チームで取り組む感染対策・抗菌薬の適正使用 感染制御と抗菌薬適正使用支援
大垣市民病院
感染対策室
岐阜県大垣市南頬町
感染対策においての重要な課題
世界的に課題となっている薬剤耐性の制御は、感染対策において重要な課題です。耐性菌の蔓延を防ぐためには、大きく分けて2つの対策が重要となります。1つは「耐性菌を保菌・感染した患者から保菌していない患者へ拡げない対策」です。これに対しては、感染管理認定看護師を中心とした感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)が、院内環境ラウンド、手指衛生、医療関連感染サーベイランスなどの活動を通して耐性菌の拡大防止に取り組んでいます。もう1つは、「患者への抗菌薬の使用を適切に管理する対策」です。こちらに関しては、薬剤師を中心とした抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)が、抗菌薬適正使用の推進に力を入れています。
感染制御チーム(ICT)
ICTは院内の感染対策活動を実践的に遂行していくチームで、組織横断的に病院全体の感染対策活動を行っています。
2012年に感染防止対策加算が新設され、それに伴いICTによる感染防止対策の強化と改善を行ってきました。
主な活動内容は、以下のとおりです。
- 院内環境ラウンドを週2回実施し、院内感染防止対策の実施状況を把握、指導
- 手指衛生の徹底の指導
- 院内感染事例の把握
- 医療関連感染サーベイランス、マニュアルの作成・見直し
- 研修医など新規採用職員への入職時特別講義および全職員に対する「院内感染対策に関する研修会」を年2回開催し、感染対策に関する教育・啓発活動を実施(写真)
これらの活動により、入院患者からの薬剤耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)検出数の減少や占有率に低下(図1)がみられました。また、当院では大規模な感染のアウトブレイク(一定期間内、特定の地域、特定の集団で予想されるより多く感染症が発生すること)も発生しておりません。
抗菌薬適正使用支援チーム(AST)
2012年より医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師の4職種からなるASTを立ち上げ、院内全体の感染症治療の適正化を目指して活動しています。各種培養・画像・検査の施行、抗菌薬の変更・終了の提案を積極的に行い、最大限の治療効果と抗菌薬使用による不利益(耐性菌の発生や副作用など)を最小限にするように努力しています。
具体的な抗菌薬適正使用支援活動は、以下の2つからなっています。
①薬剤師による全注射用抗菌薬使用患者への早期モニタリングとフィードバック
2012年より特定抗菌薬使用患者に対して、早期より介入し必要に応じて主治医へ提案する「早期モニタリングとフィードバック」を開始しました。これにより、特定抗菌薬使用患者の30日死亡率は有意に減少し、その有用性が評価されました(*1)。2014年には感染管理支援システム(BACT Web®)を導入したことにより、業務が効率化され、2017年に対象を全注射用抗菌薬使用患者に拡大しました。感染制御専門薬剤師が、抗菌薬が不適切に使用されていないか薬学的視点(用法・用量、抗菌薬の選択・必要性など)から毎日モニタリングを行い、必要に応じて主治医へ提案を行っています。また毎月、約1,000症例をモニタリングし、60~70件程度の症例に抗菌薬使用に関する提案も行っています。
②週2回の抗菌薬適正使用ラウンド
ASTによるラウンドを週2回行っています。週1回は名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部から専門医を招いて、感染症治療に難渋する症例や血液培養陽性患者などへの介入を積極的に行っています。感染症治療に対する相談、あるいはラウンドへの参加は全職種いつでも可能で、活発な議論をしています。これらの活動により、2014年から2017年における注射用抗菌薬使用患者の入院日数は1.5日有意に短縮(図2)、抗菌薬投与期間は4.9日から4.6日に有意に短縮(図3)しました。また、薬剤耐性菌検出率などが有意に低下し(*2)、MRSA菌血症の死亡率が半減したことを報告(*3)しています(図4)。
【参考文献】
*1 Matsuoka T et al. Pharmazie., 72, 296-299 (2017)
*2 Ohashi K et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis,38.593-600 (2019)
*3 Ohashi K et al. Int J Clin Pract. 72, e13065 (2018)
更新:2024.10.21