舌がんー症状と治療法のお話

いわき市医療センター

歯科口腔外科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

舌がん(口腔がん)とは

口にできるがんを口腔(こうくう)がんといいます。口腔がんはすべてのがんの約1~2%、年間約7800人が罹(かか)るといわれています。60歳代から増えはじめ、高齢になるほど罹りやすくなっていきます。患者さんの数は男性3に対し女性2です。

口腔がんはさまざまなところにできますが、最もできやすい場所は舌で、口腔がんの約半数は舌(ぜつ)がんです。舌がんは舌の表面や舌先にできることは少なく、ほとんどは舌の横、つまり歯のあたりやすい場所によくできます。

どんな人が罹りやすい? 予防は?

舌がんに限らず口腔がんに罹りやすい要因としては、喫煙や飲酒と口の中の環境が挙げられます。喫煙はニコチンやタールなどの毒物だけでなく、熱による影響も大きいとされています。飲酒ではアルコールを分解する酵素を、生まれつきどれくらい持っているかが重要です。特に〝飲むと顔が赤くなる〟にもかかわらず、大量飲酒をする方は危険性が高いといわれています。

口の中の環境では尖った歯、合わない入れ歯やブリッジなどがいつも粘膜を傷つけていると危険です。歯科で定期的に口の環境を整えて、粘膜も診てもらえる、かかりつけ歯科医を持つことは、口腔がんの予防や早期発見にとても重要です。

1.症状

舌の粘膜の表面にはほんの数ミクロンしかない薄い皮があり、内部を保護しています。がんはこの薄い皮から発生します。がんになる前段階(前がん病変)では、この皮が厚くなって白く見えることがあります。これを白板症(はくばんしょう)といいます(写真1)。がんは自分の体が新陳代謝をする際のコピーミスとして発生しますが、もともとの細胞と比べて、ものすごい速さで増えていきます。そのため、たくさんの栄養を必要とします。栄養は血液からもらうので、がんの周りにはたくさんの血管ができ、進行してくると赤く見え、ちょっと触っただけで出血するようになります。さらに、がんがあまりに早く大きくなるので一部が栄養不足を起こして腐り落ち、えぐれて口内炎のような症状が出ます(写真2)。

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写真1 舌白板症(前がん病変)(出典:東海大学医学部付属病院口腔外科)
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写真2 舌がんで舌の横がえぐれている(出典:東海大学医学部付属病院口腔外科)

舌がんの患者さんの訴えで最も多いのは口内炎です。「1か月前にできた口内炎が治らない」としたら、舌がんかもしれませんので早めに受診してください。舌がんも含めた口腔がんは、歯科医師が最も多く発見しています。

当院では、舌がんの疑いがあった場合、口の中を直接見て触れて診察します。進行したがんでは、初診のときにほぼ診断がつきます。舌がんの疑いが濃いときは注射で局所麻酔をして米粒くらいの大きさの組織を取って顕微鏡で調べて診断が確定します。

〝がんは体のどこにできても全身病〟といわれています。もちろん舌がんも全身病です。そのためまず体中を徹底的に調べます。舌は筋肉でできていますが、舌がんはその筋肉の中に根を生やしていきます(写真3)。がんで最も怖いのは転移です。舌がんは顎(あご)の下やくびの筋肉の裏側などのリンパ節によく転移します。これを頸部(けいぶ)リンパ節転移といいます。さらには肺や肝臓、背骨など、体中のどこにでも飛んでいってしまうことがあります。これを遠隔転移といいます。これらを正確に診断するために、全身のCT検査、口や頸の周りのMRI検査を行います。それから治療をするために十分な体力はあるか、余病はないかなど全身をくまなく調べます。そして患者さんとその家族を含め、十分に納得いただくまで説明して治療方針を決めます。

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写真3 進行した舌がん(深く根を生やして、舌が持ち上がり、動きにくくなっている)(出典:東海大学医学部付属病院口腔外科)

2.治療

「標準治療」という言葉をご存じでしょうか?

標準治療とは、〝科学的根拠に基づいた、現在利用できる最良の治療であり、患者さんに第一選択としてお勧めする治療〟のことをいいます。舌がんの標準治療は手術です。そして手術で切除した標本の病理組織診断(顕微鏡で細胞の状態などを調べる専門医による精密な診断)の結果によって、手術後に放射線治療、さらに抗がん剤の治療が追加されることもあります。もちろん、さまざまな条件から標準治療が選ばれない場合があります。患者さんそれぞれにとって最良の治療方法を提示します。

がんは雑草のように根を生やしていきます。目に見えない根の髭(ひげ)の先がほんの少し残っただけでも、あっという間に再発してしまいます。そこで手術を行うときには、実際にがんと思われるところよりも大きく取る必要があります。

舌がんの多くは舌の横にできます。病気が小さいうちは舌の横をそぎ取るように切除します。病気が大きくなって舌の半分を超えて切り取ると口の中に大きな穴ができてしまいます。その場合は頸のリンパ節も取って、お腹(なか)や太ももの肉を移植します。移植を行う場合は形成外科と合同で手術します。

気になる手術後の状態ですが、舌をそぎ取る手術や移植を行う手術でも舌のピッタリ真ん中までの切除で済めば、話すことや飲み込みの機能はかなり良好で、見知らぬ方とでも電話で十分に会話ができます。また食事も歯が残っていれば、ある程度の制限はありますが口から食べることができます。

3.治療成績

早期舌がんの5年全生存率は80%以上です。移植を伴う手術をしなければならないほど大きくなってしまった場合や、頸のリンパ節に転移があった場合など、病気の進行に伴い治療成績が悪くなっていきます。しかし、かなり進行した場合でも根治(こんち)治療が可能なケースでは、50%程度の全生存率(診断または治療から一定の期間が経過した後に生存している人の割合)が得られています。やはり早期発見、早期治療に勝るものはありません。

当院の口腔がん治療の特徴

口は食べる、話す、味わう、そして見た目と、人間の尊厳や楽しみの根源にかかわるとても大切な働きと構造が集中しています。関連する診療科や医療系専門職(医療スタッフ)と適切に連携をし、お互いの得意なところを惜しみなく出し合い、患者さんを支えていくことが最も大切なことだと考えています。

また院内だけでなく、東海大学医学部付属病院口腔外科と密接な連携をとりながら患者さんの治療方針を立て、手術の際には教授、准教授の応援を得て治療にあたっています。

監修/東海大学医学部外科学系口腔外科

更新:2024.01.25