外科 治癒の可能性を求めて-高難度がん手術への飽くなき挑戦

中部ろうさい病院

外科

愛知県名古屋市港区港明

がん手術の進歩

がん手術は進歩してきました。正確で細かい解剖が理解され、安全で効果的な手術方法が考えられてきました。多くの手術で一定のレベルを満たす、定型化された手術が行われるようになってきています。

しかし、大きながんや広範囲のリンパ節へ転移しているがん、周囲組織へ広く及んでいるがんなどの手術では、視野が狭くなり見たいところが思うように見れず、操作スペースが限られ、血管や組織を切るための距離の余裕がなくなります。安全な手術操作が行えなくなり、手術の危険度が上がります。そのような状況下で重要な血管や臓器を温存しながら、いかにがんを取り切るように手術を行うか――。私たちは持てる知識・経験・技術を総動員して、忍耐強く手術を進めています。

一方、化学療法も進歩してきました。化学療法を用いてがんが縮小し、周囲の血管や臓器との間に距離ができると切除可能になります。また、がんの転移や再発があっても化学療法でがんの勢いを制御でき、がんの及ぶ範囲が限定されていると判断できるとき、治癒をめざして転移巣や再発巣と周囲臓器を一緒にして、切除するケースがでてきました。

化学療法後は組織間の線維が固く太くなり、むくみも生じます。そのため組織の境が分かりにくく分離しにくくなります。がんの及んでいる範囲も不明瞭になったりします。また、化学療法の副作用でさまざまな臓器の機能が低下したり、体力自体が低下していたりします。つまり、化学療法を併用する場合は手術の安全性と完全に取り切る可能性が、やや不明瞭な手術になることがあります。

手術方法が進歩し、手術の可能性が広がったことで、より難しい手術へ挑めるようになり、また化学療法が進歩して手術の役割は軽くなるかと思えば、難しい手術を行う機会が逆に増えてきました。手術は進歩すればするほど、さらに難度の高い危険を伴う手術に向き合う定めにあるのでしょうか。

切除の限界に近い難しい手術は、頑張って手術をしてもがんが再発してしまうことも多くなります。それでも手術でがんが治る可能性が得られるなら、良い効果が得られると考えられるなら、患者さんと相談した上で、患者さんと一緒に難しい手術に挑み続ける覚悟です。

直腸がんの手術

骨盤内は狭く、さまざまな臓器・神経・血管が密接しています。ここでがんが大きくなると、その切除は大変困難となります(図1)。骨盤の骨とがんの塊との間のわずかな隙間で、手術操作を行わなければならず、仙骨(せんこつ)前面や内腸骨系(ないちょうこつけい)血管からの出血は多量となり、がんが切除されてスペースができるまで止血ができないこともあります。

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図1 骨盤CT画像(上:水平断 下:縦の断面) 赤丸:がん  青丸:内腸骨血管
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図2 骨盤内の解剖

膀胱・前立腺・子宮・卵巣などにがんが広がっていれば一緒に切除し、神経系や内腸骨血管への浸潤(しんじゅん)(*)もできるだけ機能障害に配慮しながら合併切除して、がんを取り除きます。多くの患者さんが便の漏れ・肛門痛・血便・貧血・頻尿(ひんにょう)などの症状から解放され、日常生活を続けています。

*浸潤:がんがまわりに広がっていくこと

肝転移の場合

肝臓は再生する臓器で、正常肝なら4分の3を切除することも可能です。大腸がんの肝転移が多発していたら(図3)、肝機能を評価して、どのように切除するかを考えます。残る肝臓の量が少ない場合でも、化学療法でがんが小さくなり、残せる肝臓の量が増えると手術ができるようになったりします。また、肝転移が再発しても可能であれば、再び切除術を行います。4回肝切除術を行い、10年経過している患者さんもいます。

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図3 多発肝転移(→)

大腸がんは肝転移が再発しても切除できれば治る可能性が出てきますので、私たちは積極的に何度でも肝転移の切除を行っています。

膵頭部がんの手術

膵頭部(すいとうぶ)は十二指腸および胆管と一体となっており、膵頭部がんの手術はこれらも一緒に切除する膵頭十二指腸切除という体への負担の大きい手術になります。

また、小腸や大腸の血液は門脈という血管に集まり、肝臓へ入ってから心臓へ戻ります。門脈は膵頭部の中を通り、がんが進行すると門脈にがんが浸潤してしまいます。そこで膵頭十二指腸切除に加え、門脈の切除再建を行うことで膵頭部がんを切除できます。

私たちのこれまでの門脈再建の成績は良好であり、患者さんの余命の延長や生活の質の向上に貢献しています。

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図4 膵頭部の解剖

更新:2024.10.08