硝子体手術による網膜疾患の治療

藤田医科大学病院

眼科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

硝子体手術とは

眼球はカメラのような組織であり、レンズ(水晶体)とフィルム(網膜)と視神経が重要な部分です。水晶体の病気のほとんどは白内障であり、特殊な眼を除き容易な手術で回復できます。網膜の病気は治療が困難でしたが、最近になって新しい薬物と硝子体手術(しょうしたいしゅじゅつ)によって回復できるものも増えてきました。

硝子体手術とは、眼球に小さな孔(あな)を開け、そこから眼内の組織、つまり硝子体や網膜、病気によりできた増殖膜の処理を行う手術です。眼科の手術では最も難易度が高いといわれています。眼球の中を顕微鏡で見ることは容易ではないので、当院で開発された広角顕微鏡が世界で広く用いられています。また眼内の組織は光を通す必要があるため透明であり、顕微鏡でも確認しにくいのです。これも当院で創始された眼内組織染色手術が有効です。色素により透明な組織を可視化する手技が世界中で用いられています。さらにこの手術はミクロン単位の手術であり、麻酔が重要です。当院で開発された経テノン囊球(のうきゅう)後麻酔により眼球の動きは抑制され、ほぼ無痛で行うことができます。

このように当院では硝子体手術の重要な三要素、手技、器具、麻酔の開発に成功し、世界に広めた実績があります。最近ではアメリカで開発された3D手術も導入し、三要素をさらに発展させて最先端の硝子体手術を行っています(図1)。当院での硝子体手術件数は年間1500件前後であり、日本でも3本の指に入ります(『週刊朝日MOOK手術数でわかるいい病院2004〜2020』朝日新聞出版、2004〜2020年)。

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図1:眼球の構造と網膜硝子体手術

黄斑上膜と黄斑円孔

網膜の中心部を黄斑部(おうはんぶ)と呼びます。私たちはこの部分を用いて文字を読み、人の顔を判断したりします。すなわち、物を見る上で最も重要な部分であるといえます。黄斑上膜、黄斑円孔(えんこう)と加齢黄斑変性が頻度(ひんど)の高い病気です。

黄斑上膜、黄斑円孔は手術により治療します。これらの疾患はクリニックでも断層撮影(OCT、図2)にて容易に診断できます。黄斑上膜は加齢などにより、黄斑部に増殖膜がはることがあり(65歳以上で30%)、その膜が収縮すると、物が歪んで見えたり、物が大きく見えたり、視力が低下したりします。症状が出た場合にはこの膜を手術で剥(は)がす必要があり、硝子体手術を行います。当院では年間400件ほどの黄斑上膜の手術を行っています。

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図2:断層撮影

黄斑円孔は黄斑部に孔が空く病気です。見ようとするところが見えないことになり、視力は低下します。これも硝子体手術で治療します。両疾患では数ミクロンの透明な膜の剥離(はくり)が必要であり、眼内組織染色を行います。年間に150件の黄斑円孔手術を実施しています。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症は、糖尿病に罹患(りかん)後10年ほどで発症するとされる病気です。国内の失明原因のトップ3に入っています。網膜の血管の異常からはじまり、黄斑浮腫(ふしゅ)や、硝子体出血、網膜剥離を起こして視力が低下します。網膜はカメラのフィルムの役割をしているので、網膜の中に水がたまったり(浮腫)、網膜下に水がたまったり(剥離)すると見え方は悪化することになります。

また、眼内に出血すれば(硝子体出血)、光がフィルムに届かず、視力は悪くなります。網膜浮腫を治療するためには、新しい薬物(抗毛血管成長因子抗体)を眼内に投与する方法を行います。当院では3種類の薬物を使用することができるため、反応を見ながら薬物を選択しています。薬物が無効な場合には、レーザー光凝固や硝子体手術を行います。薬物が無効な眼は網膜上に膜ができていることがあり、これは眼内組織染色法により除去できます。硝子体出血は硝子体手術により取り除かれます。

糖尿病に起きる網膜剥離は、網膜の上に張った増殖膜により網膜が引っ張られて脈絡膜(みゃくらくまく)から剥がれてしまう状態(牽引(けんいん)性網膜剥離)であり、著しい視力低下を起こします。失明の一歩手前です。これも広角顕微鏡と眼内組織染色法で膜を剥がすことにより治療できます(図3)。

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図3:硝子体手術

網膜剥離

網膜剥離は網膜に孔が空いて起きる裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離、ぶどう膜炎などにより液が網膜の下に染み出して起きる滲出性(しんしゅつせい)網膜剥離と糖尿病などによる牽引性網膜剥離があります。網膜が剥離すると網膜は光を捉える機能を失い、物が見えなくなります。最も頻度が高いのは、裂孔原性網膜剥離であり、当院では年間300件ほどの網膜剥離手術をしています。

裂孔原性網膜剥離の治療は、強膜内陥術(きょうまくないかんじゅつ)と硝子体手術で行われます。網膜の孔はあらゆるところに空く可能性があるので、当院で開発された広角顕微鏡が極めて有利です。網膜の隅々まで見ることができ、孔を見落とさないのです。また、本来透明である硝子体を眼内組織染色で染色することにより、硝子体は視認できるようになり完全に除去できます。これにより、網膜剥離手術は99%以上の治癒率を達成しています(図4)。

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図4:裂孔原性網膜剥離

更新:2024.10.09