おそろしい病気!くも膜下出血と脳出血

いわき市医療センター

脳神経外科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

脳卒中とは?

脳卒中とは「卒然と中(あた)る」脳の病気のことです。脳の血管が破れたり詰まったりすることで急に症状が出現するのが由来です。今の今まで元気だった人が、何の前触れもなく突然亡くなったり、半身麻痺(まひ)などの重大な障害を残す恐ろしい病気です。高齢者が寝たきりになる原因としてもよく知られています。

脳卒中には、血管が破れて起こるくも膜下出血と脳出血、血管が詰まってしまい神経細胞が死んでしまう脳梗塞(のうこうそく)があります。ここでは主に脳神経外科で治療するくも膜下出血と脳出血のお話をします。

脳の特殊性

脳卒中が恐ろしい病気であることを理解するためには、ほかの臓器と違う脳の特殊性を理解しておく必要があります。

まずは硬い容器である頭蓋骨(ずがいこつ)に囲まれている点です。もともと一定の容積の頭蓋骨に脳が詰まっていますが、ここに出血が加わると頭蓋内の圧力が高まります。頭蓋内の圧力が高くなると十分な血液が脳に届きにくくなります。急激に頭蓋内の圧力が高くなれば、全く血液が届かなくなり突然死してしまうこともあります。

次に、脳は場所によってさまざまな働きをしている点です。手足を動かしたり、言葉を理解したり、視覚や聴覚、体の感覚を感じ取ったりと、場所によって分かれています。つまり障害される部位によって手足が動かなくなったり、言葉が出なくなったり、視野が欠けたりといろいろな症状が出ます。肝臓や肺などの脳以外の臓器は、概ね一様な働きをしているので部分的に損なわれても生活に支障が出ないことが多いのですが、脳では損傷される部位によってさまざまな障害が出ます。

また、神経細胞は多数の突起で神経細胞同士がつながって電気回路のようなものを作っていますが、この回路は一旦切断されるとなかなか回復しません。つまり、一旦障害されるとリハビリテーションを行っても元通りにはならず、後遺症として一生症状が残ることになります。脳全体からみれば狭い範囲の損傷でも、破壊される回路によっては重大な後遺症につながります。

くも膜下出血の原因・症状と手術

脳を包む膜は3層になっており、脳に近い方から軟膜、くも膜、硬膜とありますが、このうちのくも膜の下に出血するのでこの名前になっています。

主に脳の太い動脈にできるこぶ(=脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう))が原因になります(図1)。脳出血とは違い、太い動脈から高い圧力で出血するために突然死に至ることが多く、死に至らなくても重い後遺症を残すことがよくあります。出血が緩やかであれば、脳が障害されることは少なく、全く後遺症なく退院される人もいます。典型的な症状は、突然後頭部をバットで殴られたような強い頭痛で、嘔吐(おうと)を伴うことが多いです。頭痛を訴えた後の意識消失もよくみられます。前兆のような症状はないことが普通です。脳動脈瘤ができる原因は血管の老化とは直接関係はありませんので、20歳代や30歳代でも起こり得ます。

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図1 くも膜下出血

最初の出血が軽く済んでも動脈瘤が残っている限り、再出血の危険があります。また、くも膜下出血により不整脈や胃潰瘍(いかいよう)などの合併症を起こす頻度(ひんど)も高いです。そのため、治療はできるだけ早期に再出血を予防する手術を行い(薬では動脈瘤は治りません)、続けて合併症対策を実施することになります。

手術は2通りの方法があります。1つ目は一時的に頭蓋骨を切り取り金属製のクリップで脳動脈瘤をつぶしてしまう開頭手術です。顕微鏡を使って脳を傷つけないよう慎重に行います。もう1つは足の付け根の動脈からカテーテルという細い管を動脈瘤の中に入れて、金属製のコイルで詰めてしまう血管内手術です。X線で透視しながら行います。切開しないからといって血管内手術の方が安全に行えるとは限りません。動脈瘤の場所や形によって手術方法を選択します。開頭手術の方が歴史は古いのですが、近頃はさまざまな器具が開発され、血管内手術を選択する頻度が高くなっています。

手術が無事に終わっても安心はできません。先ほどお話ししたいろいろな合併症を起こさないように2週間程度、薬による治療が続きます。最初の出血により脳が損傷されてしまうと、リハビリテーションも必要になります。

脳出血の原因・症状と治療

脳の中に出血する病気です(図2)。高血圧症などの生活習慣病や加齢が原因で動脈が劣化することが主な原因です。ですから若年者は少なく、高血圧症などの持病を持った高齢者に多い病気です。くも膜下出血とは違い通常細い動脈から出血するため、突然死に至ることは多くはありません。しかし、脳の中に出血した際に神経細胞同士の回路が切断され、後遺症をきたしやすい病気です。典型的な症状としては、右(または左)の手足や顔が突然動かなくなります。感覚障害を伴うこともあります。こちらも前兆のような症状はないことが普通です。

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図2 脳出血

出血量が少なければ手術の必要はありません。再発防止のための持病の治療とリハビリテーションが治療の主体になります。

出血量が多く、生命にかかわるほど脳が圧迫されるようであれば、手術で血の塊を取り除くことで命を助けられることもあります。ただし、手術をしたからといって出血した際に破壊された神経回路は元に戻りませんので、後遺症が軽くなるわけではありません。

近年は脳出血の手術自体は昔ほど多くは行われていません。血の塊で周囲の脳が圧迫されることで意識障害をきたしているような場合に、圧迫を軽減して意識を改善させ、合併症を減らす目的で手術が行われます。手術は、頭蓋骨を一旦切り取り顕微鏡を使って直視下に血の塊を取り除く方法や、頭蓋骨に小さな穴をあけて内視鏡で観察しながら血の塊を取り除く方法などがあります。

予防のために

恐ろしい脳卒中を予防するためにはどうしたらよいでしょうか?くも膜下出血の原因である脳動脈瘤はタバコや高血圧症などの持病も無関係ではありませんが、体質的な要因が関係しています。家族性に動脈瘤ができやすい病気もありますので、血縁者にくも膜下出血の方がいれば、脳ドックなどを受けることを考えてみてもよいでしょう。近年はMRI検査が普及しており、くも膜下出血を起こす前に脳動脈瘤を発見できる機会が増えています。その場合、患者さんとよく相談して手術を行うか様子をみるかを決めます。脳動脈瘤があることが分かっている場合には、タバコや高血圧症がくも膜下出血の危険を高めますので、禁煙や高血圧症の治療が必要です。

脳出血に関しては、くも膜下出血と同様に禁煙と高血圧症の治療が最も大切ですが、このほかにも糖尿病など、健康診断で指摘される生活習慣病を治していくことも重要です。脳出血で入院した人は必ずと言ってよいほど後遺症が残ります。くも膜下出血と違い脳出血は、予防のために自分で気をつけられる点がいくつもあります。

高血圧症は薬を飲んでいるからといっても、十分に血圧が下がっていないことがよくあります。病院などで測る血圧は、精神的に緊張したり安心したりすることで普段の血圧を反映しているとはいえません。また、朝に血圧の薬を飲んでから測ることになるので、病院では適正な血圧であっても自宅で薬を飲む前は高いこともしばしばあります。本来であれば24時間持続的に血圧を測るのが理想的ですが、まだ検査自体がそれほど普及していません。自宅で起床時に毎日血圧を測って傾向をみるのが、比較的簡便な方法と思われます。

もう1つ大事な点は、健康診断を受けることです。高血圧症に関しては先ほど説明した通りあまり役に立ちませんが、健康診断の項目には血糖や尿酸値、コレステロール、中性脂肪など、脳出血の危険因子となる病気の検査がたいてい含まれています。これらの病気は数値に異常があっても普段症状はありません。長年蓄積されて、ある時急に重い病気を発症します。

忙しい日常生活で将来の病気を気にすることはなかなか容易ではありませんが、誰にでも脳卒中による突然死や後遺症の可能性はあります。わずかな努力でその可能性を減らすことができますので、ぜひ実践してください。

更新:2022.05.26