進化する血液のがんの治療

いわき市医療センター

血液内科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

血液内科の役割とは

「血液のがん」とは造血組織である骨髄(こつずい)から造られる血液細胞由来の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)・悪性新生物です。この血液のがんの治療を担当するのが血液内科です。

血液内科というと血液検査を行う内科とイメージされる方がいますが、この血液検査を駆使して診断・治療を行うのが血液内科です。

同じ血液のがんでも、15歳以下の小児に発生した場合は成人とはアプローチの仕方が異なり、小児科で診断・治療を受けることになります。

血液の働きをご存じですか?

人間の血液は体重の約8%といわれています。その量の血液が体中をぐるぐると循環して全身の細胞に必要なものを供給し、不要なものを運び去ってくれています。

血液を細かく見てみると、血液細胞(血球成分)と血漿(けっしょう)の2つに分けることができます。ほぼ半分ずつの比率で、採血した血液を容器に入れてしばらく静置するだけで(重力により)自然に分離します。

血漿は淡黄色調の透明な液体で、栄養分・塩分・微量の金属などが溶けていて、肝臓や腎臓(じんぞう)などがその成分の調節をしています(血液内科は携わりません)。

血球成分は真っ赤に沈む部分で、目で見ても分かりませんが赤血球、白血球、血小板の3種類、100分の1㎜程の小さな血液細胞からなります。血液1cc当たり約50億個含まれていて、血液にはたくさんの小さな血液細胞が血漿に浮かんでいるのです。それぞれの血球の働きを「表1」に示します。

血液細胞 機能(体内での働き) 不足したときの症状 細胞寿命
赤血球 全身の細胞に酸素を送り届ける 貧血(体のだるさや息切れ) 120日間
白血球 伝染病を予防したり治す(免疫機能) 感染症が起こりやすくなる 数日間
血小板 出血を止める 出血しやすくなる 約2週間
表1 血球の働き

それぞれの血球細胞は大切な役割を担っていますが、血球細胞の寿命は短く、どんどん壊れてしまいます。しかし、なくなってしまうことはなく、健康な方では一定の数に保たれています。それは、造血組織である骨髄が、毎日たくさんの血液細胞を造って供給してくれているからなのです。

血液のがんの種類と治療

1.白血病

造血組織である骨髄で、血球細胞が造られる途中の段階で腫瘍化してしまうために起こります。「表2」のように急性と慢性ではその性格が全く違います。

白血病の種類 初発時の症状
急性 急性骨髄性白血病 風邪と同じ症状、出血しやすい、など
急性リンパ性白血病
慢性 慢性骨髄性白血病 無症状、進行すると脾臓腫大
慢性リンパ性白血病 無症状、進行するとリンパ節腫大
表2 急性白血病と慢性白血病の違い

急性白血病が疑われた場合は、急いで精密検査を実施して数日で診断を確定し、抗がん剤多剤併用化学療法(寛解(かんかい)導入療法)を開始する必要があります。早期発見・早期治療が大切です。

抗がん剤治療には有害事象(以前は副作用と呼んでいました)がありますが、さまざまな補助療法で克服できるようになり、「快適な」とはいきませんが苦しい治療ではありません。この抗がん剤治療がうまくいって寛解状態(検査でがん細胞が見つけられない状態)になると、骨髄移植療法(造血幹細胞移植療法)を受けることができるかどうかを検討します。

慢性白血病は急性とは全く異なり、症状は何もありません。従って健康診断でのみ見つけることができます。2001年12月からはチロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる画期的な治療薬を内服することで、慢性骨髄性白血病をほぼ克服できると言っても過言ではなくなりました。

慢性リンパ性白血病は、欧米では発症率が高いのですが、日本ではとても珍しい病気です。

2.悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は、白血球の1つであるリンパ球ががん化した病気です。この悪性リンパ腫は、細菌やウイルスといった病原体を排除するなどの機能をつかさどる免疫システムの一部である、リンパ系組織とリンパ外臓器(節外臓器)から発生します。リンパ系組織は、リンパ節、胸腺や脾臓(ひぞう)、扁桃腺などの組織・臓器と、リンパ節をつなぐリンパ管やリンパ液からなります。リンパ系組織は全身にあるため、悪性リンパ腫も全身すべての部位で発生する可能性があります(図1)。リンパ外臓器(節外臓器)とは、胃、腸管、甲状腺、骨髄、肺、肝臓、皮膚などです。

イラスト
図1 リンパ節の構造

初発症状の多くは、頸部(けいぶ)、腋窩(えきか)(わきの下)、鼠径(そけい)などのリンパ節の腫(は)れですが、腫れを押しても痛くないなど、痛みがないことが特徴で、見つかりにくいことも多いです。

悪性リンパ腫が心配される場合は、リンパ節の一部を取り出して検査する「生検」を行って診断を確定します。この病気は全身すべての部位で発生する可能性があり、治療前にPET検査などの全身を見ることができる画像診断で病気の広がりを確認します(臨床病期分類)。

悪性リンパ腫は、その病理学的な特徴からホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられ、治療法も異なります。

日本で発生する悪性リンパ腫の大部分を占める非ホジキンリンパ腫は、B細胞性とT/NK細胞性に大別され、さらに複数の病型に分類されます。多数の病型があるB細胞性非ホジキンリンパ腫は、進行の速度により低悪性度と中悪性度、高悪性度に分類されます。低悪性度リンパ腫は進行がゆっくりで、無治療でも何年間も変化しないことがしばしばあるのに対して、高悪性度リンパ腫はきわめて進行が速く、早急な治療を要します。中悪性度リンパ腫は、その中間です(表3)。

悪性度 進行の速度 代表的な病型
低悪性度 年単位 ・MALT リンパ腫
・ろ胞性リンパ腫
・小細胞性リンパ腫 など
中悪性度 週~月単位 ・マントル細胞リンパ腫
・びまん性大細胞型リンパ腫 など
高悪性度 日~週単位 ・リンパ芽球性リンパ腫
・バーキットリンパ腫 など
表3 B細胞性非ホジキンリンパ腫の進行速度に基づく分類

悪性リンパ腫の治療は、たとえ腫れが大きくても手術療法で取り去って終わりではなく、抗がん剤治療と放射線照射療法を組み合わせて行います。これらの治療は、1990年頃には確立し、多くの患者さんを助けることができるようになりました。効果が高く、より有害事象の少ない抗がん剤が開発されています。そのうちの1つがリツキシマブという抗CD20抗体薬で、がん細胞だけを選択的に殺すことができる薬です。

さらに、自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行うことで、再発率を減らそうという治療を実施する場合もあります。

2019年春からは、再発・難治症例に対してCAR-T細胞療法が保険適用となりました。これは、患者さんから採取したTリンパ球に遺伝子治療技術を応用して、キメラ抗原受容体(CAR)を作るように改変します。このCARを獲得したT細胞が、病気を駆逐するまで体内で自己増殖しつつ、闘ってくれることになります。

3.多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は「形質細胞」のがんです。形質細胞は、白血球の一種であるBリンパ球が分化・成熟してできる細胞です。この細胞は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体から体を守ってくれる「抗体」をつくる働きをもっています。この形質細胞ががん化して骨髄腫細胞になり、多発性骨髄腫を発症すると、骨髄腫細胞は骨髄の中で増加し、病原体を攻撃する能力がなく役に立たない抗体(これをM蛋白(たんぱく)と呼びます)を大量につくり続けます(図2)。これらの骨髄腫細胞やM蛋白が、次のような症状を引き起こします。

イラスト
図2 血清蛋白分画(キャピラリー電気泳動法)によるM蛋白の検出
  • 骨が脆(もろ)くなり、ちょっとしたけがでも骨折する(病的骨折)
  • 骨が脆くなり、骨の主成分であるカルシウムが血液中に増え、意識障害が起こる(高カルシウム血症)
  • 骨髄での正常な造血が障害され、血球減少が起こる
  • M蛋白が腎臓の働きを障害する(骨髄腫腎)
  • M蛋白が増えることで血液の粘性が増し、血栓症を起こしやすくなる(過粘稠度症候群)
  • 正常な抗体が減少して感染症が起こりやすくなる

多発性骨髄腫の治療も抗がん剤治療です。

プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブや免疫調節薬のレナリドミドとステロイド剤を組み合わせた治療が中心となります。65歳未満の患者さんには、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が勧められます。

再発難治例では、抗体薬などさまざまな新規薬が使用できるようになっています。

ただし、多発性骨髄腫は同じ病気でも患者さんによって出現する症状・病気進行の早さなどが一様ではない特徴があり、病状に合わせた治療を選んでいくことが大切です。

更新:2024.01.25