感染症の現状と治療(HIV、B型肝炎、C型肝炎)

いわき市医療センター

院内感染対策委員会

福島県いわき市内郷御厩町久世原

人の持続ウイルス感染症の中でも、現在、増加が懸念されているHIVと国民病といわれるウイルス肝炎(B型肝炎、C型肝炎)の現状と治療について解説します。治療薬はすべて高額ですが、助成制度の対象疾患になっています。医師と相談の上、安心して受診されることをお勧めします。

HIVウイルスとAIDSの違いとは

HIV感染とはHuman Immunodeficiency Virus(人免疫不全ウイルス)に感染することで、大きく3つの時期(急性感染期、無症候期、AIDS期)に分けることができます。急性感染期はインフルエンザ様の症状が出る場合がありますが、数週間で消失します。無症候期の期間は数年から10年くらい持続するといわれていますが、個人差が大きいので注意が必要です。AIDS期(Acquired Immunodeficiency Syndrome/後天性免疫不全症候群)は免疫能が低下して、病原体の増殖を抑制・排除できない状態になります(図1)。

グラフ
図1 新規HIV感染者およびAIDS患者報告数の年次推移(2017年エイズ発生動向年報:厚生労働省をもとに作図)

1.HIVの感染経路

HIVを含む血液・精液・膣分泌液が、直接粘膜や傷口に接触すると感染する可能性があります。感染経路としては性行為や血液感染(覚醒剤、麻薬注射の注射器の乱用)、母子感染などで、HIV陽性者の人と日常的な接触では感染することはありません。

2.抗ウイルス治療薬

現在では副作用の少ない薬が登場し、多剤併用によりAIDS発症率や死亡率が改善しました。治療開始時期も、最近ではリンパ球数に関係なくすべてのHIV感染者に抗HIV治療をすることが推奨され、免疫不全になる前に治療が可能です。治療開始にあたっては、医療費助成が受けられます。そしてHIVウイルスを消し去ることは難しいので服薬を中止せずに継続することが大事です。

3.HIVの検査

感染してからHIV抗体が上昇するまでは時間がかかるので、2か月以降に検査をします。また、クラミジア、淋病(りんびょう)、尖圭(せんけい)コンジローマ、性器ヘルペス・アメーバ赤痢(せきり)・急性肝炎(A型、B型)など性行為疾患と診断された場合も、HIV検査をお勧めします。

B型肝炎ウイルスとは

1.概要

B型肝炎感染は、一時的な症状で終わる一過性感染(B型急性肝炎)とB型肝炎を持続的に保有し続ける持続感染(B型肝炎キャリア)に分かれます。B型肝炎キャリアは東南アジアに多く、日本では100万人位の感染者がいると推定されています。母児感染(産道感染)や、免疫ができていない3歳以下の乳幼児期に感染すると多くがキャリア化するといわれています(図2)。

フローチャート
図2 B型肝炎の感染後の経過

2.B型肝炎キャリア対策

キャリア減少対策として、1986年から母児感染防止事業において出生時より治療が行われており、母子間感染は年々少なくなっています。成人になってからの感染では慢性化することは少ないのですが、慢性化しやすい欧米型のB型肝炎ウイルス「遺伝子型A」が近年増え、性行為による慢性化が問題になっています。そこで、2016年より小児期以降の感染を減らすため、0歳児全員にワクチンを定期接種することになりました。

3.ヘルシー・キャリアと慢性肝炎

B型肝炎キャリアの約9割はALT(*)正常で症状のないヘルシー・キャリアです。残りの1割は慢性肝炎で、場合によっては肝硬変、肝がんになることもあります。

*ALT:肝臓の細胞などに多く含まれている酵素。肝炎ウイルス・アルコール・薬などの原因で肝細胞が壊れると、血液中にこの酵素がもれて数値が高くなります。正常は30以下で、値が高くなるほど肝臓が障害されています

4.B型肝炎治療

治療対象はウイルス(HBVDNA)が一定以上陽性、かつ肝機能異常で、ヘルシー・キャリアは対象とはなりません。治療薬(核酸アナログ治療薬)の使用は2000年より開始されましたが、最近の治療薬は耐性ウイルスもできず副作用もなく、安心して治療ができるようになりました。B型肝炎はHIVと同じく、薬を飲んでいる間はウイルス量が低下しますが、中止するとほとんどの人は再燃します。高額な薬の上、長期の内服が必要なので、当院でも肝炎助成制度の申請を行っています。

C型肝炎ウイルスとは

1.C型肝炎の現状

B型肝炎とは違い母子感染は5%以下で、多くは輸血などの医療感染、入れ墨や静注行為(静脈への注射)などで感染します。B型肝炎は幼少時の感染でない限り、多くはキャリア化しませんが、C型肝炎は前述の行為で感染すると7~8割と高い割合でキャリア化します。C型ウイルスは1989年にウイルスが発見され、輸血後肝炎の一番の原因でしたが、現在では輸血でC型肝炎は起こらなくなりました。また、医療機関では使い捨ての注射器・針による医療感染はなくなりましたが、入れ墨や覚醒剤は不潔な針や使い回しの注射器を使用するため、若い人のC型肝炎感染が増えています。

2.慢性肝炎・肝がん

B型肝炎ではヘルシー・キャリアは治療の対象ではありませんが、C型肝炎はたとえ肝機能が正常でも肝臓の中には炎症があり、ウイルス陽性(HCVRNA陽性)は治療の対象となります。肝硬変や肝がん治療後でもC型肝炎治療が可能です。

3.C型肝炎治療

医学は常に日進月歩ですが、その中でもC型肝炎治療は最も進歩した治療法の1つです。「図3」のように1992年からインターフェロン(IFN)治療が始まりましたが、当初は発熱などの副作用と治療効果の低さが問題でした。

グラフ
図3 IFNベース治療からIFNフリー治療の時代へ

2014年からは内服薬の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による治療が始まりました。内服薬で副作用がほとんどなく、治療期間も8〜12週間と短く、95%以上でウイルス駆除ができます。治療終了6か月後の効果判定でウイルス消失と判定された後は、感染する行為さえなければ、再発することはありません。また、肝炎助成制度によりトータル数万円で治療ができます。

今後の問題点は、ウイルス駆除後の肝がんの問題です。治癒したと思い医療機関を受診せず、肝がんに気がつかないことがあります。肝硬変、高齢、飲酒家、脂肪肝・糖尿病のリスクのある人は定期検診が必要です。

更新:2023.03.31