脂肪肝、NASH 脂肪肝炎NASHの診断・治療
済生会吹田病院
消化器内科
大阪府吹田市川園町
NASHは肝硬変・肝がんに進行する危険あり
生活様式の欧米化に伴い、わが国で肥満・糖尿病などの生活習慣病患者が増加し、それを背景とした非飲酒者の脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患/NAFLD)が急増しています。単なる脂肪肝は肝硬変(かんこうへん)に進行することはあまりありませんが、1980年に米国メイヨークリニックの病理学者ルードヴィッヒが、飲酒歴がないにもかかわらず肝不全で死亡した患者20人を解剖し、NASH(nonalcoholic steatohepatitisの略/非アルコール性脂肪肝炎)と命名したことで、この疾患の存在が知られるようになりました。わが国で増加しているNAFLDの約2割がNASHと考えられ、肝硬変や肝がんに進行する危険があります。現在NASHは先進国で最も重要な肝疾患です。
脂肪肝は比較的容易に診断できますが、NASHは病理学的に診断されるため、肝生検が必要です。肝生検には1泊2日の入院を要するため、NASHを血液検査で診断する方法の開発が世界中で行われています。当院の名誉院長岡上がわが国のNASH研究班の班長であったことから、当院には近隣の医療機関から多くの患者さんの紹介があり、NAFLD/NASHの診療拠点となっています。過去10年間、肝生検でNAFLDと診断された患者さん900人以上のうち、70%がNASHです。また、過去10年間に「糖尿病患者の肝障害の実態解明」(島ら)、「血液検査によるNAFLD/NASHの診断法の開発」(岡上ら)、「NASHおよびNASHからの肝発がんの感受性遺伝子の同定」(岡上ら)など、世界に誇る研究成果を国内外の学会や英文誌に報告してきました。
肝生検を行わずにNASHを予測する方法
脂肪肝やNASHになっても特徴的な症状や所見はありません。肝線維化(肝臓での線維の増加)の進行したNASHを見つける一番簡単な検査法は血小板数です。NASHは線維化の進行に伴い血小板数が低下しますが、C型肝炎に比べて下がり方が軽度で、血小板数が15万/μl程度でも多くは肝硬変になっています(図1)。さらに、血小板数が19万/μlを切ると肝線維化の進行したNASHである可能性が高く、肝臓の専門医の診察を受けることをお勧めします。
最近、私たちは単純性脂肪肝とNASHの鑑別、NASHの線維化進展度を血液検査で診断できる方法を開発しました(Hepatology 2016, J Gastroenterol 2017)。Ⅳ型コラーゲン7sとヒアルロン酸を組み合わせたFM-fibro index、Ⅳ型コラーゲン7sとASTを組み合わせたCA indexは現在最も優れた血液による診断法です。
超音波を利用したフィブロスキャンは、肝の線維化とともに脂肪蓄積の程度も評価でき、苦痛を伴うことなく簡便に検査ができる便利な機器です(図2)。当院ではこの機器をNASHの診断、経過観察に役立てています。肝脂肪の数値(CAP)が250db/mの場合に脂肪肝と判断し、肝硬度が7kPa以上の場合はNASHの疑いありと考え、NASHをスクリーニングしています。
当院では、患者さんが希望すれば同意のもとに無料でNASHの発症や線維化の進展、さらには発がんに関与する遺伝子も検査できます。22番目の染色体近くのPNPLA3遺伝子がこれらに関係しており、それ以外にも3つの遺伝子がNASHの発症・進展・発がんに関係していることを明らかにしました(PLoS ONE 2012,2018)。
NASHの治療は減量。治験による薬物治療も
NASHの治療法は、合併している生活習慣病の治療が大切です。さらに、食習慣の改善と適度な運動を続けることにより、肥満解消に努めることが重要です。しかし、体重を減らすことが困難な人は薬物治療に頼らざるを得ません。糖尿病や脂質異常症の治療薬、ビタミンEなどの有効性が報告されていますが、保険診療適用のNASH治療薬剤は未だありません。2016年からNASH治療薬の開発が世界規模で始まりました。当院はわが国を代表する病院としてこれに参加しています。NASHは肝硬変に進行すると肝がんの危険が高まると同時に、肝臓移植しか治療選択肢がなくなります。このため、まず的確な検査で早期発見し、生活習慣の改善に取り組むことが重要です。
更新:2024.10.08