最凶のがん「膵がん」を知る

いわき市医療センター

消化器内科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

膵臓の仕組みと役割とは

皆さんはまず膵臓(すいぞう)がどこにあるかご存じですか?

胃を通り越した先、十二指腸についている横長に伸びる臓器です。十二指腸に接している側から膵頭部、膵体部、膵尾部と呼ばれます。膵臓には胆管や主膵管と名のつく管が通っていて、胆汁や膵液といった消化液を十二指腸に分泌しています(図1)。それらの消化液によって食事がきちんと消化され、栄養として吸収させる手助けをします(外分泌機能)。また、インスリンなどのホルモンを血液中に分泌し、血糖をコントロールする働きもしています(内分泌機能)。

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図1 膵臓の仕組み

膵臓は胃の背中側にあり、膵臓病で背中が痛くなることが多いのはそのためです。膵臓には比較的病気が多く、体質によるものから、食生活、アルコール関連、ひいては遺伝に伴うものもあります。すぐに腹痛や背部痛が現れて気がつくものもあれば、中には症状が出たときにはすでに進行している病気もあります。その中の1つ、膵がんについてお話しします。

膵がんとは?

最近、テレビやSNSなど多くの情報が飛び交う中で、膵がんについての関心が高まってきています。当院にも膵がんを心配して来院される患者さんが多くいらっしゃいます。膵がんは最凶のがんといわれ、国立がん研究センターでまとめたがん死亡データ(表)によると、男性では肝臓がんに次いで第5位、女性では肺がんに次いで第3位の死亡数になっています。膵がんといってもさまざまなタイプがあります。膵管から発生する膵管がん、膵臓を構成する細胞から発生する膵腺房細胞がん、粘液を分泌するポリープを作り出してしまうタイプの膵管内乳頭粘液性腺がん、もしくは粘液性のう胞腺がんなどです。その中で最も頻度(ひんど)が高いのは、私たちが通常型膵がんと呼ぶ、浸潤性(しんじゅんせい)膵管がんです。

  1位 2位 3位 4位 5位  
男性 大腸 肝臓 膵臓 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸7位
女性 大胃 膵臓 乳房 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸9位
合計 大腸 膵臓 肝臓 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸7位
  1位 2位 3位 4位 5位  
男性 大腸 前立腺 肝臓 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸5位
女性 乳房 大腸 子宮 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸7位
男女計 大腸 乳房 前立腺 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸6位
表 がん死亡データ

膵がんの代表的な症状としては、腹痛・背部痛・黄疸(おうだん)・食欲低下などがあります。しかし、膵がんは自覚症状が出たときには、すでに進行していて手術ができないことも多く、それが死亡数の多い原因の1つです。しかも、年1回の健康診断程度の検査でそれを見つけるのは難しいと言わざるを得ません。先にも述べたとおり膵臓は背中側にあり、レントゲンや超音波検査でも死角になって見えにくいことや、血液検査でも膵がんを調べるための必要な項目(腫瘍(しゅよう)マーカー)が網羅されていないためです(図2)。膵がんを治療するためには早期発見が非常に大切です。心配な症状などがあれば、まず最寄りの医療機関に相談しましょう。そして万が一、疑わしいと判断された場合、大きい病院(中核病院)に紹介してもらい精密検査を受けることになります。

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図2 膵がん診断に必要な項目(腫瘍マーカー)

膵がんの疑い? 検査法は

では次に、膵がんの疑いとして中核病院に紹介された場合、どのような検査をするのでしょうか。まず腹痛、背部痛はないか、食欲、発熱、だるさの有無など、今までかかったことのある病気、タバコは吸うか、お酒は飲むか、などいろいろ話を聞かれます。それを医療面接(問診)といいます。痛いところがあれば、触られたり押されたりします。それを触診といいます。血液検査も行い、その後画像検査に移ります。やはり膵がんが疑わしいときには超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)などの精密検査を追加していきます(図3)。

フローチャート
図3 膵がんを見つけるために行う一般的な検査

腫瘍が見つかった場合、がん細胞が出れば〝がん〟と診断します。がん細胞が認められなかった場合でも、がんの疑いを持ってどこまでもがんの精密検査を続けます。〝がん〟と診断することは意外にも簡単なことなのですが、〝がんではない〟と診断するのは非常に難しいことなのです。いつも〝万が一〟の事態を考えています。

さまざまな膵がん治療

そして〝万が一〟膵がんと診断された場合には治療を考えなくてはいけません。

膵がんの治療には、手術・化学療法(抗がん剤)・放射線療法などがあります。がんはどの程度まで周囲に広がっているのか、転移はあるのか、そして患者さんの年齢、体力、社会的環境なども加味して内科医、外科医の合同会議(カンファレンス)で相談し、最善と思われる治療法を患者さんに提案します。その際、患者さんに分かりやすく説明し、両者納得の上で治療方針を決定します。膵がんの進行度によって最善の治療法は違いますが、最凶のがんである膵がんを治療するためには、それらを上手に組み合わせる必要があります。

手術は、がんのできた部位によって術式が異なりますが、膵頭十二指腸切除術・膵体尾部切除術・膵中央切除術・膵全摘術などがあります(図4、5)。膵臓は、解剖学的に十二指腸や胆管・門脈などの大事な脈管と接しており、さまざまな臓器を切除し、その後、消化管再建といって、術後に日常生活に支障がでないよう、残った胃や膵臓、胆管と腸をつなぎ合わせする必要があることが多いのです。8時間を超える長時間の手術となることがあるのはそのためです。体力のいる大きな手術ですが、現在は、手術だけが本当の意味で膵がんを治すことを目指せる治療法です。化学療法や放射線療法には、まだそこまでの治療効果は証明されておらず、できるだけ病気の進行を遅らせることや、手術と組み合わせる(術前治療や術後治療)ことで治癒を目指すということになります。

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図4 膵頭十二指腸切除術
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図5 膵体尾部切除術

現在、膵がんに使われる抗がん剤は約5種類あり、それらの組み合わせもしくは単剤で投与します。最近の抗がん剤治療は生活レベル(Quality of Life/QOL)を落とさないことを原則としていますので、外来通院治療をしながら自宅での日常生活を送っていただけるような投与法になっています。抗がん剤の発達は目覚ましく、最初に手術はできないと判断されても、抗がん剤治療を行うことで手術ができるようになることもあり、膵がんになったからといってあきらめることはありません。

また、がんの局所を制御する目的で放射線治療が選択されることもあります。さらに、陽子線治療も最近注目されてきています。

当院では、手術・抗がん剤治療・放射線治療を地域の中核病院として積極的に行っており、また陽子線治療なども、患者さんの希望に応じて施行可能な施設と連携をとり、膵がん治療をすすめています。

更新:2024.01.25