心臓血管疾患を予防から治療後まで一貫してフォロー

いわき市医療センター

心臓血管外科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

心臓血管疾患は大きく3つに分けられます

成人の心臓血管疾患は大きく分けると、心臓弁膜症、狭心症、大動脈疾患の3つに分類されます。原因のほとんどは、加齢および長年の生活習慣病によって起こる動脈硬化が進み、心臓や血管の機能が悪くなることによるものです。

まず、心臓弁膜症について説明します。心臓内には、全身から戻ってきた血液を肺へ送り、肺で酸素をもらって心臓に戻ってきた血液を全身に送り出すために効率よく働く、4つの「弁」という扉があります。心臓弁膜症は、この弁のいずれかが、加齢や動脈硬化によって劣化して機能が落ちたり、果たさなくなったりする病気です。

狭心症は、動脈硬化により心臓に栄養を送る冠動脈が狭くなる病気で、悪化すると完全に冠動脈が閉塞(へいそく)して心筋梗塞(しんきんこうそく)に至ります。

そして大動脈疾患は、動脈硬化により、心臓から出た血液を全身に送る大本の血管である大動脈に瘤(こぶ)ができたり、血管内膜が剥(は)がれたり、裂け目ができたりする病気です。

狭心症・心筋梗塞と大動脈疾患は、救急車で運ばれてくるような緊急の場合も多く、治療が遅れると命にかかわることもあるとても怖い病気です。これらの病気が発症する前の動脈硬化が進展している段階で、きちんと服薬治療や生活指導をすること、発症してしまった場合には、外科手術をはじめとする適切な治療で患者さんの命を救うこと、治療後のリハビリテーションも含めた、QOL(生活の質)を保つことが大切なのです。

心臓血管疾患の治療にオールマイティで応えます

当科は、福島県浜通り地域で唯一の心臓血管外科施設です。5人の専門医を含む6人体制で、オールマイティに手術にあたることができます。

病院が新しくなったのを機に、これらの医師により2チーム体制を敷いています。例えば、1チームが手術中の場合であっても、もう1つのチームが、救急搬送されてきた緊急の患者さんに対応できる体制となりました。さらに、心臓血管疾患の内科的治療にあたる循環器内科も含めて、ハートチームとしての体制を敷いています。循環器内科と協力しながら、経カテーテル大動脈弁置換術(だいどうみゃくべんちかんじゅつ)(TAVI)といった、血管内治療も行うことができるため、正確には3チーム体制です。この3チームが同時進行で稼働できる体制を目指しています。

イラスト
図 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)

ハートチームは、医師のみならず、臨床工学士、看護師、薬剤師など医療にかかわるすべてのスタッフが、週に1度のカンファレンス(症例検討会)を通して、個々の患者さんの情報を共有し、全員が一丸となって患者さんのフォローにあたっています。そして先述した3つの心臓血管疾患について、個々の患者さんの状況に応じて適切な治療を行っています。

例えば、大動脈弁狭窄症という病気では、以前は、80歳以上の患者さんは治療適応にならないため、積極的治療をすることができませんでした。しかし2014年以降、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)という血管内治療が可能になりました。

この治療を福島県で最初に行ったのが当院であり、2018年には年間47例実施し、現在、TAVIの症例数は県内随一です。

狭心症・心筋梗塞に対する治療は、循環器内科が行う心臓カテーテルによる血管内治療と、心臓血管外科が行う冠動脈バイパス手術の選択肢があります。患者さんの病態や身体状況ほか、さまざまな要因を心臓血管外科と循環器内科と双方で精査して選択しています。そのため、心臓カテーテルの治療数と冠動脈バイパス手術の治療数のバランスが良いことも特徴です。

冠動脈バイパス術の年間症例数は50例(2017年)、うち単独冠動脈バイパス術は30例です。患者さんの高齢化とともに近年増えている心臓弁膜症など、ほかの病気の手術を同時に行う複合冠動脈バイパス術は20例です。冠動脈バイパス術については、患者さんへの負担を軽減するために、可能な症例ではオフポンプ手術(心臓を動かしたまま、人工心肺を使わずに行う手術)を実施しています。私は全国の心臓血管外科医でオフポンプ手術について議論する「OPCAB研究会」の幹事も務めています。

心臓弁膜症の年間手術は84例、うち2弁同時に行う手術も12例実施しています(2017年)。大動脈疾患も同様に、外科手術と内科による血管内治療であるステントグラフト内挿術の両方が適応可能です。胸部大動脈瘤(きょうぶだいどうみゃくりゅう)・解離の年間手術総数は74例(2017年)。そのうち27例がステントグラフト内挿術です。

ほかにも手術に伴う切開や出血など、患者さんの体にできるだけダメージを与えずに術後の回復を早める低侵襲(ていしんしゅう)手術を行います。同時に、あらゆる選択肢を視野に入れ、患者さんにとって最良な手術を適応・実施しています。

このように、大学病院や首都圏の大型病院に引けを取らない数々の治療の選択肢を備えており、海外への留学経験や臨床経験も豊富な医師たちが治療にあたっています。

心臓血管疾患予防の啓発活動も実施

心臓血管外科は、手術を担当する外科ではありますが、ハートチームの一員として心臓血管疾患の予防についても力を注ぎ、その啓発活動も行っています。

当院があるいわき市は、東北地方のなかでも温暖な地域で、日照時間も東日本で随一という恵まれた気候です。海産物も豊富で、豊かな自然に恵まれた好立地です。それにもかかわらず、当地域はメタボリックシンドロームの人が多いのです。

これは恥ずべきことと考えて、その予防のための生活指導についても力を入れています。高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満は、将来的に動脈硬化へつながり、ひいては心臓血管疾患を引き起こします。それを未然に防ぐためにも、私たちは公開市民講座などを催し、生活習慣病予防の大切さを訴え続けています。

このように心臓血管疾患の予防、治療後の生活を考慮しての治療適応、治療後のフォローアップなど、切れ目なく行っていくことが大事だと考えています。

震災後のストレスによる心臓血管疾患についても考慮

いわき広域地域の特徴としては、東日本大震災後に心疾患が増えているということです。私自身、福島県立医科大学災害医療支援講座教授でもあり、毎年、研究会の調査を行っています。震災後に人口が増加したいわき市において、震災後のストレスにより、心臓血管疾患が増えている傾向にあることが分かりました。具体的には、震災前の数年では冬に多かった大動脈瘤破裂をはじめとする心臓血管疾患が、震災後の数年では季節にかかわらず増えている傾向にあります。その原因について、直接震災との因果関係を示す明確なエビデンスまではないのですが、その因果関係を否定することはできないと考えています。

いずれにせよ、今後もさらなる高齢化に伴って心臓疾患の患者さんは増えると予測されますので、全力で対応していきたいと考えています。

更新:2022.03.08