がん化学療法ー認定看護師の視点から

いわき市医療センター

看護部

福島県いわき市内郷御厩町久世原

化学療法の現況は

化学療法(がん薬物療法)とは、注射や内服薬により、全身へ薬物を行き渡らせ、がん細胞を死滅させたり、がん細胞の増殖を抑えたりする治療のことです。使われる薬剤は、抗がん剤、分子標的薬、ホルモン薬、免疫チェックポイント阻害薬など、100種類近くあります。

化学療法はがん細胞を死滅させるとともに、正常な細胞も傷害させてしまうという副作用があります。そのため、副作用の症状を薬で抑えたり、日常生活上注意したり工夫したりすることで、つらい症状を和らげ、治療を継続していくことが重要となります。近年では、新規薬剤の登場、支持療法(副作用を和らげるための薬)の進歩や医療情勢の変化、患者さんの社会生活重視などから、化学療法の場は入院から外来へと移行しています。

当院でも2008年から外来化学療法室を開設し、外来で治療を行う患者さんが年々増加しています。2017年度の化学療法延べ件数は約5300件あり、そのうち3500件は外来で実施しています。主に、消化器疾患、乳腺疾患、血液疾患、婦人科疾患、泌尿器科疾患の治療を行い、2018年4月からは呼吸器疾患も加わりました。

充実した外来化学療法室

外来には、通院しながら化学療法の点滴を行う専用の外来化学療法室があります。患者さんに安心して信頼できる医療を受けていただけるよう、当院の開院に伴い、ベッド数もスペースも拡充しました。

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写真1 ベッド

外来化学療法室内に入るとオープンカウンターになっており、スタッフが常駐しています。ベッド数は16床で、そのうちベッドが12床、リクライニングチェアが4床あり、患者さんの希望により選択が可能です。広々とした部屋で全患者さんが見渡せ、点滴中に異変があれば、直ぐに対応できるよう細心の注意を払っています。また、長時間の治療に対応するために、テレビは各ベッドに1台備え付け、DVDプレーヤーの貸し出しも行っています。

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写真2 リクライニングチェア

さらに室内には洋式トイレ2室を設置しました。2室とも多目的トイレを備えており、人工肛門や人工膀胱をもつ患者さんや、車いすの患者さんにも快適に使用していただけます。設備面だけでなく、「安全」「安心」「安楽」に治療を受けていただくために、初めて外来で治療を受けられる方には、外来化学療法室の見学も可能です。また、パンフレットを使用し、外来で治療を受ける際の流れ、設備の案内、出現する可能性のある副作用症状とその対処方法について、オリエンテーションを行い、受ける治療の全体像やどのような生活になるかを、少しでもイメージできるよう支援しています。

治療内容と副作用を知ることは重要です

医師や薬剤師の説明内容と重複することもありますが、ご自身が受ける治療内容と副作用についてよく理解してもらうために、説明内容の確認・補足を行っています。

治療を受ける上で、副作用のコントロールはとても重要です。病状をよく知り、治療の必要性をよく理解することによって、主体的に治療に参加する意識を持つことにもつながり、副作用に対する心構えにもなります。また、副作用の発現は、頻度(ひんど)・程度・時期など個人差がありますが、副作用が起こってから対応するよりも、予測して対応していくことも重要になります。外来化学療法室では副作用についての問診表を毎回渡し、自宅での副作用の出現状況についての丁寧な聴き取りなども行っています。

また患者さんが行っていた対処方法を確認し、追加したほうが良いと思われる点を説明したり、患者さんが感じていることを共有し、一緒に対処方法を考えるなど、日常生活のサポートも行っています。さらに、毎日治療開始前に、薬剤師と看護師でミーティングを実施し、治療内容・投与回数・投与量や副作用出現状況の確認などを行い、必要時は医師への情報を提供、検査や薬剤の追加を提案するなど、チーム医療を実践し安全な治療を目指しています。

入院治療でも、病棟看護師が治療開始前に治療や副作用についての説明、治療中は副作用を早期に発見できるよう症状の観察を行います。また短期入院の場合、入院中よりも自宅で副作用が出現することが多いため、看護師が患者さんや家族に寄り添い、帰宅後にセルフケアが行えるよう、副作用出現時の対処方法についての説明や、周囲のサポートが受けられるように支援をしています。

いつでも相談を受けています

最近では、手術・化学療法・放射線療法などの治療に伴う外見の変化(傷あと・脱毛・皮膚の変色・爪の変化など)に起因する苦痛も増えてきています。がんの治療は入院日数の短縮や外来治療への移行などから、学業や仕事を続けたり、学校や地域の行事などに参加するなど、社会とのつながりを持ちながら治療を継続する人が増えています。特に家族や職場、周囲の人に病気を隠している場合は外見の変化により「自分ががんである」ことが他の人に知られてしまう不安や、恐怖心を抱いてしまう方もいます。患者さん・家族が前向きに治療に臨むことができ、安心して療養生活が送れるように、つらさや不安などの思いを受け止め、気持ちの整理のお手伝いをし、患者さんがどのようにしたいのか、本人の希望とペースにあわせて支援をしています。

外来化学療法室の受付やパウダールームには、ウィッグ・帽子・乳がん術後の下着・ネイル・カバーメイクなど、カタログだけでなく実物も用意しています。実際に手に取って試すこともでき、院内のコンビニや理髪店・美容室で購入可能なものもあります。外来化学療法室で相談してください。

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写真3 受付のカタログやウィッグなど
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写真4 パウダールーム

患者さんとのコミュニケーションを大切にしています

2017年からは外来化学療法室の看護師だけでなく、院内の看護師も前述のような相談に対応できるよう研修も行っています。身体的苦痛のほかにも、治療を受けている患者さんが感じる苦痛には、仕事や家庭での役割への影響・経済的な問題などの社会的苦痛や、病気や治療についての不安や恐れ・怒りなど精神的な苦痛などもあります。患者さんとのコミュニケーションを重視し、それらの苦痛をできるだけ敏感に感じ取り、表出できるような環境を整えるとともに、主治医と情報を共有し、苦痛を和らげるケアを提供しています。

また、社会資源の活用を希望される場合は、がん相談支援センターへの紹介ができること、専門的な緩和ケアを希望される場合は、緩和ケア認定看護師への相談ができる体制があることなどの情報提供も行っています。そのほかにも皮膚・排泄ケア認定看護師・栄養士・理学療法士などの多職種と連携し、さまざまなサポートで、その人らしい生き方を支援できるよう努めていきます。

更新:2024.01.25