顔面の外傷と治療

いわき市医療センター

形成外科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

形成外科で取り扱う顔面の外傷は、皮膚の損傷、皮下組織(筋肉、神経など)の損傷、顔面骨骨折に大別することができます。それぞれについて当院での治療を説明します。

皮膚の損傷

顔面の皮膚はほかの部位に比べて表情を伴うため、動きが大きい部分が多く、いくつかのユニットに分けられ、それぞれに特徴があります。眼瞼(がんけん)の皮膚は薄く皮下脂肪も少なめで軽く動きやすくなっています。一方、おでこと頬(ほお)の皮膚はしっかりしていて、皮下脂肪も多めで顔面では比較的動きの少ない部分です。上下口唇(こうしん)の皮膚はその中間的な性質です。外傷の場合は、それぞれの性質にあった方法で縫合します。また皮膚には、傷跡がきれいになりやすい方向(RTSL、図1)があり、可能な場合はその方向に合わせた傷跡になるように工夫します。縫合する際はなるべく傷跡が残らないように気をつけます。

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図1 傷跡がきれいになりやすい方向(RTSL)

傷の状態などによっては傷跡が目立ったり、ひきつれたりすることがあります。その場合は3か月以上経過を見た後で瘢痕(はんこん)形成(傷跡をきれいにする手術)を考えます。マンガなどでは「傷跡を消す」手術と紹介されることがありますが、今のところ完全に消すことは不可能で、目立たなくする、ひきつれを改善することが目的の手術です。

皮下組織の損傷

顔面の皮下には表情筋の層があり、これにより豊かな表情が生まれます。また表情筋を動かす顔面神経、感覚神経の三叉(さんさ)神経もあります。ほかにも涙を鼻に流す涙小管(るいしょうかん)、涙のう、唾液を作る耳下腺と耳下腺管、鼻と耳には軟骨、顔面動脈などがあります。顔面の外傷で特に深い傷の場合は、これらの皮下組織の損傷を疑って診察することが大切です。それらの損傷が疑われるケースは修復が必要になる場合があります。

表情筋の場合はその層を見極めて縫合します。神経、動脈、涙小管の損傷に対しては、顔面神経は0.5~3㎜、顔面動脈はしばって出血を止めるだけのことも多いのですが、0.5~2㎜と細いため、顕微鏡を使っての手術、マイクロサージャリーを行います。

涙小管の手術は専用の管を用いて、やはりマイクロサージャリーで行いますが、つないだところが詰まりやすいため、先に専用の管を眼瞼にある涙小管の入り口(涙点)から鼻腔(びくう)まで通した後に涙小管をつなぎます。この管は約3週間留置します。涙小管が詰まると常に涙が流れ出る状態になるため、眼瞼(がんけん)の外傷の場合は涙小管の損傷を確認することが大切です。

顔面骨骨折

顔面の外傷、特に交通事故などの高エネルギー外傷では、顔面骨の骨折を合併することがあり、注意が必要です。顔面骨とは下顎骨(かがくこつ)、上顎骨(じょうがくこつ)、頬骨(ほおぼね)、鼻骨(びこつ)、眼窩(がんか)を構成する骨などを含みます(図2)。受傷原因や症状などで顔面骨骨折を疑ったときにはレントゲン、CT等の検査を行います。特に3D-CTでは骨折部位が視覚的に分かりやすく、患者さんや家族への説明にも役立ちます。

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図2 顔面骨骨折の生じやすい部分

当院では下顎骨、上顎骨骨折は口腔(こうくう)外科でも取り扱っており、良好な噛み合わせと十分な開口を目指します。口の中または皮膚を切開して骨折を整復、金属のプレートとスクリューで固定します。その後、噛み合わせをよくするために上下顎に歯科矯正の器具のようなものを3~6週間装着、上下顎を固定(顎間固定)して、なるべく良い噛み合わせが得られるようにします。骨折の部位、ずれの程度によっては顎間固定のみで治療が可能なことがあります。

頬骨骨折は以前、某歌舞伎役者が受傷して手術したことで話題になりました。頬の変形、開口障害、頬のしびれなどの症状があります。性別、年齢、症状により、また本人とも相談して手術をするかどうかを決めます。手術はまつ毛のすぐ下と口の中を切開、骨折を整復して、体内で数か月で溶ける特殊なプレートとスクリューを使用して固定します。

眼窩骨折は眼科でも扱っており、頬や眼球の打撲で骨折します。眼球運動障害、物が二重に見える、頬のしびれなどの症状があり、手術しなくても改善する患者さんもいますが、症状が続くときやCTで骨折に眼球を動かす筋肉が挟み込まれているような場合は手術を行います。頬骨骨折と同様に、まつ毛の下と口の中の切開で整復して、骨折部を人工物または本人の骨、軟骨などでふさぎます。

鼻骨は耳鼻科でも取り扱っており、けんかやスポーツ中の事故などでもしばしば骨折します。年齢、骨折の程度によっては局所麻酔での治療が可能です。専用の道具を使って整復して、鼻の中にガーゼを詰めて支え、外からはアルミの板でガードします。

更新:2022.03.08