集学的アプローチによる 口腔がん治療

大垣市民病院

歯科口腔外科

岐阜県大垣市南頬町

生活に大きく影響する「口腔がん」

「口腔(こうくう)がん」は舌(ぜつ)、歯肉、硬口蓋(こうこうがい)、口底(こうてい)、頬粘膜(きょうねんまく)から生じる「がん」であり、そのほとんどは粘膜から発生する扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと呼ばれるがんです(図1)。がん全体に占める割合は1%程度であり、稀ながんではありますが、「食べる」「しゃべる」「表情をつくる」といった日常生活、社会生活と大きく関わる部位に生じるため、生活に大きな影響を与えます。

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図1 「口腔がん」の発生部位

口腔がんの集学的治療

一度「口腔がん」になると自然に治癒することはなく、治療が必要になります。治療は、手術治療、放射線治療、抗がん剤などの薬を使う薬物治療の3つに大きく分けられます。「集学的治療」とは、これらの選択肢を適宜組み合わせて治療を行うことをいいます。

初期の口腔がんに対する最も効果的な治療は、今も昔も変わらず、切除によりがんを取り除くことです。その一方で、切除自体が困難な進行した口腔がん、また全身への転移を伴う患者さんの治療においては、薬物療法と放射線治療を組み合わせた治療が必要です。また、手術後に再発するリスクの高い患者さんには、手術後に予防的に薬物療法、治療を実施し、再発リスクの低減を図っています。

このように口腔がん治療においては、「集学的治療」は必須のものであり、患者さん一人ひとりに合わせた治療を適切に選択していくことが非常に重要です。当科では国際的な治療ガイドラインに従った「集学的治療」が可能であり、高い水準での口腔がん治療を実現しています。これらの治療により、2011年から2017年まで、口腔がんの5年生存率は73.5%、特に初期のがん(Stage I)に対する5年生存率は92.0%と、良好な治療成績が得られています。

また、当科の特徴の1つとして、最新の薬物療法をいち早く取り入れていることが挙げられます。近年の薬物療法の発展は著しく、従来のいわゆる「抗がん剤」に加え、口腔がんの治療にも「分子標的薬」、「免疫療法」といった新薬が続々と認可されています。当院ではこれらの最新の薬物療法も実施可能であり、個々の患者さんの状態に合わせた、適切な治療選択を行うことができます。

口腔がん診療を支える診療科

口腔がんの診療には診断、治療、治療後のリハビリ期間を通し、非常に多くの専門科・専門家が関わることが特徴です。診断の過程ではがんの広がりを画像診断で評価する放射線診断科、隣接臓器のがんの合併がないかの診断を行う頭頸部(とうけいぶ)・耳鼻いんこう科、消化器内科、切除の後の形態・機能の回復手術(再建手術)を行う形成外科、長時間に及ぶ手術中の全身管理を行う麻酔科、さらに、術後の放射線治療を行う放射線治療科、機能回復のサポートを支援するリハビリテーション科などが代表です。また薬物療法を実施する際は、薬剤部や、緩和ケアチームとも連携を図り治療を行っています。

口腔がん治療は、口腔外科単独で効果的な治療ができるわけではありません。当院では多くの診療科が連携することによって、高い水準での口腔がん治療を実現しています。

口腔がんの先端治療 3Dプリンターによる手術シミュレーション

がんの治療では疾患の治癒が最大の目的ではありますが、同時に損なわれた機能を最大限に回復することも非常に重要です。当科の歯肉がんに対する手術では、まず事前に手術前のCT検査データから、患者さんの顎(あご)の模型(3Dモデル)を3Dプリンターで作成します(図2)。そこで切除する範囲を決めるとともに、切除後の顎の骨を固定するチタンプレートをあらかじめ屈曲しておきます。従来は手術中にプレートの屈曲を行っていましたが、3Dモデルの使用により、手術時間が短縮されるとともに、がんの切除後に正確な顎の位置の復位ができるため、より精度の高い形態回復が可能です。

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図2 3Dモデルによる手術シミュレーション

口腔がんの先端研究

口腔がんの治療は進行度(病期といいます)により大きく異なるため、効果の高い治療を実施するためには、正確な病期診断が必要です。病期の診断に最も有用な検査はPETCT検査であり、当院では2008年の早期よりPET-CTを導入し、がん診療に利用しています。さらに当科では近年、このPET検査画像の解析研究を進め、手術前に撮影した画像から治療効果(予後)の予測ができることを報告しています(図3、Kimura M, Kato I et al. Eur J Radiol.2019)。現段階で分かっていることは、口腔がん内部が不均一である腫瘍(しゅよう)は予後が不良だということで、このような口腔がんに対しては早期から再発予防に努める必要があると考えています。

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図3 内部不均一性を示す口腔がんの例

更新:2024.10.10