乳がんの現状と最新の治療

いわき市医療センター

外科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

罹患者数も多く、死亡率も増加している乳がん

乳がんは乳房にできる悪性腫瘍(あくせいしゅよう)で、多くの場合は母乳の通り道である乳管から発生します。自覚症状は乳房のしこり、乳房の皮膚のひきつれや赤み、乳頭からの血性の分泌物などです。症状がなく検診で偶然に見つかることもあります。

日本人女性が一生のうちに乳がんにかかる頻度(ひんど)(罹患(りかん)する頻度)は11人に1人といわれており、罹患数が最も多いがんです。また、乳がんで亡くなる女性は2016年には1万4000人を超え、35年前と比べて3倍以上になりました(図1)。しかし、がん種別死亡率は5位となっており、ほかのがん種に比べると予後の良いがんともいえます。

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図1 2018年発表 女性乳がんの死亡数(厚生労働省人口動態統計〈確定数〉より)

欧米などでは検診受診率の向上により早期発見が増え、さらに治療の進展も相まって死亡率が年々減っている一方で、まだ日本での検診率は低く死亡率は年々増加しています。

乳がんの診断とは

実際、乳腺外来ではどのようなことを行っているのでしょうか。

乳房になんらかの症状がある場合や検診で指摘されたときには、問診、視触診、マンモグラフィや超音波検査などの画像検査を行います。気になる病変があれば穿刺(せんし)吸引細胞診や針生検などを行い、病理検査(顕微鏡で見る検査)で乳がんがあるかどうかを調べます。乳がんと診断がついた場合はCTや骨シンチグラフィ、PETなどで遠隔転移(乳腺から離れた臓器に乳がんが転移すること)がないかどうかを調べます。ここまで検査を進めた上で乳がんの進行度を決定します。

ひと昔前までは、乳がんの進行度のみで治療方法を決定していましたが、現在では前述した針生検で採取した組織から、さらに乳がんの性質を調べ分類していきます(サブタイプ分類)。分類した乳がんの性質も加味して治療方法(特に薬物療法)を決めることが、標準治療となっています。

では、サブタイプ分類は何を基に判定するのでしょうか。1つは女性ホルモンに関係する乳がんかどうか(エストロゲンレセプターやプロゲステロンレセプターといった、女性ホルモンレセプターを持っているかどうか)です。次にHER2蛋白(たんぱく)という特殊蛋白が過剰に発現しているかどうか、そしてさらにがん細胞の分裂の早さを見る値(Ki67)を評価します。これらの状況を組み合わせて4つのサブタイプに分類しています。分類することで乳がんの悪性度を把握でき、治療法選択の参考となります。

乳がんの3つの治療

乳がんの治療には大きく分けて、①手術、②放射線治療、③薬物治療(抗がん剤、内分泌療法、分子標的薬など)があります。手術をして病変を取り除き、再発予防のために放射線治療や薬物治療(進行度によっては薬物治療⇒手術の順)を行います。残念ながら最初から転移があった場合や、治療中に転移・再発してしまった場合は薬物治療がメインになります。症状によっては放射線治療を行ったり、症状緩和目的の手術をしたりします。

1.手術

手術は乳房とリンパ節を別個に考えます。まず乳房を残す(乳房温存手術)か、残さない(乳房全摘手術)かの選択をします。病変の場所や大きさ、本人の希望などを考慮しながら決定します。部分切除、全摘でも生命予後は変わらないため、病変の場所や大きさが許すのであれば、部分切除が標準手術となっています。

次にリンパ節ですが以前は乳がんの手術を行う場合、脇の下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、奥のリンパ節まで全部取る腋窩(えきか)リンパ節郭清(せつかくせい)が標準でした。現在ではセンチネルリンパ節生検といって、がんからリンパの流れに乗って最初に転移するリンパ節(いわゆるセンチネルリンパ節)を特定し、そこにがんがあれば従来のように脇の下のリンパ節を取り、がんがなければ奥のリンパ節を取らないようにしています。

このセンチネルリンパ節生検を行うことで、リンパ節郭清の合併症であったリンパ浮腫(ふしゅ)(手術をした腕が腫(は)れる症状)を回避することができます(図2)。術前検査で最初からリンパ節転移の判明している方は、最初からリンパ節郭清を行います。

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図2 センチネルリンパ節

このように乳房部分切除か全摘か、センチネルリンパ節生検かリンパ節郭清か、乳房の摘出範囲とリンパ節の摘出範囲をそれぞれ組み合わせることで、大まかに4つの手術を行っています(図3)。

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図3 手術の選択

2.薬物治療

前述したとおり、サブタイプ分類に基づき治療を選択します。術後の再発予防および転移・再発のある方は乳がんの進行を遅らせるためです。

女性ホルモンが関係するがんであれば、内分泌療法で女性ホルモンががんを刺激しないようにします。HER2蛋白が過剰発現している場合は分子標的薬といって、HER2蛋白を抑える治療になります。病気の進行が早い乳がんや、内分泌療法の効果がなくなってしまった場合は抗がん剤を使用します。

最後に

乳がんは早期に発見し、適切な治療を行えば良好な経過が期待できます。乳がんに関心を持ち検診を積極的に受け、乳がんになってしまった場合は乳腺外科を受診し適切な治療を受けるようにしましょう(当院では外科の一部門として乳腺外科の診療を行っています)。

更新:2024.01.25