主な産科的疾患のお話

いわき市医療センター

産婦人科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

産科疾患は合併症も含めると多岐にわたります。ここでは当院で取り扱う頻度(ひんど)の高い代表的な産科的疾患について述べます。

早産・切迫早産

早産とは、日本では妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産のことをいい、全妊娠の約5%に発生するといわれています。原因は感染や体質によるところが多く、また妊娠高血圧症候群や前置胎盤、胎児機能不全などの疾患により、人工的に早産にせざるを得ない場合もあります。

切迫早産とは早産となる危険性が高いと考えられる状態のことをいいます。子宮収縮が起こり子宮口が開き、赤ちゃんが出てきそうな状態のことです。今までに早産になったことのある方や、子宮頸部円錐切除術(しきゅうけいぶえんすいせつじょじゅつ)という手術を受けたことのある方、多胎(たたい)妊娠(双子など)、ある種の膣内(ちつない)の細菌感染のある方に多いとされます。また、超音波検査で頸管が短くなっている方も早産になりやすいといわれています。切迫早産の治療は、子宮収縮を抑える目的で子宮収縮抑制剤を使用することがあります。症状が軽い場合は外来通院による治療でも構いませんが、症状によっては入院して子宮収縮抑制剤を点滴する場合があります。

早く生まれた赤ちゃんほど、後に重篤な障害が発生する可能性が高くなります。早産の確立した予防法はありませんが、妊娠中は定期的な検診を受けていただき、早産になりやすい状況の早期診断が重要です。

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妊娠糖尿病

妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見された糖代謝異常です。妊娠前から既に糖尿病と診断されている場合や、妊娠中に明らかな糖尿病と診断された場合は妊娠糖尿病に含まれません。

妊娠初期および中期の随時血糖値が100mg/dl以上のときに、ブドウ糖負荷試験を行い、空腹時92mg/dl以上、1時間値180mg/dl以上、2時間値153mg/dl以上の1つでも満たされると、妊娠糖尿病と診断されます。頻度は全妊婦の7~9%といわれています。肥満、糖尿病の家族歴のある方、高齢妊娠、巨大児出産既往などが危険因子と考えられています。

妊娠糖尿病の方で血糖コントロールが悪いと、母体と赤ちゃんのそれぞれに合併症が起こる危険性が高くなります。母体には妊娠高血圧症候群、羊水量の異常、子宮内胎児死亡や難産などが、赤ちゃんには巨大児、低血糖、多血症、黄疸(おうだん)、電解質異常や心臓肥大などがあげられます。

糖尿病合併妊娠の場合は、妊娠糖尿病のリスクに加え、妊娠初期の血糖コントロールが不良だと胎児奇形のリスクが高くなり、また、糖尿病合併症(網膜症や腎症(じんしょう))の増悪の問題があります。そのため、妊娠前に糖尿病と診断されている方は、血糖値を十分管理し、糖尿病合併症の評価を行った上で計画的に妊娠することが重要です。

妊娠糖尿病と診断された場合、子どもの予後を改善するために、血糖値は食前100mg/dl未満、食後2時間120mg/dl未満と、厳格な管理が必要となります。治療は食事療法が基本となりますが、食事療法のみでコントロールできない場合は、必要に応じてインスリン投与を行います。妊娠中にインスリンを使用しても、分娩後には血糖値が改善することが多く、また、妊娠中のような厳格な血糖管理が不要となるため、インスリン投与が中止になることがほとんどです。

さらに分娩後に糖代謝が正常化していることの確認が必要なため、妊娠による糖代謝の影響がなくなる分娩後6~12週に糖負荷試験を行います。分娩後に糖代謝が正常化しても、将来的に糖尿病と診断されるリスクが正常妊婦の約7倍といわれていますので、その後の管理も重要です。

妊娠高血圧症候群

妊娠20週以降に収縮期血圧が140mmHg以上、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上になった場合に妊娠高血圧症候群と診断されます。また、妊娠前から高血圧を認める場合、もしくは妊娠20週までに高血圧を認める場合を高血圧合併妊娠といいます。この病気は約5%の妊婦に起こります。特に妊娠34週未満で発症した場合、重症化しやすく注意が必要です。重症になると血圧上昇、蛋白尿(たんぱくにょう)に加えて肝臓や腎臓の機能障害、肝機能障害に溶血と血小板減少を伴ったHELLP症候群、けいれん発作(子癇(しかん))、脳出血などを引き起こすことがあります。さらに赤ちゃんの発育が悪くなったり(胎児発育不全)、胎盤が子宮の壁からはがれてしまったり(常位胎盤早期剥離(はくり))、赤ちゃんが低酸素になり状態が悪くなったり(胎児機能不全)、場合によっては赤ちゃんが亡くなってしまう(胎児死亡)ことがあるなど、妊娠高血圧症候群では母体と赤ちゃんともに大変危険な状態になることがあります。

妊娠高血圧症候群の発症の危険因子としては、もともと糖尿病、高血圧、腎臓病を持っている、肥満、高齢妊娠、家族に高血圧を持っている方がいる、多胎妊娠、初産婦、以前に妊娠高血圧症候群になったことがある、などがあげられます。原因についてはさまざまな研究が進んでいますが、結論は出ていません。最近の研究では、母体から赤ちゃんに酸素や栄養を補給する胎盤がうまくできないため、胎盤でさまざまな物質が異常に作られ、全身の血管に作用して病気を引き起こすのではないかといわれています。

軽症の場合は外来での管理が可能ですが、重症となった場合は入院加療が原則となります。安静および食事療法に加え、血圧コントロールおよび子癇発作予防のための薬物療法を行います。妊娠高血圧症候群の根本的治療は妊娠の終了ですが、妊娠週数があまりにも早いと、出生児の未熟性が問題となります。そのため、母児の評価を行いながら全身管理を実施し、出生児の対応について未熟児新生児科(NICU)の医師と娩出時期を協議します。

通常、出産後は母体の症状は改善しますが、重症化した方では高血圧や蛋白尿が持続することがあり、フォローアップが重要です。

妊娠高血圧症候群は確立した予防法がなく、検診をきちんと受診して適切な周産期管理を行うことをお勧めします。

このほかにも多数の合併症妊娠、偶発合併症は存在します。もし不明な点があれば、検診の際に主治医の各先生に相談してください。

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更新:2024.01.26