早期乳がんに対する、整容性と根治性を両立させた乳房温存療法(オンコプラスティックサージャリー)

藤田医科大学病院

乳腺外科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

オーダーメードの乳がん手術

乳房温存手術は、乳がんに対する標準治療として1990年代より国内でも普及してきました。がん周囲の組織を切除し、乳房の皮膚、乳頭乳輪、残りの乳腺組織が残る、文字どおり乳房を温存することが可能な手術方法です。しかし、手術後に手術をした側の乳房が変形してしまうことや、対側の乳房とのサイズ・形・大きさの差が生じてしまうことが問題となっていました。一方欧米では、乳房温存手術時に、形成外科的要素を取り入れた「オンコプラスティックサージャリー」の実施、研究が普及しました。

私たちは、2004年よりこのオンコプラスティックサージャリーの研究に着手し、現在までに、オーダーメードの乳がん手術を提供できるようになりました。当院では、2018年12月より早期乳がんに対する、整容性と根治性(こんちせい)を両立させた乳房温存療法を提供しています。

手術の対象

  • 乳房温存の適応があると診断されていること。
  • 追加切除や乳房切除への変更、再度の手術実施の可能性があることを理解し、了承していること。
  • 形成手術の種類、長所および短所を理解できていること。
  • 乳房外組織充填あるいは健側乳房への手術に関する臨床研究の内容を理解し、文書による同意を得られていること。
  • 乳がんの治療とともに、整容性観察のために当院への外来通院が可能なこと。

根治性と整容性を考慮した乳房オンコプラスティックサージャリーの種類と適応

患者さんの体型、乳房の状態(下垂(かすい)しているか、脂肪性か)、皮膚の状態(やわらかいか、厚くしっかりしているか)などから「図1」に示すような治療法①②を選択していきます。

フローチャート
図1:整容性を考慮した乳がん手術
①立って乳房を観察したときに、乳頭位置が乳房下溝線(ブラジャーのワイヤーのあたる部分で最も下に位置するライン)よりも上に位置する乳房下垂のない場合:
欠損部分を乳房外組織で修復するオンコプラスティックサージャリー
②乳頭位置が乳房下溝線より下にある乳房下垂のある場合:
乳房縮小手術・乳房固定術の要素を取り入れたオンコプラスティックサージャリー

①乳がん手術をしたことを感じさせない左右対称性を保った乳房温存手術

乳がんができている場所、切除しなければならない場所に応じて、切除後の欠損部分を乳房外の組織(皮膚の一部や、皮下脂肪など)を用いて修正をします。健側(乳がんになっていないほうの乳房)と同じ大きさ、形の乳房となることを目標として、手術前に綿密なデザイン、計画を立てていきます。左右対称となる乳房を再現できるように、手術前の写真を参考に手術を進めていき、仮縫い→確認→修正を手術中に行います(図2~3)。

写真
図2:乳房温存手術 手術前のデザイン・術中の様子
イラスト
図3:乳房下垂のない乳房の右乳がんの術前、術後8年(B.C)

②術前よりも美しく、患者さんの体型を意識した乳がん手術

乳房縮小手術(乳房を小さくする手術)や乳房固定手術(下がってしまった乳頭乳輪を頭側に持ち上げる手術)は、もともと乳房の大きな女性が多い欧米では古くから美容目的に行われてきました。その手術手技を乳がん治療時にも導入すると、がん周囲の安全域を十分に切除できる、がんの取り残しが懸念されるために実施される追加切除の率が下がるとの研究成果が報告されています。欧米人ほど乳房が大きくはない日本人女性に対しても、この手術手技は応用が可能であることをこれまで実証してきました。

下垂した乳房の乳がん切除と同時に、形を整え、乳頭の位置を修正すると、術前よりも美しい乳房を提供することができます。症例によっては、左右対称性を維持するための対側乳房への手術を導入することで、より整容性に優れた乳房温存手術が実施できるようになりました(図4、5)

イラスト
図4:左乳がんの術前、デザイン、術後2か月
イラスト
図5:右乳がんの術前、デザイン、術後6か月

更新:2022.03.08