胃がん:胃がんの予防・治療とピロリ菌

札幌孝仁会記念病院

消化器内科

北海道札幌市西区宮の沢

ピロリ菌とは?

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃酸に強い細菌で、胃粘膜(いねんまく)に感染すると萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)(慢性胃炎)や胃潰瘍(いかいよう)の原因となることがあります。また、胃粘膜の炎症が長く続くことで萎縮性胃炎から胃がんが発生しやすくなることも知られています。したがって、ピロリ菌感染を調べて除菌をすることは、胃がんを予防することにつながります。

ピロリ菌の検査法と内視鏡健診

ピロリ菌は、他国に比べて日本人に感染率が高いことが知られており、日本人に胃がんが多いのはそのことに起因すると考えられます。

戦前の生まれでは、ピロリ菌陽性率は80%近く、戦後生まれからは徐々に陽性率は低下し、1970年代生まれ以降では陽性率は20%以下となっています。今後はさらに陽性率は低下していくと考えられますが、健診でピロリ菌陽性となる人は珍しくありません。

ピロリ菌の検査法はいくつかあります(表)。検査法にはそれぞれ利点・欠点があり、これらのうち1つまたは複数の検査法を組み合わせて診断します。

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表 ピロリ菌の検査法

当院の健診で内視鏡検査を行った患者さんにピロリ菌感染を疑った場合は、迅速ウレアーゼ検査(胃の粘膜組織を採取してピロリ菌の有無を調べる検査)を行います。短時間で判定できるという利点があり、その場でピロリ菌が陽性と判定された場合は、健診に引き続いて消化器内科を受診し、除菌治療を行うこともできます。

ピロリ菌の除菌治療と胃がんの予防

ピロリ菌を除菌することにより、胃がんの発生を半分程度予防できると考えられています。そこで当院では、健診の内視鏡検査で萎縮性胃炎や胃潰瘍(写真1)があって、ピロリ菌陽性と診断された場合には、除菌治療をお勧めしています。

写真
写真1 内視鏡写真
a 正常胃粘膜 b 萎縮性胃炎 c 胃潰瘍

除菌治療は、3剤の内服薬(胃薬と抗菌薬2種類)を1週間投与します。除菌治療を行うと80%ぐらいの患者さんでピロリ菌は除菌されます。除菌治療の2〜3か月後に判定を行い、除菌成功と判定されたら治療は終了です。

万が一、除菌失敗と判定された場合には抗菌薬を一部変更し、2回目の治療(二次治療)を行います。二次治療まで行うことで90%以上の患者さんでピロリ菌は除菌されます。

除菌が成功すると萎縮性胃炎はある程度改善し胃がんの予防となりますが、もともと胃炎が強かった場合は、除菌が成功したとしても、まれに胃がんの発生があるため、1〜2年に1回ぐらいの内視鏡検査を受けて、経過観察をすることをお勧めします。

早期胃がんの内視鏡治療

がんの病変が浅い胃がんを早期胃がんといいます。早期胃がんは、内視鏡で切除することが可能な場合があります。内視鏡でがんの部分を含んで粘膜を剥(は)がし切除する治療を内視鏡的粘膜剥離術(ないしきょうてきねんまくはくりじゅつ)(ESD)といいます(写真2)。当院でも早期胃がんに対しては主にESDを行います(大きさやがんの性質によっては内視鏡治療ができない場合もあります)。

写真
写真2 内視鏡的胃粘膜剥離術(ESD)
a がんは矢印の内側
b がんの周囲に印をつける
c 周囲から切開・剥離
d 剥離後

胃がんの発見が遅れ、内視鏡で切除できない病変の場合には、外科的に胃の切除術を行います。腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いるとお腹(なか)に数か所小さく切開するだけで切除が可能なこともあります。手術の創(きず)が小さいと回復が早く、入院期間も短くてすむようになります。

肝臓(かんぞう)や肺などに遠隔転移があるなど、がんが広がっている場合には、化学療法(抗がん剤の投与)を行うことがあります。胃がんの化学療法は近年進歩が著しく、薬の種類も増えましたが、それだけで完治することはごくまれです。胃がんの完治をめざすためには、やはり以前からいわれているように早期発見・早期治療が大原則で、そのための内視鏡健診は今後も重要な役割を担います。

胃がんの早期診断には内視鏡検査が最も有用です。早期胃がんを見つけるためには、内視鏡検査の数を増やすだけではなく、診断の精度を向上させる必要があります。近年研究が進んでいるAIによる内視鏡診断の併用が将来的に普及するようになると、内視鏡の診断能力はさらに向上することが期待されます。

更新:2024.07.29