
口内炎であれば2週間程度で自然に治りますし、入れ歯や虫歯によるすり傷も、入れ歯の修理や虫歯の治療をすればこれも2週間程度で治ります。2週間たっても良くならないどころか、悪くなるようなできものは、がんである可能性があるため、速やかに歯科口腔外科や耳鼻咽喉科を受診することが大切です。
また、口腔がん検診なども積極的に受診することをお勧めします。早期がんであれば、5年生存率は90%以上ですが、進行がんでは70%程度に低下するため、早期発見、早期治療は大切なのです(図3)
更新:2023.10.26