くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤:頭を切らずに脳動脈瘤を治療する脳血管内手術

札幌孝仁会記念病院

脳神経外科、脳卒中センター、脳血管内治療センター

北海道札幌市西区宮の沢

脳動脈瘤とは?

脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)は、血管がコブ状に膨らむ病気です。動脈瘤が破れると、くも膜の下に血液が広がり、激しい頭痛が起こります。意識がなくなったり、亡くなったりする場合があります。また、大型の動脈瘤では脳神経を圧迫して、物が二重に見えたり、視力が悪化したりするなどの脳神経麻痺(のうしんけいまひ)が起こる場合もあります。

脳血管内手術とはどんな治療?

脳血管内手術は、細い管(カテーテル)を、足の付け根や手首の血管から挿入して、頭を切開せずに、脳の病気を治療する方法です。代表的な対象疾患の1つが脳動脈瘤です。

治療で体に創(きず)がつく部分は、カテーテルを刺入した足の付け根、あるいは手首の2〜3mmのみで、創の表面を縫合する必要もありません。頭部を全く切開しないため、創の痛みがなく、退院、社会復帰が早くなります。感染症の心配もありません。外見上の変化が何も起こらないことも、治療のストレスが軽減される一因となります。

脳動脈瘤に対する脳血管内手術の現在

脳動脈瘤を治療する方法の代表は、コイルという器具を使用する方法です。コイルは髪の毛よりも細いプラチナ製の素線を、コイル状に巻いたもので、直径はタコ糸よりも細い0.3mm前後です。コイルには、非常に多くの形状、長さのバリエーションがあって、動脈瘤の大きさに合わせて適切なものを選択します。

細いカテーテル(直径0.5mm)の先端を動脈瘤の中に入れたら、カテーテルからコイルを押し出していきます。コイルは柔らかいので、動脈瘤よりもわずかに大きなコイルを選択すると、動脈瘤の壁にへばりつくように、挿入されていきます。コイルはカテーテルから押し出すための柔軟なワイヤーと接続されていて、引き戻したり、再挿入したりしてよい形状に入るように調整が可能です。

コイルがすべて動脈瘤の中に入ると、電気的あるいは機械的にコイルを切り離します。この操作を繰り返し、徐々に小さいコイルを動脈瘤の内部に充填(じゅうてん)(詰める)し、動脈瘤の中に血液が流れないようにします(コイル塞栓術(そくせんじゅつ)、図1)。

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図1 コイル塞栓術

現在のコイルとほぼ同様のものが、脳動脈瘤治療の器具として、日本で保険承認されたのは1997年で、すでに四半世紀が経過し、現在は日本で7社がコイルを販売しています。このことは、コイルが脳動脈治療の器具として、広く一般化し、多くの改良が加えられ、標準的な治療の1つになったことを意味しています。

しかし、コイル単独では、動脈瘤内に留置できない場合が多々あります。動脈瘤の入口が広いと、コイルが動脈瘤から出てきてしまうからです。そこで開発されたのが、ステントという器具です。柔らかい網目状の筒で、コイルと同様に、細いカテーテルから押し出して使用します。

動脈瘤の出ている血管の中にステントを留置すると、ステントの網目が動脈瘤の入口を覆(おお)うため、動脈瘤の中に入れたコイルが血管の中に出てこなくなります。また、動脈瘤の中に密にコイルを入れることが可能になります(図2)。

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図2 ステント併用コイル塞栓術

脳動脈瘤治療用ステントが日本で使用可能になったのは2010年からです。現在、ステントは3社の製品が使用可能です。

次のステージとして、フローダイバーターという治療器具が登場しています。動脈瘤の出ている血管の中に留置するだけで、動脈瘤を閉塞(へいそく)させることが可能です。

フローダイバーター

フローダイバーターは、ステントの一種ですが、網目が非常に細かく、単独で動脈瘤の閉塞が可能な器具です。網目が細かいため、動脈瘤の中に流れ込む血流の速度が遅くなり、血液の停滞が起こり、徐々に動脈瘤が血栓化(けっせんか)(血液の塊(かたまり)に変化)します。また、フローダイバーターの表面を内皮細胞が覆い、フローダイバーターを骨格とした新しい血管壁が形成されます。完全に閉塞されると、治癒(ちゆ)に近い効果が得られます(図3)。

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図3 フローダイバーター留置

フローダイバーターは、2015年に国内で使用が始まり、現在は金属表面に血栓ができにくい処理を施した第3世代のものが使用可能となっています。その他に2社のフローダイバーターも使用できます。また、コイルの代わりに動脈瘤内部に留置するメッシュ状の球体の使用も開始されています(図4)。

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図4 メッシュ状の球体を用いた塞栓術

このように、脳動脈瘤に対する脳血管内手術は、新しい技術や、既存の製品の改良が繰り返されています。

しかし、すべての治療法には、利点と欠点があるため、症例ごとに十分な検討がなされ、安全かつ有効な方法を選択することが重要になります。

更新:2025.02.06