周産期医療のお話

いわき市医療センター

未熟児・新生児科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

周産期医療とは

周産期医療とは、お「産」の「周」囲の医療で、お産にかかわる医療すべてを含む幅広い医療分野のことです。簡単にいうと妊婦さんの治療管理、そして安全なお産、産まれてくる赤ちゃんの治療、出産後の赤ちゃんと母親との絆形成が含まれ、当院では主に産科、未熟児新生児科、小児外科、小児内科が担当しています。

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地域周産期母子医療センターの役割

周産期医療は以上のように、1つの科で完結できる医療ではなく、多くの科が協力し合い連携しながら母子を支援する医療であるため、一般病院で完結することは困難です。福島県では最も診療が困難な母子を治療する「総合」周産期母子医療センターを福島県立医科大学附属病院に設置しています。また、いわき・会津・郡山に、各都市で周産期医療の中核を担う「地域」周産期母子医療センターが指定され、いわき市医療センターは浜通り唯一の「地域周産期母子医療センター」です。

1.新生児集中治療室(NICU/Neonatal Intensive Care Unit)

周産期医療の中核を担うNICUは病気の新生児を治療する病棟で、当院では未熟児・新生児科が担当しています。当院のNICUは1990年に開棟し、当時ABCDと格付けされた中で、東北で2つしかないAランクのNICUとして診療が開始された、パイオニア的な存在でした。

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写真 当院のNICU

NICU治療の対象疾患

未熟児・早産児
現在は22週以上36週未満・2300g未満の新生児は原則NICU入院を要するとされていますが、当院のNICUではベッド不足のため、旧来の35週未満・2000g未満の児を入院対象としています。出生体重が1000g未満の赤ちゃんは「超」低出生体重児と称されますが、現在の医療ではほとんどが後遺症もなく育つことが可能です。当院でも約400gの赤ちゃんが出生し、無事に退院して元気に小学校に通っています。
外科疾患
先天的な消化器疾患を中心に治療を行っています。
先天性心疾患
以前は未熟児・新生児科で診断治療を行っていました。現在は小児循環器専門医が赴任し、専門的な治療を行っています。心疾患の手術は、未熟児の動脈管開存症手術以外は重症度に応じて、東京や福島の専門施設に年間数人をヘリコプターなどで搬送し、手術を依頼しています。
病的満期産成熟児
重症黄疸(おうだん)の治療や、仮死児の低体温療法などを行っています。

NICUでの治療

呼吸管理
通常の人工呼吸管理に加え、新生児特有の高頻度(こうひんど)の振動で換気する高頻度振動換気(HFO)など、最新の呼吸管理を行っています。
循環管理
重症の新生児は心臓の動きが弱く、心不全になりやすいです。単純な強心治療は負担になるため、脳血流・腎(じん)血流をモニターしながら強心治療と負荷を減弱する治療をバランスよく行い、急性期は数時間ごとに循環動態を評価して治療変更を実施します。
栄養管理
赤ちゃんにとっての「一番のお薬」といわれている母乳栄養を中心に、高カロリー輸液を行い、子宮外でも子宮内と同じ発育を目指しています。現在の栄養管理では、1000g未満の赤ちゃんも予定日には2500g以上になり、「子宮内発育と同程度の発育」を担保して退院することができます。
電解質管理
重症な新生児は電解質バランスが崩れやすく、ナトリウム・カリウム・カルシウムは1日に何度も検査して補充を調整し、鉄・亜鉛・マグネシウム・銅・リンも必要に応じて補充を行います。
神経
4時間脳波検査を施行し、脳活動が適切に保たれるように呼吸循環管理を行います。急性期の数日間は頭部エコーを1日に3~4回チェックし「脳を守る」ために治療内容を変更していきます。
貧血・黄疸管理
重症の黄疸児は黄疸を改善させるために、体のほとんどの血液を取り換える治療(交換輸血)を行うことがあります。

以上のように新生児の治療は単一臓器の治療ではなく、全身の管理を急性期から行います。赤ちゃんが成長し退院するまでを見守る医療で、超低出生体重児は4か月以上の入院になることもまれではありません。

NICUと一般市民のかかわりとは

NICUは特殊な病棟で一般の方とは縁遠いと思われがちですが、NICUの治療対象となる赤ちゃんは、産まれてくる赤ちゃんの3~5%といわれます。いわき市では年間におよそ3000前後のお産があり、90~150人の赤ちゃんが対象となります。実際にNICUの毎年の入院は100~150人、子どもが20人いれば1人はNICUでの治療経験があることになります。

安全な「お産」というものはなく、赤ちゃんとお母さんは常に命がけで生命の誕生を迎えようとしています。1分1秒が赤ちゃんと家族の人生を変える、それが周産期医療の現場であり、そのスタッフは常にこの緊張感の中で、つまり「常在戦場」の心構えで過ごしています。元気で生まれてくるはずの赤ちゃんが、全く予想されない重症な状態で生まれてくることはまれではありません。そのような重症児を当院のNICUで収容できなければ、近隣のNICUまで搬送し治療しなければならず、しかも搬送先は郡山市か水戸市になり、重症な赤ちゃんを搬送する間に取り返しのつかない後遺症が起こる可能性もあります。

赤ちゃんが危険な状態の場合、すぐに適切な治療を施せば後遺症がなく、その後の人生を健康に過ごすことができます。しかし、すぐに適切な治療ができない場合には重大な後遺症が残り、赤ちゃんやその家族の長い人生にとって大きな負担となります。周産期医療には「後で治療する」という概念はなく、実際に1990年の開棟以来、いわき市内で生まれた重症な赤ちゃんの収容依頼は満床を理由に断ったことは一度もありません。NICUでは、迅速な対応により、安心安全なお産を支えています。

当院周産期医療の特色

東北の中でも最もバランスの取れた診療をしている周産期センターであることが、当院のNICUの特色です。

産婦人科における胎児エコーの技術はとても優れており、論文化された胎児エコー写真は、海外のどの論文よりも鮮明に病変を映し出し、医療パンフレットへの掲載を依頼されたこともあります。

直径1㎝もない腸管を操作することのある小児外科疾患では、重篤な術後合併症は通常避けられません。しかし、ここ10数年は他のNICUで散見されるような重篤な新生児術後外科合併症は、当院NICUでは発症しておらず、これは小児外科の優れた技術によるものです。

未熟児・新生児科の特色

24時間365日休むことがないNICUを担当している未熟児・新生児科の医師は2人おり、うち1人は1年交代で福島県立医科大学附属病院より派遣されています。当院と同規模のNICUでは4~6人の医師が常勤となるのが通常で、当院のNICUの仕事の負担はとても大きく、これまで「日本で最も苛酷な労働環境のNICU」と言われたこともありました。仕事量の増加に伴いスタッフの健康面への影響も考え、2008年より28週未満の重症な赤ちゃんの出産が予測される場合は、あらかじめ他のNICUに母体搬送とする診療制限が始まり、現在も続いています。しかし、開棟以来から制限されるまでは、NICUのベッド数が不足していた福島県内で、いわき市は早産を理由にした妊婦の市外への母体搬送を1人もしていない唯一の都市でした。当院が担ったいわき市の周産期医療への貢献度は大きかったといえるでしょう。

未熟児・新生児科の治療の基本理念

(1)最新の治療をいわき市の赤ちゃんに提供します

当科では年間40~50の研究会・学会に参加し、最新の知識・治療を吸収して常に最新で最良の治療を提供できるように、治療法の刷新に努めています。

(2)診療を記録に残します

当院のNICUはいわき市の病気の新生児の治療をすべて任されています。それに応(こた)えるために、預かった赤ちゃんの記録はできるだけ学会報告としてまとめ、発表することを心がけています。この活動なしでは赤ちゃん(患者さん)の苦労を社会に昇華することはできず、苦しみだけで終わってしまうと考えているからです。当院のような基幹病院の医師は、患者さんの苦しみを社会の財産として、医療界(社会)に還元し日本全体の医療レベルの向上につなげる義務を背負っていると考えています。また、苦しんだ患者さんはそれを望んでおり、診療を依頼された医師の責務でもあると考えています。

(3)全国的に評価される診療を行います

日々の診療を全国的な評価なしで行っていると、マンネリ化や治療が独りよがりになる危険がはらんできます。当科では全国規模の研究会・学会やシンポジウムでの発表、教育セミナーでの講演などを行っています。医療雑誌からの総説依頼など全国から講演依頼をされることが、全国的な評価と全国トップレベルの医療を行っている証になると考えています。

発表すること自体を目的化しないように、当科の診療が全国から評価されることを目指して診療内容を常にレベルアップさせ、評価を常に受ける緊張感を持ちながら診療を心がけています。さらに報告した内容は論文にするだけでなく、英語論文にすることで「いわきから世界に情報発信」することを常に目標にしています。英語論文は年に1報程度ですが、毎年投稿することを心がけており、今までに5つの論文が英文誌に掲載されています。

当院NICUの治療の全国的評価

当科で全国的な評価を受けている診療分野を紹介します。

【呼吸分野】

HFO+CMV
新しい呼吸管理で、当院が最も多くの発表を行っています。学会での教育セミナー、東京・名古屋など各都市で計3回のセミナーを行っています。
Nasal IMV
当科はこの呼吸方法のパイオニアで「手引書」を分担執筆しています。
在宅 nasal CPAP
当院の医療技師が治療方法を論文化しています。当科はこの呼吸方法のパイオニア的存在で「手引書」を分担執筆しています。全国トップレベルのNICUからも時々、ノウハウについての問い合わせがあります。医師以外の技術職の高いレベルがNICUの治療レベルを底支えしています。

【循環分野】

医療雑誌に循環分野の約10編の依頼総説を載せています。また周産期循環管理研究会の幹事を務め、周産期循環管理研究会を主催し会長講演も行っています。

【電解質】

新生児の亜鉛のデータは全国有数で、山形県などで講演を行っています。

【感染】

先天性麻疹について3編の総説を医療雑誌に載せ、先天性サイトメガロウイルス感染症については東京で招待講演を行っています。

【栄養】

NICUにおける母乳栄養については全国トップクラスといわれ、総説が多数あり、シンポジスト発表や全国各地での依頼講演を行っています。また母乳関連の学会・研究会の委員も複数務めています。

【ミルクアレルギー】

新生児栄養フォーラムで2回のシンポジスト発表を行っています。

【黄疸管理】

総説が1編あります。日本新生児黄疸管理研究会の幹事を任され、新病院で「新生児黄疸管理研究会」を主催する予定です。

【ファミリーセンタードケア】

「いわき共立のファミリーセンタードケアは全国有数である」と雑誌や研究会でたびたび紹介され、学会での教育セミナー、医療雑誌の総説、シンポジスト発表、全国各地での依頼講演を多数行っています。

【デベロップメンタルケア】

児のストレスを軽減し発達促進する治療で、子宮内と同様の運動を促すポジショニングの分野で、学会の教育セミナーとシンポジスト発表を行っています。

【震災対策(放射線対策)】

いわき市の医療施設で忘れてはならない、大切な役割は震災の記憶を記録として残していくことです。当科の経験を全国各地で多数講演し、医療雑誌に総説を残して、学会でのNICU震災対策マニュアルの分担執筆を行っています。

周産期医療で忘れてはならない、大切なものは母子の絆

前述のように、NICUは重症な新生児を高度で集中的なケアを行い救命する病棟です。しかし、母子の絆の形成(母子間愛着形成)がなければ、どんなに治療困難な症例を救命しても、退院後に虐待や育児放棄につながってしまい、すべての努力が無駄に終わってしまいます。そのため当科では、母子の絆を深める母乳育児やファミリーセンタードケアを積極的に行っています。開棟時は母子が一緒に過ごせる母子同室の部屋を備えた国内で唯一のNICUでした。現在は同様の施設が増えてきています。虐待が社会問題となる現代社会において、NICUだからこそ見えてくる母子の絆の重要性があります。

1つはスキンシップの重要性であり、当科では積極的にカンガルーケアを行っています。カンガルーケアとは、裸の母の胸の上に裸の赤ちゃんを抱っこするスキンシップの抱っこのことです。カンガルーケアを行う前、発展途上国ではNICUで治療し退院した赤ちゃんを病院前へ捨てる親が多かったようですが、行った後は捨て子はなくなったそうです。さらに先進国の健康な母子でも生まれた直後にスキンシップがない場合、1年後の母の子どもへの愛着行動が減ることが報告されています。3歳までの母の愛着行動は児に大きな影響を与え、3歳時の性格や人格は成人期に影響をもたらし、30歳代の収入や幸福度に影響することも報告されています。周産期のわずかな母子の接触が人生を左右するのです。

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カンガルーケア裸の母の胸の上に、裸の赤ちゃんを抱っこするスキンシップの抱っこのこと

このことは裏を返せば、わずかな母子接触がなければ愛着形成が難しくなる、つまり母性とは何もせずに自然に生まれるものではなく、周囲の助けによって、集団の中で育まれるものなのです。

周産期により良いケアを受け、より強い母子愛着形成が得られれば、子どもは幸福に育ち、幸福な子どもが増えれば、幸福な大人が増え、結果として社会は平和で幸福になると考えます。周産期医療とは疾病を治すだけの医療ではなく、社会の礎をつくり、社会全体に影響を及ぼし働きかける医療なのです。

最も愛する人に愛され、愛する幸せを保証するのが周産期医療の役割の1つです。

NICUの抱える課題

【認可NICUベッド不足】

当院はNICU認可病床数6床と、重症度の低い安定した赤ちゃんをケアする看護師の数も少ないGCU(Growing Care Unit)相当の12床、合計18床で診療を行っています。旧病院ではGCU相当のベッド数が14床あり合計20床でしたが2床減少しています。

地域の生活を支える重要なNICUは、人口当たりの望ましいNICUベッド数が厚生労働省から提言されており、いわき市35万の人口からは約7~8床が必要です。NICUのベッド数は3刻みで設置されるので、本来であれば9床の認可ベッドが必要なのです。未熟児・新生児科は1990年の開棟以来、9床の認可NICUを要望していますが増床されず、6床のまま約30年経過しています。

そのために重症な新生児の入院が続くと、集中的なケアが必要な重症新生児がNICUから移動する必要があり、看護師の観察が十分にできないGCUで治療しなければならない状況が、ほぼ常態化しています。前述のように重症な新生児は24時間の観察と変化に応じた対応が必要であり、それができなければ、命の危険に晒(さら)されます。綱渡り状態での診療が常に行われており、看護師の献身的で超人的な看護によって、いわき市の周産期医療は支えられているのが現状です。

【GCU加算がとれていない】

GCUは6床に1人の看護師配置が義務付けられています。しかし、これは認可保育所で健康な赤ちゃん3人に対し1人の保育士の配置が義務付けられていることと比較しても、病気で命の危険のある赤ちゃんを看護するGCUでは危険で不十分な人員配置であることが問題になっています。

当院のGCUは開棟以来、GCUとしての人員配置を行っていないため、旧病院では14人の赤ちゃんを1人で担当するという離れ技の看護業務を行い、いつ医療事故が起きても不思議でない診療体制が続いていました。保育所の人員配置数と比較しても、いかに危険な状態に重症な赤ちゃんが晒(され)ているかは容易に認識されるでしょう。

【NICU合計ベッド数の減少】

旧病院ではNICUとGCUを合わせたベッド数は20床でしたが、新病院では18に減っています。20床あった旧病院でも満床のため、本来であれば当院で治療可能な週数でも、母体搬送といって妊娠している母親を郡山・福島・会津若松・水戸に搬送しなければならない事態は毎年訪れていました。新病院では病床数が逆に減少したため、満床を理由に地域外への母体搬送の頻度がさらに増すことが予測されます。遠方へ母体搬送された場合、母親は数日から1週間で退院となるため、長期間通わなければならず、雪に慣れていないいわき市民にとっては冬場の遠方への通院は負担が大きくなります。また長期の母子分離は母子愛着形成不全につながり、赤ちゃんが無事退院しても地元に戻ってからの虐待死が起きるケースもあります。

最後に

いわき市の医療施設で忘れてはならない大切な役割は、震災の記憶を記録として残していくことです。当科の経験を全国各地で多数講演し、医療雑誌に総説を残し、学会でのNICU震災対策マニュアルの分担執筆を行っています。また学会での教育セミナー、医療雑誌の総説、シンポジスト発表、全国各地での依頼講演を多数実施し、「いわきから世界に情報発信」することを常に目標にしています。

当院NICUでは、診療の各分野で全国トップレベルの評価を受けた治療をいわき市の赤ちゃんたちに提供しています。

更新:2023.04.03