早分かり「骨・関節の病気、骨の外傷・骨折」

いわき市医療センター

整形外科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

整形外科で扱う病気

骨・関節の病気に関しては整形外科が主に担当します。整形外科が扱う病気は、脊椎(せきつい)(頸椎(けいつい)~腰椎)、関節(肩、肘(ひじ)、手、股(こ)、膝(ひざ)、足)、外傷(骨折、腱(けん)、靭帯(じんたい)損傷など)、末梢神経など多岐にわたります。治療にあたっては保存療法(薬物療法、理学療法など)と手術療法のいずれかが選択されます。当科ではこの整形外科のほとんどの分野での、手術療法を中心に行っています。当科単独では治療が困難な多発外傷など、救急の全身管理が必要な症例については、初期は救命救急センターとともに治療にあたり、全身状態が安定した後のリハビリ等は当科で治療しています。また骨軟部悪性腫瘍(こつなんぶあくせいしゅよう)は高度な診療が必要となるため、診断までは当科で行い、その後専門病院に紹介しています。

手術件数は2013年以降増加の一途で、2017年は年間2206件の手術を行いました(図1)。当科での手術の特徴は専門医により、各関節の関節鏡による手術、人工関節手術を行うと同時に、地域の3次救急を担うべく四肢(しし)脊椎外傷の手術を実施しています。四肢脊椎外傷による緊急手術では、麻酔科をはじめ複数の科と協同して実施し、術後のリハビリテーションに関しては、地域の病院と協力のもと行っています。

グラフ
図1 当科の年間手術件数
東日本大震災後、2013年以降で増加しています

関節の病気とは

関節の病気は原因によって遺伝性、感染性、外傷性、変性などに分かれます。ここでは主に各関節について頻度(ひんど)が高く、当科で手術を行っている病気について病名ごとに紹介します(関節の変性の病気とは、加齢に伴い各関節が摩耗(まもう)し、炎症が起こるため痛みが出る疾患のことです)。

肩関節

肩腱板損傷
肩を動かす腱の集合体(足のアキレス腱のようなもの)の外傷性、変性性の病気で、肩の痛み、動きの制限の大きい症例では手術が必要です。以前に比べて関節鏡で治療ができる症例が増え、術後の患者さんの負担が軽減してきました。
変形性肩関節症
肩関節の変性で起こる病気です。重症例では人工関節手術が必要となります。現在当科では、これまでの人工関節では安定性に問題の多かった関節窩(かんせつか)に損傷を有する症例に反転型肩人工関節手術を行っています(図2)。これは肩甲骨側に半球状の、上腕骨側に受け皿状の人工物を設置する方法で、通常の関節(肩甲骨側が受け皿状)と逆になるため、反転型と呼ばれています。手術の実施にあたっては、一定の経験と資格、日本整形外科学会が定めたガイドラインを遵守することが求められています。この手術によって、術前には肩がほとんど動かなかった患者さんが、最低でも肩の高さ以上に動かせるようになっています。高齢者でも全身麻酔が可能であれば、この手術により症状が改善する可能性があります。

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図2 変形性肩性関節症
a.CT像:上腕骨頭が上方へ偏位 b.X線像:反転型肩人工関節手術後

股(こ)関節

大腿骨近位部骨折
主に頸部(けいぶ)骨折と転子部(てんしぶ)骨折に分けられますが、いずれも骨粗(こつそ)しょう症(しょう)が基盤としてあることがほとんどで、高齢者の外傷です。骨折部の形態、受傷前の生活動作などで手術法は変わりますが、寝たきりを防ぐためには早期の手術とリハビリが必要です。
変形性股関節症
股関節の変性によって起こる病気で、足の付け根が徐々に痛くなり、日常生活動作が不自由になってきます。比較的若年で形態によっては臼蓋(きゅうがい)形成手術を行う症例もありますが、手術としては人工股関節形成術が大半を占めます(図3)。この手術は約40年前に日本に導入された術式です。

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図3 変形性股関節症:X線像
a.術前:骨頭が変形 b.人工股関節形成術後

当院では徐々に症例が増加し、2017年は150例に達しました。機器や術式が進歩したため、通常の入院期間は10日から2週間程度と以前より負担が少なくなりました。当院の手術の特徴は、術前のCT画像を基に3次元で使用機材の大きさや設置位置を確認する「3次元テンプレーティング」を採用していることです。術前準備に要する労力はこれまでの方式より多少大きくなりますが、手術術式の正確性や設置位置・角度の精度が向上し、手術時間が短縮するなど、優れた長期成績につながると考えています。

膝関節

膝関節前十字靭帯断裂(ひざかんせつぜんじゅうじじんたいだんれつ)、後十字(こうじゅうじ)靭帯断裂、半月板(はんげつばん)断裂
外傷によって起こりますが、十字靭帯には再建術(自分の別の部位の靭帯で靭帯を作り直す)、半月板には部分切除術や縫合術を実施します。いずれも関節鏡で手術を行っており、患者さんの負担は少なくなっています。いわき地区はスポーツが盛んですが、再建術を受けずにスポーツ復帰したため、半月板が修復不可能な損傷を受けたり、関節軟骨が高度に剥離(はくり)した症例も少なからず見受けられます。受傷が疑われる場合には、なるべく早く医療機関を受診してください。
変形性膝関節症
ほとんどは変性が原因で、膝の痛みにより日常生活動作が制限され、重症例は手術が必要となります。比較的若年者で極端な変形がなければ、自分の骨で治療可能な高位脛骨(こういけいこつ)骨切り術(曲がった骨を正常に戻す)を行います(図4)。最近は内側開大法(ないそくかいだいほう)で強固な固定と人工骨の使用によりリハビリの開始が早くなっています。手術の大半は人工膝関節置換術(じんこうしつかんせつちかんじゅつ)ですが、当院では徐々に症例が増加し、2017年度は155例に達しました(図5)。術後の日常生活動作の改善は良好で、手術した患者さんの80%以上は、20年以上通常の生活が可能です。
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図4 変形性膝関節症
高位脛骨骨切り術例:X線像
a.術前 b.術後:変形が矯正されています
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図5 変形性膝関節症
人工膝関節置換術例:X線像
a.術前 b.術後

骨の外傷・骨折の治療と手術

2017年の骨折、外傷関連の手術件数は829件でした。ここ10年間でロッキングプレート等の骨折治療機器の進歩と、ダメージコントロールオペレーション等の治療概念(手術を二段階に分けて行うなど)の進歩により、強固な固定と侵襲の少ない治療が可能となってきました。それにより、従来と比べ良好な機能回復が得られるようになっています。

いわき市内は目下、震災後の復興が進行中ですが、そのための労災事故も増加しています。例えば、落下事故が原因であることが多い踵骨(しょうこつ)骨折(図6)の手術件数は、2010年以前は年間10件以下でしたが、震災後は徐々に増加し震災前のほぼ1.5倍で、ほかの外傷も同様に増加しています。私たちの技術を生かして、患者さんが機能障害を残さず原職に復職できるように治療を実施することが、いわき市の復興の一助になると考えています。また交通事故による骨折、高齢者や小児の骨折も手術療法が必要な症例は、可能な限り受け入れています。

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図6 踵骨骨折:X線像
a.術前:関節のずれ(→) b.術後プレート固定、関節の整復

更新:2022.03.08