小児医療 子どもたちのすこやかな成長のために

いわき市医療センター

小児内科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

私たちの目的は、いわきの子どもたちが安心して心身ともに健康に成長し、大人になっていくのを支援することです。
小児内科のスタッフは常勤医師が6人、専門外来を担当する嘱託医師が5人、そのほか週末や休日などには大学の小児科からの応援医師が働いています。

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写真 小児医療スタッフ

小児科は総合診療科

小児科医は個々の臓器を専門に個別に診るのではなく、患児を、病気とそれにかかわる問題を抱えるひとりの人として総合的に捉え、診療していく総合診療医です。対象は生まれたばかりの新生児から大人になる前段階である思春期までの子どもたちです。彼らを成長・発育・発達していく存在として捉え、体と心、そして社会とのかかわりなど多方面から問題を明らかにし、対応しています。

かかりつけ小児科医を大切に

最も身近な子どもの総合診療医は、かかりつけのお医者さんです。かかりつけの先生は、赤ちゃんのときから皆さんのお子さんたちの成長を見守っています。具体的には、生後2か月から始まる予防接種を計画的に行い、重い感染症にかかるのを防いでくれます。まだ抵抗力の弱い乳幼児期に風邪や胃腸炎など、調子が悪くなったときにもよく診てくれます。そして、その子の家庭の状況や住んでいる地域の実情などを考慮しながら、子育ての相談にのり育児を支援しています。かかりつけ医はお子さんにとって大切な存在です。

病院小児科医の役割

しかし、かかりつけ医では十分に対応できない場合もしばしばあります。例えば入院が必要なときです。風邪をこじらせてしまって熱が下がらない、悪化して肺炎になってしまった、嘔吐(おうと)や下痢をして水分もとれず脱水症のため点滴の治療を続ける必要がある、肺炎や喘息(ぜんそく)の発作で呼吸が苦しい、けいれんを起こした、などの場合です。

そんなときは私たち勤務医の出番です。いわき市には残念ながら子どもが入院できる施設は当院以外にありません。かかりつけ医からの紹介で必要と判断すれば入院してもらい治療します。

入院の必要がない場合もあります。日常よくある病気でもなかなか治りが悪い場合や、症状が重いときにはより専門的な知識や技術を必要とします。例えば、気管支喘息の症状がコントロールできない、食物アレルギーがありどのように食事をとらせていいか不安が強い、血尿や蛋白(たんぱく)尿など尿の異常がある、心電図検診で異常を指摘された、などの場合です。そのようなときにも、当院では、かかりつけ医からの紹介により、詳しい検査や治療を行います。

こども病院や大学病院への紹介

私たちはそれぞれ専門分野を持っています。小児のアレルギーの病気、神経の病気、心臓の病気、ホルモンの病気、腎臓(じんぞう)の病気、血液の病気などです。それでもさらに専門医の知識や経験が必要な病気の場合には、子どもの専門病院に紹介します。小児の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)や白血病、先天性の心臓の病気、子どものリウマチや膠原病(こうげんびょう)、重い腎臓病、特殊なホルモンの病気、まれな遺伝性の病気などが対象となります。

主な紹介先の病院は福島県立医科大学小児科、宮城県立こども病院、東北大学病院小児科、茨城県立こども病院、国立成育医療研究センター(東京)、神奈川県立こども医療センター(横浜市)などです。子どもの病状とご家族の意向にできるだけ添うようにしています。

重症ならばヘリコプターで救急搬送

当科で対応が難しいと判断された患児は、迷わず高次医療機関に搬送します。以前は救急車しかなかったため、福島市の県立医科大学附属病院への搬送は時間がかかっていました。高度な医療を求めてとはいえ、不安定な状態にある患児の搬送は間違いなくリスクがあります。できるだけ短時間で移送して、そのリスクを減らしたいところです。最近はヘリコプターによる患者搬送が一般化してきました。当院にもヘリポートが備わり、以前に比べて移送時間を大幅に短縮することができるようになりました。

一方、受け入れ側である県立医科大学附属病院では近年PICU(子ども専用の集中治療室)が充実し、重症の患児を積極的に受け入れて高度な治療を施してくれます。10~20年前とは格段の違いがあり、小児科医療の進歩が感じられます。

当科の仕事~年間入院患者数と傾向

2017年を例に入院患者の傾向を示します(図)。入院総数は861人、平均入院日数は5.4日でした。一番多く、約半数を占めるのは呼吸器(気管支や肺)の病気で、肺炎や気管支炎(きかんしえん)、喘息などでした。最近はRSウイルスによる細(さい)気管支炎が多くみられます。

グラフ
図 2017年入院患者集計

次は神経系の病気で約14%ですが、ほとんどが熱性けいれんやてんかんの患児です。消化器(胃腸)系の病気も約13%で、その半数は急性胃腸炎によって嘔吐や下痢がひどいために入院します。感染症は7.3%ですがワクチンが進歩したため重症例も全体数も減る傾向にあります。特に、抵抗力が弱い新生児や乳児の発熱に対して慎重に対応しています。そのほか、川崎病は近年増加する傾向にあり、1年間に40例あまりの入院があります。

小児科医療のこれから

私が小児科医として研修を始めた頃の小児科医療は、現在とはずいぶん様相が違っていました。感染症が大きな問題であり、髄膜炎(ずいまくえん)で重症化したり後遺症が残ったりするのをどう治療していくのかが重要でした。喘息患者さんも今のように多くはなく、食物アレルギーも特別な体質として、それほど問題になっていませんでした。不登校も虐待(ぎゃくたい)もまれな出来事で小児科医師の守備範囲ではありませんでした。また発達障害は未熟児が成長したあとにみられる特殊な状態のようにいわれていました。

ところが現在では医療が進歩し、予防接種が充実してきたため、昔問題になっていた重症な細菌感染症や麻疹(ましん)(はしか)、水痘(すいとう)(みずぼうそう)、ロタウイルス胃腸炎などは未然に防ぐことができるようになり、急性疾患が大きく減少しています。

このような時代の変遷の中で、小児科医がこれから対応していくべき新しい問題が出てきています。当科ではどのように携わっているかをお伝えします。

1.感染症とワクチンの普及

前述の通り、子どもの病気の大半は感染症です。予防接種(ワクチン)はお子さんが感染症にかかって苦しんだり、入院することになったり、重度の後遺症が残ったりするのを防ぎ、抵抗力(免疫力)をつけるために欠かせないものです。また、みんながワクチンをすることで、抵抗力が弱い子どもたちを守り、地域全体の健康度が高まることになります。詳しい資料があります。(*1、*2)

ワクチンの効果が非常に高いことは医学的に証明されており、近年ますますその重要性が明らかになっています。心配される副反応もできるだけ少なくなるように開発が続けられています。

小児科学会や小児科医会は生後2か月になったときから、ヒブや肺炎球菌という重い感染症をもたらす細菌に対するワクチンや、B型肝炎ワクチンを定期的に接種することを推奨しています。重症になって入院する赤ちゃんが間違いなく減っています。

*1「予防接種と子どもの健康」(母子手帳と一緒に配布される小冊子)
*2 VPDの会 http://www.know-vpd.jp/index.php

2.小児救急医療

子どもはよく夜中に熱を出したり、吐いたり、調子が悪くなります。そんなときにどう対応していいか悩んでしまう保護者が多いと思います。それでも結果的にみると少し様子を見て、翌日にかかりつけ医を受診することで十分な場合が多いものです。多くの子どもたちは自分自身で回復する力を持っています。経験のある保護者ならよくご存じのことと思います。

しかし、症状の種類やその現れ方によっては、すぐに夜間診療所を受診したり、救急車を呼んだ方がいい場合があります。決して多くはありませんが、重い感染症やひどいけいれんを伴う脳炎脳症、誤飲、そして窒息などです。当院は救命救急センターを有しており、救急専門医師と協同して子どもの救急医療に携わっています。一晩様子を見ていいのか、すぐに救急医療機関を受診するべきなのか判断が難しいときもあります。日頃からお子さんの様子をよく観察して、お子さんの病気の症状についても育児の本やウェブサイトなどで学んでおかれるとよいでしょう。万一、夜間などに心配な症状があるときには、電話相談(*3)やウェブサイト(*4)が役に立つと思います。

*3 子ども救急電話相談 #8000 休日夜間に対応する電話相談(福島県の事業)
*4 こどもの救急 http://kodomo-qq.jp/ 日本小児科学会の救急のウェブサイト

3.食物アレルギー

昨今、食物アレルギーの子どもが増えているといわれています。学校給食の誤食による死亡事例がテレビや新聞などメディアに取り上げられ、社会の食物アレルギーに対する関心と不安が高まっています。しかし、食物アレルギーは正しい知識を持って正しく対処すれば怖い病気ではありません。その多くが乳児期に始まる食物アレルギーの子どもで5~10%にのぼるといわれ、年齢が高くなるにしたがって減っていきます。治っていくお子さんも多くいます。

どのようなお子さんが心配なのか?どんな検査が必要なのか?程度は軽いか重いか?その原因となる食物は食べていいのか悪いのか?食べるとしたらどのように食べたらいいのか?最近これらの疑問に対して、どんどん新しい情報が増えてきています。当院ではアレルギー専門医が相談にのり、適切なアドバイスを行っています。

4.発達障害児支援

最近、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、LD(学習障害)などの「発達障害」という言葉をよく耳にされると思います。発達障害は脳の機能に問題があるため、さまざまな症状が出てきて不適応の状態になることが分かっています。しかし、たとえある種の傾向があっても、社会的にうまく適応していけるのであれば障害があるとはみなされません。発達障害とは先天性の要因に対して育っていく環境の要因が加わり、問題が生じてくることを指しています。

したがって保護者、保母さん、先生など、その子の周りの大人のサポートによって改善していく可能性が十分にあります。乳幼児検診なども利用して、早期に気づき適切な対応をしていくことが重要といわれています。

当科でも発達障害のお子さんを臨床心理士と一緒に診ていきます(場合によっては地域の児童精神の専門医に紹介しています)。当科では、薬物療法、心理アセスメント、本人や家族へのカウンセリング、学校や関連機関との連携などを行っています。この分野は、小児科医療の中では新しい分野です。私たちもしっかり勉強していく必要を感じています。

最後に

そのほかのテーマとして、重症心身障害児の在宅ケアの支援や医療的ケアを必要とする患児の支援があり、福祉との共同が必要になります。また社会的な問題として子どもの貧困、虐待児への対応、不登校児への対応など、昔は小児科医の対象ではなかった子どもたちを診ていく場面が増えてきています。

このような現代社会において小児医療に携わる私たちは、地域保健(母子保健、乳幼児検診など)・福祉(子育てサポートセンター、いわき市の各地区センターなど)・教育(学校保健)の各機関と協力して、いわきで元気な子どもたちを育んでいくお手伝いをしていきたいと願っています。

更新:2024.01.26