合併症がこわい「糖尿病」を知る

いわき市医療センター

糖尿病・内分泌内科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

糖尿病の合併症とは

糖尿病とは、血糖値(血液内のブドウ糖濃度)はもとより、脂質・蛋白質(たんぱくしつ)を含む多くの代謝に異常をきたす疾患です。代謝異常が持続すると合併症と呼ばれる全身の血管障害を引き起こします。神経、眼、腎臓(じんぞう)では細い血管が障害を受け、糖尿病特有の合併症となります。糖尿病特有の合併症は数年かけて進展し、視力障害(時に失明)、腎不全、足壊疽(あしえそ)となる可能性があります。また、高血糖は動脈硬化を早めて心筋梗塞(しんきんこうそく)・脳梗塞・下肢動脈閉塞(かしどうみゃくへいそく)の一因となります。

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視力障害
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心筋梗塞

合併症は日常生活の質を著しく低下させ、時に生命に危険を及ぼすことがありますので、血糖をはじめとする代謝異常を是正し合併症の進展を阻止して、できる限り健康的な生活を過ごせるようにすることが、糖尿病を治療する目的になります。当院では多職種の医療スタッフの協力で糖尿病患者さんがスムーズに治療を開始し、無理なく継続できるよう治療サポートを行います。

糖尿病を知るための検査

糖尿病を知るための主な検査として、次の3つがあります。

1.血糖の程度を知る

血糖値以外にも、ある一定期間の血糖の高さを知るための検査としてHbA1c、グリコアルブミン、1-5AGがあります。糖尿病は、主に血糖値とHbA1cが診断に用いられます。治療開始後も血糖を良好に保てるよう、血糖値だけではなくHbA1cやグリコアルブミン、1-5AGを指標として薬の調整を行います。

昨今は、CGMやFGMと呼ばれる血糖変動を詳細に推測することのできる装置があり、当院でも採用しています。CGMは腹部か上腕に500円硬貨程度の大きさのセンサーを貼り付け、5分ごとの血糖値(正確には血管外のブドウ糖濃度)を測定し2週間分を記憶して検査が終了します。検査終了後に解析を行い、日々の血糖値がグラフで表示され、それをもとに血糖を精密に管理できます。インスリン注射による治療を行っている一部の患者さんには、上腕に貼り付けたセンサーに血糖測定端末をかざすだけで、その時点の血糖値を簡単に知ることができるタイプのFGMも使用しています。

2.インスリン分泌量・インスリンの効きやすさを知る

膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンというホルモンは、体内で唯一血糖値を下げる作用を持っています。インスリンの量や効きやすさを知ることは治療方針を決めることに役立ちます。当科では人工膵臓装置を用いて、インスリンの効きやすさを比較的正確に検査することができます。また、内臓脂肪の蓄積に伴う肥満によりインスリンが効きづらくなるため、体組成成分分析装置を用いて脂肪量や筋肉量を知ることも重要です。

3.慢性合併症の程度を知る

慢性合併症は数年から数十年かけて進行します。糖尿病と診断される以前から無症状のまま高血糖状態が続いていて、診断の時点ですでに合併症が進行している場合もあります。合併症の程度によって治療内容が変わることもありますので、早い段階での検査が必要です。

神経の合併症は神経伝導速度測定・自律神経検査を行い、眼の合併症である網膜症は眼科と連携して診断・治療を行います。腎臓(じんぞう)の合併症は、尿検査・血液検査を行いますが、進行の程度によっては腎臓専門医と連携します。動脈硬化を知るために頸動脈(けいどうみゃく)エコー検査や血圧脈波速度測定・足関節上腕血圧比検査・加速度脈波測定・血管内皮機能検査を行うことができます。

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糖尿病の検査(尿検査)

当科の治療――欠かせない食事療法

2018年は延べ約8700人の外来診療、約250人の入院診療を行いました。初めて治療を受ける患者さんや、合併症が進行しているなどの重症な患者さんへの治療と指導が主となっています。

食事療法・運動療法・薬物療法の治療3本柱はいずれも大事ですが、良好な血糖コントロールを得るためには食事療法が欠かせません。しかし、食事は栄養摂取のみならず人生の楽しみの1つと考えている患者さんも多く、食事制限するだけではストレスが溜(た)まってしまい長く続けることができません。

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糖尿病の療法(食事療法)
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糖尿病の対策(ウオーキング)

当院では、満腹感を得られつつバランス良く、適切な食事を摂る工夫として食べる順番を意識することを指導しています。具体的には、野菜を先に食べきってからおかずを食べはじめ、ごはんはおかずをほぼ食べ終わってから茶碗によそうようにして、最後までゆっくりよく噛んで食べる方法です。このような食べ方の指導を行うようになってから、多くの患者さんが薬剤を増やすことなく血糖値が改善しています。また、時には薬剤を減量できることもあります。

食事・運動療法で十分な改善が得られない場合には、患者さんに応じた適切な薬剤治療を導入します。インスリンを含めた注射治療が必要な場合、外来通院でも治療開始できる体制が整っています。

1.外来診療

外来では概ね1~2か月に1回の通院で治療を行います。看護師(糖尿病療養指導士)、管理栄養士、医師が協力して患者さんの最適な治療を考えています。食事指導は主に管理栄養士、看護師は生活環境を聞き取り、それを踏まえて生活指導を行っています。

当院では中央大学との連携で、患者さんの外来通院の質を向上させることができうるMEHICAプログラムという研究に参加しています(2019年1月現在)。

2.入院診療

入院では、血糖値を改善させるのみならず糖尿病の知識を習得するための血糖コントロール・糖尿病教育入院と合併症などを管理する入院があります。

≪血糖コントロール・糖尿病教育入院≫

8日間で糖尿病教室を受講する短期入院と、数週間から1か月の比較的長期の入院があります。

  • 短期入院は看護師、管理栄養士、リハビリスタッフ、医師による講義やディスカッションを行いながら糖尿病の基本的な知識を習得するとともに、糖尿病治療の目的を理解し治療目標を立てていただける内容になっています。入院中には可能な範囲で合併症の検査や、腹部エコー等の検査を並行して行います。
  • 比較的長期の入院では、短期入院で行う内容に加えて退院後の治療の骨組みを整えることを目標にします。具体的には、インスリン注射の治療を開始して良好な血糖値にすることや、場合によってはインスリンをやめられるかどうかも検討します。また、実際に糖尿病食を摂取することで食事療法を体に覚えこませることも重要です。

≪合併症を管理する入院≫

急性合併症と呼ばれる低血糖や高血糖による緊急入院治療を行います。また、腎症・神経障害のみならず、肺炎・尿路感染症といった感染症(糖尿病患者さんは感染症に罹患(りかん)しやすく重症化しやすい)や脳梗塞(のうこうそく)などの合併症の治療目的で入院になることもあります。

昨今、糖尿病性腎症の進行から透析導入となる患者さんが多いことが社会問題化しています。血糖値を改善するだけではなく蛋白制限食、塩分制限、肥満改善、禁煙、降圧などを行い、腎症の進行を防ぎ、腎不全・透析を回避しなければなりません。また、高血糖では免疫力が低下しているため、肺炎や尿路感染症にかかりやすくなります。血糖値や生活環境を改善することで予防したいところですが、残念ながら感染症になってしまうこともあり、重篤な場合には入院での治療を行っています。糖尿病は全身血管病ともいえますので、動脈硬化の進行などから脳や心臓、足の血管が詰まってしまうこともしばしばです。その場合には、それぞれの専門科と協力して治療を行います。

継続可能な治療の提案

糖尿病は付き合い方によっては、患者さんにとって正反対の顔を見せます。糖尿病を放置していると長年にわたって血管が障害を受け、全身の合併症を引き起こす恐ろしい顔を見せ始めます。糖尿病と上手に付き合うことができれば、合併症を起こさず、症状を出さず、穏やかな顔を見せてくれます。

糖尿病は合併症が進展するまでは無症状なことも多いため、楽観視して通院を中断してしまうケースがみられます。例えば、自動車は普段からメンテナンスをしていれば故障しづらく長持ちすることが多いですから、糖尿病でも同様に考えて無症状でも合併症が出ないよう通院を続ける必要があります。

このように糖尿病の治療は生涯継続しなければならず、普段の忙しい生活の中でも続けられるような現実的な治療が重要です。当院では、患者さんが糖尿病と上手に付き合えるような向き合い方を多方面から検討し、継続しやすい治療を提案したいと考えています。

更新:2022.03.08