認知症ってなに?

いわき市医療センター

看護部

福島県いわき市内郷御厩町久世原

脳は、人間の活動のほとんどをコントロールしている司令塔です。それがうまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。「認知症」とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために、さまざまな障害が起こり、生活する上で支障が出る状態のことを指します。年齢を重ねると、脳の老化によって誰もが物忘れをしやすくなりますが、加齢に伴う物忘れと認知症は大きく違います(表1)。加齢による物忘れと、認知症による物忘れが「どう違うのか」「どう見分ければいいのか」を解説します。

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  加齢による物忘れ 認知症による物忘れ
原因 老化 病気
体験した事 一部を忘れる 全てを忘れる
物忘れの自覚 あり なし
日常生活 支障はない 支障がある
表1 「加齢による物忘れ」と「認知症による物忘れ」の違い

認知症の人がとても増えています

65歳以上の高齢者のうち、認知症を発症している人は推計15%で、2012年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で明らかになっています。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計されており、65歳以上の4人に1人が認知症とその〝予備軍〟となる計算です(図)

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グラフ
図 認知症患者数と割合

認知症は、認知機能の障害によって社会生活などが困難になる病気の総称です。代表的な疾患がアルツハイマー型認知症ですが、ほかにも脳血管性認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、さまざまな種類の認知症があります。

認知症って予防できるの?

現時点では残念ながら、「こうすれば認知症にならない」という方法はありません。しかし、最近の研究から「どうすれば認知症になりにくいか」ということが少しずつ分かってきました。

認知症の予防対策は大きく分けて2つあり、認知症になりにくい生活習慣を行うこと、認知症で低下する3つの能力「エピソード記憶、注意分割機能、計画力」を簡単なトレーニングで鍛えることです。これらを長く続けていくことで、認知症予防となり、認知症になる時期を遅らせる可能性が高まります。

脳の状態を良好に保つためには、食習慣や運動習慣を変えることが重要です。そして認知機能を重点的に使うためには、対人接触を行うことや知的行動習慣を意識した日々を過ごすことが大切です(表2)。

食習慣 野菜・果物(ビタミンC、E、βカロチン)をよく食べる
魚(DHA、EPA)をよく食べる
ポリフェノールの含まれる食品をとる
運動習慣 週3日以上の有酸素運動をする
対人接触 人とよくお付き合いをしている
知的行動習慣 文章を書く・読む、ゲームをする、美術館に行くなど
睡眠習慣 30 分未満の昼寝
起床後2 時間以内に太陽の光を浴びる
表2 良い生活習慣

トレーニングで鍛え、認知症の予防を

脳トレーニングのススメ!

認知症という病気にいたる前の段階では、通常の老化とは異なる認知機能の低下がみられます。この時期に最初に低下する認知機能が「エピソード記憶、注意分割機能、計画力」です(表3)。これらを意識して重点的に使い、その機能を鍛えることで認知機能の低下を予防します。

機能 内容 鍛え方
エピソード記憶 体験したことを記憶として思い出す ・2日遅れ、3日遅れの日記をつける
・レシートを見ないで、思い出して家計簿をつける
注意分割機能 複数のことを同時に行うとき、適切に注意を配る機能 ・料理を作るときに、一度に何品か同時進行で作る
・人と話をするときに、相手の表情や気持ちに注意を向けながら話す
・仕事や計算をテキパキと行う
計画力 新しいことをするとき、段取りを考えて実行する能力 ・効率の良い買い物の計画を立てる
・旅行の計画を立てる
・頭を使うゲーム(囲碁・将棋・マージャンなど)をする
・やり慣れたことでなく、新しいことをする
表3 認知機能低下予防の訓練方法

心揺さぶる活動のススメ!

【音楽を聴いたり歌うこと】

音楽を聴き、リズムに合わせて手を叩いたり、体を動かしたり、歌を歌うことでリラックス効果があります。

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【回想法】

昔の思い出を語り合ってください。懐かしい昔話を思い出しながら話すというのは、脳を刺激し、精神的にも安定するといわれています。写真などがあれば、それを見ながら話します。自宅で家族や同年代の人たちとのコミュニケーションが取れる方法です。

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最も重要なのは「早期発見」と「早期からの予防対策」

認知症の治療は、薬物療法とリハビリテーションなどの非薬物療法が主体です。残された機能を維持しながら、不安や妄想、不眠など、日常生活の支障となる症状を軽減・改善することが目的となります。症状を抑え、進行を遅らせることで、本人が穏やかに生活できるとともに、介護者の負担軽減にもつながります。

認知症治療で中心的な役割を果たすのが薬物療法です。認知症の進行を抑えたり、脳の機能低下を遅らせたりする効果が期待できます。認知症の中核症状に対しては、抗認知症薬による治療を行います。

認知症によるさまざまな行動・心理症状(BPSD)を改善するために、薬による治療を行います。抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、睡眠薬などの向精神薬のほか、漢方製剤が使われることもあります。いずれも副作用の症状に気をつけながら、医師・薬剤師のアドバイスにしたがって正しく服用することが大切です。

「もしかして認知症かも…」そんなとき、どこへ相談するの?

認知症を疑ったとき、最初に相談するのはかかりつけ医がよいでしょう。認知症の専門医でなくても問題ありません。かかりつけ医のもとで認知症の診断ができない場合も、適切な医療機関を紹介してくれます。専門の病院を選ぶときには、「かかりつけ医と連携が取れる」「通いやすい」といった点も重要です。かかりつけ医がいない場合や本人が受診に消極的な場合は、お住まいの地域を管轄する地域包括支援センターに相談することもできます。

地域包括支援センターは、地域の高齢者が安心して暮らせるよう、生活や介護に関する幅広い相談を受け、必要なサービスにつなぐ相談窓口です。認知症に関する相談や、医療機関についてのアドバイスを行っています。地域包括支援センターに相談すれば、認知症と診断された後の要介護認定やケアマネージャーの選定など、スムーズに話が通じるという利点もあります。

当院では「心療内科」「リエゾン科」などで認知症の診察や治療を行っています。かかりつけ医からの紹介状が必要ですので、最初はかかりつけ医に相談するのがよいでしょう。

初めての診察では、何を伝えればいいの?

初めての受診前には「どんな症状がみられるのか」「それが起こったのはいつ頃からか」「何かきっかけがあったのか」などは書き留めておきましょう。また、認知症以外の病気や、その経過についても説明できるようにしておくのがよいでしょう。

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認知症かどうかを判断するために、医師は問題となっている症状や状況のほか、日常生活を詳しく知る必要があります。そのため、本人だけでなく、家族や身近な人の話も聞くことになります。本人には、生活歴に対する質問や朝食の内容、病院までどんな方法で来たのかなど、記憶力を確認するために必要な質問をします。

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次に認知機能検査(神経心理検査)を行い、日時や物の形の認識、簡単な計算、数分前に見た物の記憶などを確認します。「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」や、「ミニメンタルステート検査(MMSE)」と呼ばれる検査が多くの医療機関で使用されています。また、脳画像診断検査と呼ばれる脳の萎縮(いしゅく)など、形を見るためのレントゲンやMRI、CTなどの検査を行います。身体検査も重要であり、現在の症状が認知症によるものなのか、ほかの疾患によるものかなど、身体的疾病の有無を調べます。さらに尿検査や血液検査、心電図、腱(けん)反射などの神経学的検査等、一般的な検査を実施することがあります。

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認知症は、前述のような検査や問診の結果を総合的に整理して診断します。しかし、症状が軽い場合などはすぐに認知症の診断がつかないこともあり、しばらく通院しながら様子をみます。認知症は早期に発見して正しい対処をすることで、進行を遅らせたり症状を軽減できる病気です。不安を感じたら、ためらわずに医療機関を受診しましょう。

当院は認知症をもつ患者さんも、安心して治療ができる療養環境づくりを約束します。

【参考文献】中島紀恵子責任編集、太田喜久子ほか編『認知症高齢者の看護』医歯薬出版、2007

更新:2024.10.28