膵臓がんの治療・成績ーさまざまな膵臓がん患者さんの経過も含めて

済生会吹田病院

消化器・肝臓病センター

大阪府吹田市川園町

ここ1~2年、著名な方が膵臓(すいぞう)がんで年若くして亡くなられ、膵臓がんの治りにくさ・経過の悪さが世の中に知られるようになってきました。乳がん・大腸がんの患者さんは、90%以上の方に手術が行われていますが、膵臓がんでは、治療として手術が選択されるのは15~20%の方です。手術ができない多くの場合は、技術的に膵臓がんが切除できないのですが、手術しても回復の見込みがない場合も行われません。膵臓がんを切除しきれた方が、5年後に元気にされているのは20~30%です。その中にも再発している方が多くいるのが現状です。大腸がんの5年生存率が75~80%であるのと比べ、その成績の悪さを理解していただけると思います。このような膵臓がんの診断・治療の選択、膵臓がんとの付き合い方についてお話しします。

膵臓がんの症状・診断と治療

膵臓がんでよくみられる症状は、背中の痛み・黄疸(おうだん)・体重減少などです。血液検査での診断は難しいことが多く、超音波検査で膵液の流れの異常や、胆汁の流れの悪さを指摘されるのをきっかけに診断されます。ほかの疾患の精査のために行ったCT検査で、異常を指摘され診断されることも、よくみられるようになりました。

膵臓は胃の裏側に位置していてその解剖学的なことと、膵臓がんが境界のはっきりしないがんであることなどから、膵臓がんそのものを超音波検査・CTで見つけるのが難しいことが少なくありません。PET検査は病気の進展度を調べるのに有用です。全国がんセンターの統計ではステージI0・6%、ⅡとⅢがそれぞれ約20%、Ⅳが半数以上です。膵臓がんが2㎝以下で膵臓の中にとどまり、リンパ節に転移していないのがステージⅠですが、膵臓がんは、小さいときから(2㎝以下)膵臓の中に入っているリンパ管や神経などの細い管に沿って四方に広がってしまいます。ですからステージⅠが1%以下しかありません。

「図」に、当院のステージ別の生存率を示します。当院ではステージⅠの人が多いのが特徴ですが、肝臓病などでCTでの精査を行った際、偶然に主膵管の拡張を指摘された人、腫瘍(しゅよう)が見つかった人が含まれています。

図
図 膵臓がん切除症例のステージ別生存率(2008〜2018年)

治療

これらの統計から、完全に膵切除できる人は限られています。目で見て切除できても、顕微鏡的にはがんが残っていることがよくあります。最近では切除の前に、抗がん剤治療でがんを小さくしてから手術をした方が、経過が良いとの報告が多くなってきました。現在、国内で多くの臨床研究が行われています。2014年頃からFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)とゲムシタビン+アブラキサンという、強力な抗がん剤が国内でも使えるようになりました。これらの抗がん剤治療により、手術ができなくても1年以上生存できる人が増えてきました。また、抗がん剤がよく効いて手術が可能になった人もいます。

当院では、抗がん剤治療(放射線治療を併用することもあります)を行い、その効果が十分に認められた場合に手術をして、その後の経過が良い症例があります。膵臓がん治療は、患者さんの進行度・体力を見極めて、個々に適した治療方針を専門医と相談しながら、なおかつ患者さんの意思を尊重し、決めることが必要です。次に、当院で行ったさまざまな膵臓がんの治療経過を紹介します。

化学療法のみの治療

膵臓がんと診断したときに多発性の2~3㎝の肝転移が見つかり、外来でゲムシタビンの点滴投与を週1回、3週間続けて行い1週間休む(3投1休投与)を1年余り続け、その後1年余り週1回投与1週間休む(1投1休投与)を行い、2年余り自分の時間を持つことができた方がいます。

膵全摘

膵全摘後、TS–1(*)を内服しながらインスリンによる血糖管理を行いました。1年後、肝転移に対して肝切除を行い、ゲムシタビンによる化学療法を開始しました。初回の手術後2年目より、ゲムシタビン+アブラキサンによる化学療法を1年間行いましたが、3年6か月後に亡くなられました。

術前抗がん剤治療+放射線治療

初診時CA19-9(*)が2540と高値で、上腸間膜動脈(じょうちょうかんまくどうみゃく)に半周接している3㎝大の膵頭部がんと診断された72歳の女性に対して、FOLFIRINOXを9コースと放射線治療を行った後(初診の10か月後)に膵頭胃十二指腸切除を行いました。術後3か月TS–1を内服し、以後化学療法なしで2年半経過しています。

*TS-1:抗がん剤
*CA19-9:腫瘍マーカー

更新:2024.01.25