ウイルス肝炎

済生会吹田病院

消化器内科

大阪府吹田市川園町

沈黙の臓器”肝臓”

肝炎治療の進歩は目覚ましく、肝硬変(かんこうへん)もほとんど治る時代になりました。

主として肝臓で増殖し、肝細胞を障害するウイルスを肝炎ウイルスと称し、これにはA型(HAV)、B型(HBV)、C型(HCV)、D型(HDV)、E型(HEV)肝炎ウイルスがあります。A型とE型は経口感染し慢性化しませんが、B型とC型は血液を介して感染し(経皮感染)慢性化するため、臨床的には重要なウイルス肝炎です。

これらの肝炎は血液検査で、それぞれのウイルスマーカーを調べれば簡単に診断できますが、B型肝炎ウイルスには種々のマーカーがあり、それぞれ極めて重要な意味があります(表1)。また肝炎ウイルスには種々の遺伝子型があり、遺伝子型の差により経過や予後がやや異なります。

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表1 B型肝炎ウイルスマーカーの臨床的意義
A型(HAV)
衛生状態の悪い国で流行し、生ガキなどから感染しますが、近年、わが国での発症はまれです。
B型(HBV)
現在、B型慢性肝炎の多くは母児感染など3歳未満時の感染によるものです。大人の感染ではB型肝炎はほとんど一過性感染で治癒しますが、0.5~1%は劇症肝炎となります。新たなHBV感染のほとんどは性行為によるものですが、遺伝子型AのHBV感染では5~10%は慢性化します。
C型(HCV)
C型慢性肝炎の多くは1989年以前の輸血や医療行為で感染しており、最近は新たなHCV感染はまれです。30%は急性肝炎で治癒しますが、70%は慢性化します。
E型(HEV)
猪や豚などの生レバーや生肉に感染しており、熱を通さずに食べるとHEVに感染することがあり注意が必要です。特に妊婦が感染すると重症化します。

多くの治療は肝臓の専門医や一部の専門施設でのみ薬剤投与が可能

近年、治療法は格段に進歩し、B型慢性肝炎・肝硬変は核酸アナログで(一部はインターフェロンで)ウイルスは排除できないものの、炎症を抑え肝硬変・肝臓がんの発生を抑制できます。C型慢性肝炎・肝硬変治療の進歩は著しく、直接ウイルスの増殖を抑制する薬剤(DAA)投与で97~98%の患者さんは完全にウイルスが排除できます(SVRといいます)。「表2」にB型肝炎、「表3」にC型肝炎の最新治療法を記載しました。DAAで治療を行う場合には種々の併用禁止薬、併用注意薬があり、医師の指導の下、注意して服用する必要があります。

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表2 最新のB型肝炎治療法
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表3 DAAによる遺伝子型1のC型肝炎治療

B型、C型ともに肝臓がんが生じ、特に線維化の進展したC型肝炎(肝硬変やそれに近い状態)では極めて高率に肝臓がんが発生します。B型肝炎とC型肝炎では肝発がん機序(仕組み)が異なります。C型では軽度の炎症・線維化の状態から発がんする可能性は極めて低いのに対し、B型ではHBV遺伝子が患者さんの遺伝子に組み込まれることにより、発がん(HBV遺伝子組み込み)することがあり、20歳代での肝臓がん例があります。

1個のがん細胞が増殖し、画像検査で発見できる大きさのがん(直径1㎝位)に発育するには5年以上を要するため、治療前の検査では発見できない小さな肝臓がんが既に存在している症例があります。C型の肝硬変例や高齢者の慢性肝炎ではDAA治療でウイルスが排除されても、数年以内に肝臓がんが発見される例が多々あり(ウイルス排除後10年以上経過し肝臓がんが発見される例も存在)、肝臓がんの早期発見のために、年数回の採血や画像検査を受けることが大切です。

肝臓がんが早期に発見されると、数日の入院で内科的に確実に治療でき(ラジオ波焼灼療法(はしょうしゃくりょうほう)/RFA)、比較的簡単に手術を受けることも可能です。

ウイルス肝炎治療は専門医を受診することをお勧めします。

更新:2022.03.08