求められるリハビリテーションの多様性

済生会吹田病院

リハビリテーション科

大阪府吹田市川園町

リハビリテーション(以下リハビリ)の定義は「能力低下のあるものを、彼のなしうる最大の身体的、精神的、職業的、経済的能力を有するまで回復されること」とあります。つまり、病気の治療を、社会生活を営む上で問題となる障害の治療へと発展させたものです。リハビリは脳性麻痺(のうせいまひ)、ポリオ、先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)など小児疾患から始まり、戦争や労働災害による外傷を主体とした整形外科疾患、そして脳卒中や内科疾患と発展し、徐々に対象疾患が増えてきました。

現在では、運動器障害、脳血管障害、循環器や呼吸器などの内科疾患、摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)、小児疾患、がん治療やスポーツ整形外科など、幅広い領域に及んでいます。

高齢者の骨折

高齢者は転倒すると簡単に手関節や股(こ)関節が骨折します。尻餅をついて、腰や背中が痛い場合には脊椎(せきつい)が骨折している可能性があります。ほんの小さな外力で骨折するのは高齢で骨がもろくなる「骨粗(こつそ)しょう症(しょう)」という病気が基盤にあると考えられています。

骨折の中でも体重を支える下肢(かし)の骨折は、自分で歩けなくなります。最も多いのが股関節周囲の骨折です。放って置くと筋力や呼吸機能が低下したり、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こすなど命にかかわることもあるため、早期離床を目的に手術が行われます。

術後は、可能な限り早く座る訓練をし、立位から歩行へと徐々に訓練を進めます。同時に筋力や、関節可動域訓練を行い、行動範囲を増やしていきます。最終的には階段昇降や浴槽またぎなどの訓練を経て、自宅復帰します。

骨折や転倒は寝たきりにつながり、寿命にも影響します。転倒を予防し、骨粗しょう症などの病気があれば、薬などで治療しましょう。

脳卒中

脳卒中は脳の血管の病気で、血管が破裂する脳出血と血管が閉塞(へいそく)する脳梗塞(のうこうそく)があります。麻痺や言葉によるコミュニケーション障害、摂食嚥下障害など、日常生活を妨げる多様な症状が残ることが多く、リハビリが必要となる頻度(ひんど)の高い病気です。

典型的な脳卒中では、発症から2週間程度は関節拘縮(かんせつこうしゅく)、つまり関節が固まらないよう関節を他動的に動かし、可能な限り早く座る練習を行います。発症から6か月程度までが最も効果が上がりやすい時期で、この間にリハビリを適切に行うことが良好な予後につながります。

心臓の病気

心筋梗塞(しんきんこうそく)や慢性心不全など、心臓の病気では適切なリハビリを行うことで死亡率が低下し、日常生活動作も増やせることが分かっています。血管や心臓の治療後も、早期からのリハビリを行うことが大切です。

心臓病に対する運動療法によって心臓の血管が詰まりにくくなり、心筋梗塞や狭心症(きょうしんしょう)の予防にも役立ちます。さらに、自律神経の働きを整えることで不整脈を起こりにくくし、慢性の心不全でも寿命を延ばせます。

リハビリテーションはチーム医療

リハビリテーション医療の現場では、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー、介護支援専門員(ケアマネージャー)、介護福祉士、管理栄養士など、目標を達成するために多くの専門職がチームを組みます。専門が異なるメンバーが連携をとりながら治療にあたるのが、リハビリにおけるチーム医療です。中でも理学療法と作業療法は、両輪をなすもので特に重要です。

理学療法の基本になるのは、筋力増強や関節可動域などの運動療法です。主として下肢の障害に対するものが多く、ベッド訓練・マット訓練・車いす訓練・平行棒訓練・松葉づえ訓練・応用訓練など段階的に行います。

写真
図1 理学療法での立位訓練
写真
図2 理学療法での関節可動域訓練(股関節)

作業療法は上肢(じょうし)、特に手のこまかい動作や協調性の回復を主な目的として行います。応用訓練として日常生活動作(ADL)の訓練、あるいは耐久性増強などの訓練が多く、退院が近くなると職業前評価を行い、仕事への順応性、作業中の姿勢・腕や脚のかっこうなどを検討し、職業能力と身体能力の適性を、訓練を通して具体的に体得することをめざします。

写真
図3 作業療法での関節可動域訓練
写真
図4 作業療法での協調性訓練

さまざまな疾患に対して多様な職種が協力し、患者さんの社会復帰をサポートすること、それがリハビリの実際、そして目標なのです。

更新:2022.03.08