紫外線増加や高齢化で増えてきた皮膚がん
いわき市医療センター
形成外科
福島県いわき市内郷御厩町久世原
皮膚がんは、オゾン層の破壊による紫外線の増加や高齢化に伴い、最近増えてきたがんで、主なものに基底細胞がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん(有棘(ゆうきょく)細胞がん)、悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)があります。また特殊なもの、ごくまれなものとしてボーエン病、転移性皮膚腫瘍(しゅよう)、メルケル細胞がん、パジェット病、厳密にはがんではありませんが血管肉腫、隆起性皮膚線維肉腫などがあります。
それぞれの症状、治療について簡単に説明します。
基底細胞がんとは?
基底細胞がんは比較的多いがんですが、悪性度は低い腫瘍で、リンパ節転移や遠隔転移することはほとんどなく、命にかかわることもまれです。多くは黒褐色の腫瘍で浸出液や出血を伴うことがあり、顔面に発生することが多いがんです。治療は外科手術が第1選択で、腫瘍の境界から3~5㎜離して切除すれば十分完治することが多く、再発も少ないがんです。
扁平上皮がん(有棘細胞がん)とは?
扁平上皮がん(有棘細胞がん)は基底細胞がんの次に多いがんで、紫外線が原因の日光角化症(にっこうかくかしょう)ががん化したものや、熱傷の瘢痕(はんこん)にできた潰瘍(かいよう)から発生するものなどがあります。潰瘍形成やカリフラワー状にもり上がったりと、さまざまな症状を示します。顔面など紫外線が当たる部位に多く発生します。
リンパ節転移、遠隔転移の可能性もあり、このがんを疑ったときには生検(腫瘍の一部または全部を切除して病理検査をする)を行い、診断が確定したところで速やかに治療、画像検査(CT・MRIなど)に移ります。
腫瘍の境界から1㎝程度離して切除し、画像検査で疑わしい場合は、リンパ節も切除します。術後はステージ、年齢などを考慮して放射線治療や抗がん剤治療することもあります。後述するボーエン病は扁平上皮がんの早期がんタイプと考える先生もいます。
悪性黒色腫とは?
悪性黒色腫は悪性度の高いがんで、30年以上前は診断された時点で5年生存率が30%程度でした。現在は診断や治療も進歩し、当院での悪性黒色腫全体(ステージⅠ~Ⅳ)の5年生存率は向上しています。
皮膚にできる黒色~黒褐色の辺縁(へんえん)が不整な皮疹(ひしん)で発症することが多く、進行するにつれ潰瘍形成、腫瘍形成するタイプもあります。日本人では足に発生することが多いとされています。
リンパ節転移、遠隔転移の可能性も高い腫瘍なので、外来で悪性黒色腫を疑った時点で、手術や画像診断の予定を立て、生検は手術前3週間以内での実施予定を立てます。皮膚科学会では、生検から1か月以内の手術が望ましいとしています。
手術は生検の結果などで腫瘍の境界から2~5㎝離して切除し、画像診断の結果でリンパ節切除も検討します。病理の結果や年齢などを考慮して、術後の抗がん剤治療を実施する場合もあります。厳密には抗がん剤ではありませんが、2017年にノーベル賞受賞の本庶佑(ほんじょたすく)先生が開発した、ニボルマブ等を使用しています。
特殊なもの、ごくまれな皮膚がん
ボーエン病
ボーエン病は悪性の細胞が表皮内にとどまっているもので、治療は腫瘍の境界から5㎜程度離して切除で充分です。
転移性皮膚腫瘍
転移性皮膚腫瘍は、胃がんや肺がんなど、体の他の部分にできた悪性腫瘍の遠隔転移です。原発部位の診断がついているものもありますが、原発部位の症状が出る前に皮膚転移で見つかることもあります。
メルケル細胞がん
メルケル細胞がんは、表皮の一番深い部分にあるメルケル細胞から発生する腫瘍で、皮下のしこりとして発生することが多く、発見したときには遠隔転移のある症例も多い、悪性度の高い腫瘍です。
これも紫外線が原因の1つとされており、顔面等露出部に発生することが多いがんです。切除不可能なことも多く、放射線治療が比較的有効とされています。
パジェット病
パジェット病は乳房、陰部、腋の下などにできる紅斑状(こうはんじょう)の腫瘍で、はじめのうちは湿疹と思われて治療されることも多いようです。
肉眼的な境界より外に細胞が広がっていることもあり、切除術前に境界から1~2㎝の部分を生検して腫瘍細胞がないことを確認する、いわゆるマッピング生検を行います。比較的腫瘍が大きくなってから受診する患者さんが多く、手術の際には植皮が必要になります。
隆起性皮膚線維肉腫
隆起性皮膚線維肉腫は厳密にはがんではありませんが、ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全般を表すためここに入れておきます。字の通り皮膚が隆起する腫瘍で、良性腫瘍と違って硬いことが特徴です。
悪性度はあまり高くありませんが、局所再発の多い腫瘍です。最初の手術時に十分に広く切除することが大切で、再発すると悪性度が高くなるといわれています。
血管肉腫
血管肉腫も広い意味でのがんです。皮膚の中でも特に頭、顔面に多く紅斑として発症し、徐々に腫瘍、潰瘍化していきます。
腫瘍の境界から3㎝以上離して切除しますが、進行が早く転移、再発の多い悪性度の高い腫瘍です。
皮膚がんは体表に発生するため肉眼で見えるがんであり、自分または他人の目で発見することが可能な腫瘍です。怪しいと思ったら、早めに近くの皮膚科または形成外科で相談してください。
更新:2024.08.22