脳梗塞などの一般的な疾患から神経難病に至る病態に対応
済生会吹田病院
神経内科
大阪府吹田市川園町
神経内科とはどんな診療科でしょうか
皆さん、神経内科とはどのような病気を扱っているかご存じですか。神経内科はその名の通り内科の1分野で、脳神経などの中枢神経から末梢神経までの神経の障害に対する治療を行う診療科です。当院では、日本神経学会認定神経内科専門医、指導医、難病指定医の資格を持った2人の常勤医と1人の非常勤医で、広い範囲の神経系疾患に対応しています。
最も多いのは脳梗塞
当科を受診される患者さんの中で最も多い疾患が脳梗塞(のうこうそく)です。脳血管障害は2018年3月時点で日本人の死因の第4位であり、後遺症に苦しむ方も全国で100万人を超えています。脳梗塞とは脳の血管が動脈硬化や血栓などが原因で閉塞(へいそく)をきたし、その部分の脳が壊死(えし)に陥ってしまう疾患です。頸動脈(けいどうみゃく)などの太い血管が狭くなった場合や、頭蓋内(とうがいない)の出血など脳神経外科に協力を仰ぐ場合もよくありますが、現在では脳梗塞の初期治療の90%以上は、抗血小板剤t-PA(ティッシュプラスミノーゲン・アクチベーター)などの血栓を溶解する薬剤や、エダラボンなどの脳保護薬の点滴を行う内科的な治療が最も予後が良いとされています。よくテレビCMなどで「徴候があればすぐ救急車を」と放映されているように、脳梗塞は可能な限り早期の治療が必要で、治療の遅れは後遺症の悪化や生命の危険に及ぶ可能性が高くなることが知られています(図1)。当院でも年間100例以上、この15年間で2000例以上の脳梗塞の患者さんを治療しており、脳神経外科と協力しながら最善の医療を提供しています。
増加する神経難病
一方、高齢化や診断技術の進歩に伴い、「神経難病」の患者さんが年々増加しています。難病とは根本治療法がまだ見つかっていない疾患や、治療が非常に困難な疾患などで、人口10万人当たり数人から数十人の頻度(ひんど)で見つかる、まれな疾患のことです。2015年の法改正で保健所に届けるべき難病の種類は300疾患を超えましたが、神経内科では特に疾患の種類が多く、当院でも年間を通じ220人以上の患者さんの各種難病の申請を行っています。
難病の診断と治療について―パーキンソン病、レビー小体型認知症、重症筋無力症
では、どんな疾患が神経難病になるのでしょうか。
有名な疾患では筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)や脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)(SCD)、パーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症(DLB)、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)などがありますが、特に患者数が多いのがパーキンソン病です。
パーキンソン病は、脳内のドーパミンという神経伝達物質が加齢とともに減少していき、徐々に動けなくなる疾患(無動、固縮、振戦を3主徴といいます)です(図2)。近年、iPS細胞の移植などようやく治療への展望に光が差してきた疾患ですが、まだまだ根本治療が見つかっていません。また進行の抑制も困難な難病です。しかし、パーキンソン病には副作用が多いものの、症状を劇的に改善する抗パーキンソン病薬(L-Dopaやドーパミン受容体作動薬など)が多数存在します。そのため神経内科専門医への早期受診と治療開始、生活指導が最も必要な疾患です。難病申請による公的な医療費の支援や、難病担当の保健師やケアマネージャーなどを中心としたチーム医療の発達によって、以前に比べ徐々に病気とうまく付き合えるようになってきました。
パーキンソン症候群に認知症を合併したレビー小体型認知症(DLB)は、以前はパーキンソン病との早期鑑別が困難でまれな疾患と思われていましたが、診断技術の進歩に伴い患者数は増加しつつあります。特にはっきりした「幻覚・幻視」を伴うのが特徴で、パーキンソン病薬の過度な投与は、精神症状を非常に悪化させるため注意が必要です。当院では心筋へのアドレナリンの取り込みを測定するMIBG心筋シンチの利用により、PD、DLBの確定診断の高い精度を保てています(図3)。
これは、自己免疫疾患の一種で自分自身の末梢神経や中枢神経、筋肉、神経筋接合部という神経と筋肉の継ぎ目などに対し、間違って「異物と認識してしまう抗体」が産生されることによって起こります。
中でも神経筋接合部に対する抗体(抗アセチルコリン受容体抗体、抗Musk抗体など)が原因で筋肉が疲れやすくなったり、眼球運動障害、眼瞼下垂(がんけんかすい)などが起こる重症筋無力症という疾患があります。この疾患は「重症」と命名されているように、約30年前までは治療法も確立していない難病でした。しかし近年、病態解明の進歩や治療介入により、ほぼ寛解(症状のない状態)に誘導することができるようになってきています。
治療は間違った抗体の作用を弱めるために、大量γグロブリン静注療法を行います。これは献血から採取した正常な免疫蛋白(たんぱく)(グロブリン)を入院の上5日間静脈点滴し、その後、副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤(タクロリムス)などを内服するもので、病気が著明に改善(寛解)します。また胸腺腫(きょうせんしゅ)の合併が多く、この胸腺で抗体が活動性を持つようになるといわれていることから、全身型や抗体価陽性の場合、呼吸器外科と協力して拡大胸腺摘出術を施行する場合もあります。
当院では30例以上加療し、ほぼすべての患者さんが寛解に至っており、産科、小児科との協力の下にお子さんを出産された患者さんも何人かおられます。
いずれにせよ、難病とうまく「付き合っていく」上で、神経内科専門医への受診は必要であると考えています。動きにくい、まっすぐ歩けない、転びやすいなどの症状があった場合は、医療機関を受診してください。
更新:2022.03.08