大腸がんの治療ーこの20年間の進歩

平塚市民病院

消化器外科

神奈川県平塚市南原

現在、大腸がんは日本人がかかるがんの中で、部位別罹患(りかん)率が男女ともに2位、部位別死亡率では男性3位、女性1位と、この20年間で日本で最も患者数が増加しているがんの1つになります。それと同時に、治療成績も順調に向上しているがんでもあります。

治療成績の向上のためには、早期発見、治療(内視鏡(ないしきょう)、手術、抗がん剤、放射線)の進歩、新しい治療方法の有効性の評価(臨床研究)が不可欠です。ここでは、特に手術、抗がん剤の進歩について解説します。

手術療法の進歩

この20年間に、手術療法は日進月歩で進歩しています。その内容は、患者さんにとってより負担が少ない手術方法の開発と、主に肛門機能の温存を目的とした機能温存手術の進歩に集約できます。

患者さんにとってより負担が少ない手術方法の開発

「大きくお腹(なか)を開けて手術をするのが偉大な外科医」と言われた時代もありましたが、患者さんにとっては、傷が大きければ大きいほど、肉体的負担が大きくなることは想像に難くないでしょう。がんの手術ですから、治療成績が同じならば、傷が小さく、肉体的に負担が少ない手術が望ましいのは言うまでもありません。この20年間の大腸がん手術の最大の進歩は、患者さんにとって肉体的に負担が少ない腹腔鏡(ふくくうきょう)手術の進歩といっても過言ではありません。

腹腔鏡手術は、5mm~15mm位の小さな傷をいくつかお腹に開け、炭酸ガスでお腹を膨らませて、お腹の中に内視鏡(腹腔鏡)を挿入し、モニター画面を見ながら手術を行う方法です(写真1)。腹腔鏡手術でも、病変を取り出すために4〜6cm位の傷が必要になりますが、開腹手術の20〜30cmの傷と比較すると(写真2)、痛みが少なく、退院までの期間、社会復帰も早く、傷関連合併症や癒着(ゆちゃく)による腸閉塞(ちょうへいそく)などの合併症が少ないと報告されています。そして、大腸がんの治療成績は、一部の難易度が高い手術を除き、腹腔鏡手術でも開腹手術でも同じということが、この20年間に証明されました。

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写真1 腹腔鏡手術の様子
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写真2 手術後の傷の比較

当院では、大腸がんの患者さんの手術の90%以上を腹腔鏡手術で行っており、治療成績を国内外で報告しています。この分野はさらに発展していくと考えられます。

肛門機能の温存を目的とした機能温存手術の進歩

一方、大腸がん、特に直腸がんの手術で気になることの1つに、永久人工肛門になるのかどうかということがあります。直腸がんといえば有無を言わさず永久人工肛門という時代もありましたが、現在ではがんの根治性を損なわず、肛門を残せる患者さんの割合が増加しています。

当院では、局所がかなり進行した患者さんでも、手術前に抗がん剤や放射線療法を行うことで、若年者の方、健康な方では90%以上の患者さんで肛門温存術を施行しています。一方、たとえ肛門を残せても、手術前に比較すると頻便(ひんべん)、下痢、便秘、漏れなどの機能低下は、多かれ少なかれ避けることはできません。無理に残すと、高齢者などでは、肛門は残せても術後は一生オムツが必要になる方もいらっしゃいます。

また、手術自体は肛門温存術の方が難易度が高く、手術の際の肉体的負担も増します。直腸がんの患者さんでどのような治療方針、手術方針にするかは、患者さん、家族と十分協議を重ねた上で、短所、長所をご理解いただき、熟考した上で患者さんに決定していただいています。

抗がん剤の進歩

手術で切除することができない転移、再発大腸がんの患者さんの治療は、放射線や抗がん剤治療で行います。特に抗がん剤治療は、1990年代後半まで、フルオロウラシル系の1種類しかなかった時代では治療開始からの平均寿命は6〜9か月でしたが、最近では、副作用を最低限に抑えながらいろいろな種類の抗がん剤を併用することで、平均寿命は30か月を超えるようになってきました。抗がん剤治療の進歩にはめざましいのものがあります。

以下に、現在有効性が確認され、保険収載されている抗がん剤を記します。

  • フルオロウラシル系(5-FU、ゼローダ、UFT、TS-1,ロイコボリン)
  • イリノテカン
  • オキサリプラチン
  • 分子標的薬(ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、ラムシルマブ)
  • ロンサーフ
  • レゴラフェニブ

当院でも、これらの抗がん剤を使用しながら、専門の薬剤師、看護師などと協力し、主に外来化学療法室で抗がん剤治療を行っています。

ここで挙げた内容以外にも、多くの進歩により、着実に大腸がんの治療は進歩していますが、治療開始時に症状が進んでしまった患者さんのがんが治る確率が低いのも事実です。症状が出現する前にがんを見つける早期発見、早期治療は大腸がんでは間違いなく有効です。また、これまでなかったような症状を自覚した場合にも、早めに検査するのが大切であることは言うまでもありません。心配な症状がありましたら、ご相談ください。

更新:2024.01.25