頭頸部腫瘍ー甲状腺腫瘍の治療

済生会吹田病院

耳鼻いんこう科

大阪府吹田市川園町

甲状腺腫瘍とは?

甲状腺(こうじょうせん)とは頸部(けいぶ)の喉仏(のどぼとけ)のやや下にある臓器です(図)。甲状腺ホルモンを分泌し、気管にまたがって存在し、食道にも近く反回神経にも接しています。甲状腺は、脳下垂体(のうかすいたい)から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の刺激を受けて、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)という2つの甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺に異常があると、これらのホルモンの分泌が過剰になったり(甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう))、不足したりして(甲状腺機能低下症)さまざまな症状が現れます。

図
図 甲状腺の構造

甲状腺の疾患は大きく2つに分かれます。1つは甲状腺機能異常で甲状腺ホルモンを過剰に分泌したり、逆にホルモンが不足したりするものです。甲状腺機能亢進としてはバセドウ病、プランマー病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などがあります。甲状腺機能低下としては橋本病(慢性甲状腺炎)があります。これらの機能異常は主に内科で治療されます。もう1つは甲状腺形態異常です。甲状腺が全体的に大きくなる甲状腺腫(こうじょうせんしゅ)と甲状腺内にしこりができる腫瘍(しゅよう)があり、腫瘍には良性と悪性があります。

良性には、腺腫様甲状腺腫、濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)、嚢胞(のうほう)などがあり、悪性は甲状腺がん、悪性リンパ腫などがあります。耳鼻科では主に腫瘍を扱っています。甲状腺腫瘍は極めて頻度(ひんど)の高い疾患で女性の5.3~6.4%、男性の0.8~1.5%にみられます。また甲状腺がんも高率に認められ、甲状腺がんの剖検(ぼうけん)(病死した患者の遺体を解剖して調べること)での頻度は米国で0.5~13%、日本では3.7~28.4%です。

甲状腺腫瘍の初発症状は前頸部に腫瘤(しゅりゅう)を触れる、側頸部に腫瘤を触れる(頸部リンパ節転移)、息漏(いきも)れの声がれが続く(がんの場合、声帯麻痺(せいたいまひ))などです。

甲状腺腫瘍診断(がん)に必要な検査には、頸部エコー、エコーガイド下の穿刺細胞診(せんしさいぼうしん)、頸部CT(造影)、MRI、胸部CT(肺転移のチェック)などがあります。特に穿刺細胞診では得られる情報が多く、組織型も決定できることもあり、当院では初診時にエコーガイド下の細胞診を行うことが可能です。

甲状腺がんはいくつかのグループに分かれます。最も多いのは乳頭がんで約85%、予後は良いですが、リンパ節転移を起こしやすいという特徴があります。濾胞がんは約10%、予後は良いものが多いですが、一部に肺転移を起こすものがあります。髄様がんは約2%で予後は悪く、ほかの内分泌系にも異常をきたすことがあります。未分化がんは約3%、予後は非常に悪く、低分化がんは、予後の良い乳頭がんや濾胞がんと未分化がんの中間的な病態を示します。

甲状腺腫瘍の治療は手術です。良性の場合は、腫瘍径が3(4)㎝以上、経過観察中に腫瘍の増大がみられる、血清サイログロブリン値が500ng/mL以上などの場合、手術適応と考えています。甲状腺がんの場合は原則として手術を行い、左右の一方に限局している場合は甲状腺半切除、両側に存在するものは全摘、リンパ節転移がある場合は転移側の保存的頸部郭清術を追加します。

更新:2024.01.25