最高水準の心拍動下冠動脈バイパス手術ー心臓を止めずに治せる!

平塚市民病院

心臓血管外科

神奈川県平塚市南原

狭心症・心筋梗塞とは?

心臓は、人を車に例えれば、エンジンに相当します。エンジンが動くためにはガソリンが必要です。人間では、血液がガソリンに相当します。そのガソリンを流すパイプが詰まると、エンジンストップを起こします。

人間では、ガソリンが流れるパイプに相当するのが、冠状動脈(図1)という心臓の表面にある直径1.5mm程の血管です。この血管が動脈硬化(図2)で狭くなり、心臓に流れる血液が足りなくなる病気を、狭心症(きょうしんしょう)といいます。

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図1 心臓の表面にある冠状動脈
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図2 動脈硬化と心筋梗塞の仕組み
a 冠状動脈の正常な状態です
b,c 冠状動脈に動脈硬化が起こり、血管が細くなることで心臓に流れる血液が不足した状態です(狭心症)
d 冠状動脈を血栓が塞ぎ、血管が詰まった状態です。この状態になると、心臓の筋肉が動かなくなり致命的です(心筋梗塞)

さらに、この冠状動脈が詰まると、その部分の心臓の動きが止まってしまいます。この病気を心筋梗塞(しんきんこうそく)といいます。心筋梗塞は3人に1人が命を落とす致命的な病気です。

治療法とは?

狭心症と心筋梗塞の治療には、2つの方法があります。心臓カテーテル治療と冠動脈バイパス手術です。心臓カテーテル治療は、体の負担が少ないのが利点ですが、治療できる病変に限界があります。一方、体に負担はかかりますが、冠動脈バイパス手術は、どのような病変も治療することができます。バイパス手術とは、動脈硬化で狭くなったところは何もせず、患者さんの体のほかの血管を移植して、病気の血管部分を迂回するように血液を流すための手術です(図3)。

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図3 バイパス手術

国内の多くの施設では、人工心肺という機械を患者さんにつけて、心臓を一時的に止めてからバイパス手術をするのが一般的です。しかし、患者さんによっては、心臓を止めることにより、体に負担がかかる可能性があります。特に、脳梗塞(のうこうそく)、腎不全などのリスクのある患者さんは、手術の負担を軽くする方法が必要です。

当院では、そういった患者さんの負担を減らすために、心臓を止めずに(心拍動下(しんぱくどうか))、人工心肺も使うことなく、高度な技術により心拍動下に冠動脈のバイパス手術を積極的に実施しています。安全で体にやさしい手術を、国内トップレベルの良好な成績で手術を行っています(図4)。当院で2010~2017年に、待機的に(全身状態を十分に検査し、治療に適したタイミングで手術を行う)心拍動下バイパス手術を受けた患者さんは170人ですが、入院死亡は術後肺炎で亡くなった1人(0.6%)のみでした(国内全体では入院死亡率1~2%です)。

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図4 冠動脈バイパス手術(術前・術後)

狭心症の患者さんは、手術後順調に回復すれば、元通りに元気な社会生活を送ることができます。

冠動脈のバイパス手術の利点

この手術には、次のような利点があります。

心臓を止めず、人工心肺を使わないことが有利な点

  • 脳梗塞の危険性が少ない
  • 心臓への負担が少ない
  • 人工心肺にかける時間がないため、手術が短時間
  • 腎不全のリスクを減らすことが可能
  • バイパスの血流評価が、血管をつないですぐに可能
  • 患者さんの回復が早い
  • 退院した後は通常通りの社会復帰が可能
  • 術後、手術や歯科治療が必要になった際は抗凝固薬の中止も可能

更新:2024.10.21