胃がんの手術
いわき市医療センター
外科
福島県いわき市内郷御厩町久世原
胃がん治療の基本とは
胃がん治療の基本は、「病変を完全に切除し、体の中に残さない」ことです。最近では抗がん剤による治療も、ある程度の効果が認められるようになりましたが、薬だけで治る胃がんは非常にまれです。抗がん剤の場合、「効果がある」というのは「治る」という意味ではなく、何もしないよりわずかでも長生きができた場合に「効果がある」と表現されます。
それでは、「病変を完全に切除し、体の中に残さない」というのはどういう意味でしょうか。がんという病気は雑草に似ています。地面から茎が伸び、花を咲かせて種を飛ばす、そして地中を伸びる根っこがあるのです。雑草が小さければ、ちょっとつまんで抜いてしまえばもう生えてくることはありません。しかし根っこを残すと、そこからまた生えてきますし、種ができて遠くに飛んでいきます。そして別な場所で芽を出すと、そこで雑草は増えてしまうのです(これらがいわゆる「転移」「再発」といわれるものです)。
早期の胃がん(がんの深さが浅い)の場合、胃カメラで表面を削り取れば(EMR/ESD)、「完全に取れた」状態となります。しかし予想していたよりもがんが進行していれば、削り取った表面に根っこが残った状態となり、これを取るためには手術で胃を切り取る必要が出てきます。
胃がんに対する手術
がんができた場所、あるいはがんの大きさによって、胃を全部取る手術(=胃全摘)、胃の出口(幽門(ゆうもん))を含む3分の2程度を切除する手術(=幽門側胃切除)が基本的な術式になります。幽門側胃切除の中には幽門を残して、手術の影響を減らすことを目的とした幽門保存胃切除術もあります。また、入り口(噴門(ふんもん))近くのがんに対しては噴門側胃切除が行われることもあります。
種が周りにばらまかれたとしても、元の場所の近くであれば一緒に切除することで、再発を抑える効果があります。これがリンパ節郭清(かくせい)といわれる手術で、取る範囲はある程度決められています。がんが成長してしまっていると判断された場合には、より広範囲のリンパ節を取る必要が出てきます。胃の切除とリンパ節郭清は同時に行い、これが標準的な胃がん手術といわれています。
胃がん手術は数年前から、従来のように開腹して行う方法に加えて、お腹(なか)を開けることなく腹腔鏡(ふくくうきょう)というカメラを用いて実施する方法が導入されてきました。手術をする目的、切除範囲などは変わりませんが、進行がん(がんが胃の筋肉や漿膜(しょうまく)、さらに外側まで伸びている)の場合には開腹して行っています。
腹腔鏡手術でも開腹手術でも、胃を切除した後には、食べ物が通る道を作り直してあげる必要があります。当科で一般的に行っている方法を「図1」に示しました。胃全摘の場合には1本道に脇道ができたような「ルーY法」(図1右)で、幽門側胃切除の場合には切り口を直接縫い合わせる「ビルロートⅠ法」(図1左)で行っています。
どういう術式(治療法)を選択するかは、日本胃癌学会が出している「胃癌治療ガイドライン」(いわゆる胃がん治療の教科書)に詳しく載っています。患者さんにも分かりやすく示したものが「図2」です。しかしこれだけで治療法が決まるわけではなく、そのときの患者さんの年齢や合併症、本人や家族の希望などを考慮しながら、私たち医療スタッフ(医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、リハビリ部門、メディカル・ソーシャル・ワーカー)と話し合い、それぞれの患者さんが納得のいく治療を行っています。
手術により見た目では完全に取り切れたと判断されても、がん細胞が体の中に残ってしまっている場合もあります。雑草はなくなったけれど、種がばらまかれてしまった状態です。このような場合には種が芽を出すのを抑えるために、抗がん剤を一定期間飲んでいただくことがあります。これが「術後補助化学療法」といわれるもので、再発を抑える効果が確認されています。
クリティカルパスの活用
当科で一般的に使用している胃がん手術のクリティカルパスを示します(表)。これは、過不足やミスのない診療を行うために私たち医療スタッフがあらかじめ診療計画書を作り、患者さんと共有しているものです。もちろん、先に述べたように治療法については患者さんごとに違ってきますので、それに応じてこのパスを変更することもあります。
最後に、当院は地域がん診療連携拠点病院であると同時に臨床研修指定病院でもあります。胃がん治療においても、若手医師がかかわる機会が多々ありますが、決して1人で診療することはありません。指導医を含め他部門の医療スタッフと一体となって診療しますので、安心してお任せください。
更新:2024.01.25