心血管疾患を知る

いわき市医療センター

循環器内科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

虚血性心疾患(冠動脈疾患)とは、どんな病気?

心臓の栄養血管である冠動脈の異常により、心臓が血液不足に陥る病気を虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)(冠動脈疾患)と呼びます。この病気は、狭心症と心筋梗塞(しんきんこうそく)に大別されます。狭心症は冠動脈が主に動脈硬化によって狭くなり、心臓へ流れる血液が不足して胸痛(痛い、締めつけられる、重苦しい)が生じる病気です。心筋梗塞は動脈硬化が元で冠動脈が突然閉塞(へいそく)し、胸痛が長時間持続するとともに心筋の一部が壊死(えし)してしまう病気です。心筋梗塞では心臓に重大なダメージを生じ、突然死を含む生命の危機的状態に陥ったり、後遺症が残る可能性があります。虚血性心疾患は心電図をはじめとしたさまざまな検査で診断されますが、心臓カテーテル検査で確定診断がつけられます(図1)。

フローチャート
図1 冠動脈病変

心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査とは、手首や鼠径部(そけいぶ)の血管から直径2㎜ほどの細い管(カテーテル)を血管へ挿入し、レントゲンの透視下に心臓まで到達させることで心臓の状態を検査するものです。この検査では冠動脈の走行や狭窄・閉塞の有無、心臓の収縮力、心臓内の各部屋を仕切る扉(弁)の機能、不整脈の原因など、さまざまな心臓の異常を診断することができます。検査は局所麻酔で行い、検査内容にもよりますが30分〜1時間程度で終了します。基本的に2泊3日の入院が必要です。当院では年間約2000件の心臓カテーテル検査を行っており、心筋梗塞などの緊急時は24時間365日対応しています。

PCIとは

心臓カテーテル検査によって虚血性心疾患と診断された場合、カテーテルを用いた冠動脈の治療を行うことがあり、経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention/PCI)と呼ばれます。PCIではカテーテルを通じて細い針金(ガイドワイヤー)を血管内に挿入し、ガイドワイヤーを通じて風船(バルーン)を持ち込んで膨らませ、狭窄・閉塞した血管を拡張します。多くの場合、金属製の筒(ステント)を血管内に留置し、血管を補強することで治療効果が長持ちするようにしています(図2、図3~6)。入院期間は3泊4日、治療時間は1〜2時間程度で検査と同様、局所麻酔で行います。

イラスト
図2 PCIの原理模式図
写真
図3 PCI治療前
写真
図4 ローターブレーター
写真
図5 ステント留置
写真
図6 PCI治療後

当院では年間500~600件のPCIを施行しており、全国的にも有数の治療実績があります。難易度の高い患者さんの治療や最新の治療機器の発売に伴う治験も実施するなど、先進的な取り組みを数多く行っています。

写真
写真 心臓カテーテル室風景

虚血性心疾患における高難度症例への対応

PCIを受ける患者さんの中には通常の方法では治療困難な、難易度の高い病変の方がいます。その1つが高度石灰化病変です。虚血性心疾患では多くの場合、血管は柔らかい「あぶらカス(プラーク)」の堆積によって狭窄していますが、中にはプラークが石のように固くなり(石灰化)、バルーンによる拡張が不可能な場合があります。

そのような場合、ダイヤモンドの粉末をまぶしたドリルで石灰化プラークを削り取る「ローターブレーター」という治療機器が使用されます(図4、7)。ローターブレーターを使用するには厳しい施設基準をクリアする必要がありますが、当院では使用認定を受け積極的に使用しています。また、最近ローターブレーターよりも広範囲に石灰化プラークを削り取ることのできる「ダイアモンドバック」という機器(図8)も使用可能となり、治療の幅が広がっています。

イラスト
図7 ローターブレーターの原理模式図
写真
図8 ダイアモンドバック(Diamondback 360® Coronary Orbital Atherectomy System Classic Crown、提供:Cardiovascular Systems,Inc.)

末梢動脈疾患とは、どんな病気?

末梢(まっしょう)動脈疾患(PAD)は、全身の末梢動脈に動脈硬化が起こって血管の内腔が狭くなったり、詰まってしまった状態のことです(冠動脈と脳血管に起こる同様の病態は除きます)。下肢動脈(かしどうみゃく)疾患が代表的ですが、頸動脈狭窄症(けいどうみゃくきょうさくしょう)、腎動脈(じんどうみゃく)狭窄症、鎖骨下動脈(さこつかどうみゃく)狭窄症なども挙げられます。下肢動脈にこの病気がある人の約4割は冠動脈や脳血管に同様の病気を抱えているとされています。

糖尿病、高血圧、脂質異常症といったメタボリックシンドロームや喫煙も、さらにこの病気にかかる割合を高めます。動脈硬化に起因するため、年齢が60歳代を超えると急激に増加します。高齢化や糖尿病の増加とともに国内でも患者数は年々増加しており、すでに10万人以上と推定されています。

この病気の患者さんの予後はかなり不良です。間欠性跛行(かんけつせいはこう)(少し歩くと足が痛くなり、休むと良くなって、また歩けるようになる)のある患者さんは、5年以内に16%で跛行症状がさらに悪化し、7%がバイパス術を受け、4%が大切断(足関節より上での切断)に至るとされています。全PAD患者さんの5年生存率は約60%とされており、これは大腸がんやリンパ腫の患者さんとほぼ同じです。さらに、下肢への高度な血流低下が原因で、持続性の安静時下肢痛、足趾潰瘍(そくしかいよう)、壊死が出現する重症下肢虚血を有する患者さんでは5年生存率は約40%、10年生存率はわずか10%と大幅に低下します。

一般的な症状として、間欠性跛行や下肢の冷感・しびれ感、色調変化(チアノーゼ/皮膚の色が青黒くなる)が挙げられます。さらに進行すると持続的な安静時の足趾の痛みや潰瘍を形成するようになります。

末梢動脈疾患の診断

診断には、ABI(下肢上腕血圧比/Ankle Brachial Pressure Index)の測定が最も簡便な方法として汎用されています。通常は0.9〜1.3ですが、0.9未満になってくると下肢血流の障害が疑われます。逆に1.3以上では血管が硬すぎて正確に測れなくなっていることを示し、透析を受けている患者さんでよくみられます。SPP検査(皮膚灌流圧(かんりゅうあつ)/Skin Perfusion Pressure)は、レーザーセンサーと圧迫帯を組み合わせて皮膚の微小循環を測定します。40㎜Hg以上あれば潰瘍の治癒率は90%以上とされています。

画像情報としては、多列式CT検査(造影CT)とMR血管造影検査、血管エコー検査があり、前二者は3Ⅾ再構築をすることで閉塞血管や狭窄血管を細かく評価し、カテーテル治療の治療方針をあらかじめ決めておくのに非常に役立ちます。

末梢動脈疾患の治療

下肢切断に至った患者さんの予後は、きわめて不良です。切断の2年後に、15%が反対側の下肢の切断、15%が大切断に至り、30%が死亡するとされています。そこで治療の方針としては、血行再建術や創傷治療を通じて下肢切断を回避する(救肢)を目指すべきであり、患者さんの救命にもつながるのです。

当科では2007年から下肢を中心とした末梢動脈カテーテル治療を実施しており、全国的に上位のレベルです。また東北地方でも数多い症例の治療を実施し、2018年は下肢慢性完全閉塞を含む357例の治療を行っています。難治性重症下肢虚血の患者さんについても、当院形成外科と連携し、下肢大切断の回避に取り組んでいます。

実際の治療を見てみましょう

1.下肢動脈カテーテル治療

下肢のカテーテル治療に用いられるのはバルーンとステントです。

バルーンは直径1.5㎜~12㎜まで、長さも20㎜〜300㎜までとたくさんのラインナップがあり、血管内超音波装置などの画像診断装置を用いて最適な径と長さのものを選び、病変の拡張を行います。またステントは下肢動脈では自己拡張型といって、鞘(さや)から出すと勝手に決められた径に広がる金属製のメッシュ状のものが一般的に用いられます(図2参照)。これらを組み合わせて、十分に血管内を広げて血流を元通りに回復させるのです。このデバイスを病変部まで持ち込むには、ガイドワイヤーという特殊な細い針金が用いられます。鼠径部や手首などから数㎜の細い管をあらかじめ挿入しておいてからデバイスを用いることで、非常に複雑な閉塞病変や狭窄病変でも元通りに血流を回復させることができるのです。

例えば、腹部大動脈から両下肢動脈までの逆Y字型の太い動脈部分が詰まり(図9)、足が冷たくなったり、痛みが出てしまい歩行困難になっている患者さんでも、ガイドワイヤーを詰まった血管内へ適切に通してバルーンで拡げた後、ステントを留置することで、元通りの血液の流れを取り戻すことができ、症状もなくすことができます(図10、11)。

写真
図9 下肢動脈カテーテル治療前
写真
図10 ステント留置後バルーンで後拡張
写真
図11 下肢動脈カテーテル治療後

2.腎動脈インターベンション

腎動脈狭窄に対するカテーテル治療の全般的な有効性については現在議論が分かれているところですが、一定の割合で腎機能回復、悪性高血圧の改善に効果があることは認められています。当科では腎動脈エコーなどでスクリーニングしつつ治療を行い、特に橈骨動脈(とうこつどうみゃく)アプローチからの低侵襲(ていしんしゅう)ステント治療により患者さんの負担を減らしています(図12)。

写真
図12 右腎動脈(起始部狭窄)にステント留置

3.シャント血管カテーテル治療

以前から透析専門病院でバルーン拡張によるシャント狭窄に対するカテーテル治療は行われていましたが、再狭窄率が非常に高く、何度も繰り返し治療する必要がありました。

当科では心臓カテーテル治療の実績を生かして、初期成績のみならず、長期成績をいかにして改善するかにも取り組んでいます。また、シャント血管の完全閉塞例に対しても、冠動脈慢性完全閉塞治療の技術を応用し、カテーテル血行再建を行っており、透析患者さんのシャント再作成による負担を軽減しています(図13~15)。

写真
図13 ▶で閉塞
写真
図14 ガイドワイヤー通過後バルーン拡張
写真
図15 治療後、シャント血流回復

4.電気生理学的検査・カテーテル治療

カテーテルアブレーション治療による難治性不整脈の根治術(こんちじゅつ)を東北大学より招聘(しょうへい)した専門医とともに当院で行っています。難治性不整脈のカテーテル治療においては「カルトシステム」(図16)を導入し、治療成績の向上を図っています。

写真
図16 カルトシステム(画像提供:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)

5.ペースメーカー・ICD・CRT治療

完全房室ブロックや洞不全症候群(どうふぜんしょうこうぐん)などの高度徐脈(じょみゃく)による障害に対する根治療法として、ペースメーカー植え込みを行っています。また、心室細動などの致死的不整脈に対する最も有効な治療法として植え込み型除細動器(ICD)、難治性心不全治療の切り札として心臓再同期治療(CRT)も行っています(図17)。

写真
図17 除細動機能付植込み型両心室ペーシングパルスジェネレータ(画像提供:日本メドトロニック株式会社)

循環器内科・心血管治療センター

以前より、当院・循環器内科は、冠動脈を中心とした心臓血管カテーテル治療を浜通り地区の拠点病院として行ってきました。昨今の全身血管病治療を積極的に推進していく観点から、2010年5月より心血管治療センターとして冠動脈・四肢末梢動脈・腎動脈・透析シャント血管のカテーテル治療を集中して実施しています。また、不整脈の根治療法であるカテーテルアブレーションやペースメーカー手術も多数行っています。

現在、10人のスタッフで日夜診療にあたっており、このうち6人が循環器専門医とインターベンション治療専門医であり、治療レベルは全国的にもトップクラスの成績です。今後もいわき地区の医療を守るべく、精進してまいります。

更新:2024.10.25