摂食嚥下障害と誤嚥防止
いわき市医療センター
リハビリテーション室
福島県いわき市内郷御厩町久世原
言語聴覚士は、病気や交通事故、発達の問題によって、コミュニケーションや食べる機能に問題がある方に対し、リハビリテーションを提供しています。ここでは、食べる障害(摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい))についてお話しします。
摂食嚥下障害とは
摂食嚥下とは食物を口の中に取り込んで咬み砕き、胃の中に送り込む過程のことをいいます。摂食嚥下障害とは、脳卒中や心疾患、加齢などさまざまな原因で、飲み込む機能が低下した状態をいいます。
一般の方でもよくむせる方がいますが、嚥下障害とは違います。摂食嚥下障害と正常の状態の境界線は基本的にはありません。研究によると、健常高齢者で50歳以上の方の3人に2人が誤嚥を認めているという報告があります。嚥下障害と健常を分類することが重要ではなく、障害の程度を見極めて介入の有無を検討し、障害に合わせた治療法を検討することが大切です。
嚥下障害の症状と簡単な検査
嚥下障害が疑われる症状には、むせることが増えてきた、食事中や食後にガラガラ声になる、のどに食べ物が残る感じがする、発熱や肺炎を繰り返す、痰(たん)が多くなる、食欲がなくなるなどがあります。このような症状がある方は注意が必要です。
嚥下障害を見つける簡単な検査に、反復唾液嚥下テストがあります。テストではのど仏に中指と人差し指を当て、30秒間で何回唾液を飲めたかを数えます。3回以上できた場合は誤嚥リスクは低く、2回以下の場合は嚥下障害の疑いがあります(図1)。
急性期の摂食嚥下リハビリテーション
急性期の摂食嚥下リハビリテーションでは、患者さんが安全に食べることができる食事形態を評価し、実際に食べる練習をしていきます。障害の程度によって治る期間は違いますが、患者さんが少しでも食べ物が食べられるように支援していきます。また、口腔(こうくう)ケアや舌・口唇(こうしん)の運動、発声訓練、呼吸訓練なども行っています。
口腔ケアは、口腔内環境を改善し、食べる準備を整えると同時に誤嚥性肺炎の予防にもつながります。発声訓練や呼吸訓練は、誤嚥物を喀出(かくしゅつ)(唾(つば)や痰などを吐き出すこと)する力を鍛えます。
自宅でできるリハビリテーション
病院だけでなく自宅でできるリハビリテーションもあります。高齢者の方では食前に行う嚥下体操がお勧めです。首のストレッチでは、首を前後、左右に動かし、円を描くようにゆっくりと回転させます。舌の運動では、舌を前後に出し入れしたり、左右の口角に動かします。口唇の運動では、「イー」と言いながら唇を横に引っ張ったり、「ウー」と言いながら唇を前に突き出します。頬の運動では、頬を膨らましたり、へこませたりします。飲み込む力を鍛える方法では、仰向けになった状態で、足のつま先を見るようにして頭を持ち上げる訓練がお勧めです(図2)。咳嗽(がいそう)(せき)力を鍛える方法としてペットボトルの水をストローでゆっくり吹くなどの訓練があります。
誤嚥を防止するための食事の工夫
誤嚥を防止するには、食事形態や食事方法、食事環境を検討することが大切です。食事形態には、ゼリー食、ペースト食(ミキサー食)、きざみ食(みじん切りにしたもの)、軟菜食(軟らかい食事)、常食があります。ご自宅でむせることが多い方は食事形態を見直すと良いかと思います。調理の工夫としては、軟らかく煮る、とろみを付ける(あんかけ風にする)、おかずの一口サイズを小さくするなどがあります。
摂食方法に関しては、一口量を調整するということが大切です。食べる機能が衰えている方は、のどに食べ物が残りやすいので、一口量が過度に多いとむせやすくなります。逆に少なすぎると、喉の感覚が鈍感な方は飲み込みにくくなりますので良くありません。その人にとって食べやすい一口量に調整することが大切です。
また、交互嚥下法という方法もあります。これは、飲み込みにくい食べ物と飲み込みやすい食べ物を交互に食べていく方法です(図3)。
食べる姿勢を調整することも有効です。椅子に座って食べている方なら、なるべく背筋を伸ばし、顎(あご)を引くように姿勢を整えることが大切です。ベッド上で介助の必要な方なら、ベッドアップ(ギャッチアップ)の角度を調整することが大切です。一般的に食べやすい姿勢は、ベッドアップ30度で顎を少し引いた姿勢といわれています(図4)。
認知症などで食べることに集中できない方は、静かな場所で食べさせてあげるとむせにくくなります。
健康を維持するための心がけ
近年、摂食嚥下領域でも「サルコペニア」という用語が聞かれるようになりました。サルコペニアとは、進行性、全身性に認める筋肉量減少と筋力低下のことで、さまざまな身体機能障害を伴います。原因は加齢、運動不足、低栄養、疾患などがあります。例えば、加齢によって、飲み込む機能が衰える→食べる量が減り栄養バランスが偏る→活動性がなくなり外に出歩かなくなる→筋肉量が減りサルコぺニアの状態になる→さらに飲み込む機能が衰える、という悪循環に陥ります。これを打破するには、食生活を見直し、栄養バランスを整えることが必要です。健康を維持するためにも、栄養バランスの良い食事をとり、適度な運動をして、いきいきできる趣味活動を行いましょう。
更新:2024.11.28