成人健診について
いわき市医療センター
人間ドック
福島県いわき市内郷御厩町久世原
現在、日本は世界でトップクラスの長寿国です。ところが、健康寿命(病気にかからず自立生活をしている)と平均寿命との間に、男女とも約10年間の開きがあります(図1)。病気ゆえに日常生活が自立できない期間が10年とは長過ぎます。健康寿命を平均寿命に近づけようとしたら、「病気にかからないようにする」ことは明々白々です。すなわち、「病気の予防」こそが、健康で長生きをするためのカギなのです。その領域を予防医学といいます。
予防医学とは
予防医学は、3段階に分かれます。死亡原因の第1位であるがんを題材にして考えてみましょう。
がんの一次予防とは、がんにならないようにすることです。環境因子(タバコやアスベストなどの発がん物質、肝炎や胃炎を起こすウイルスや細菌、放射線など)との接触(暴露(ばくろ))を避けることです。発がん物質や感染症、放射線被曝(ひばく)を回避することで、がんになるリスクはずいぶんと低下します。
がんの二次予防とは、遠隔転移が起こっていない初期の状態(早期がん)でがんを発見し、的確な治療(手術・放射線治療・化学療法・免疫療法のいずれかの単独で対応可能)を施すことで完治をもたらすことです。がんで死ぬことをほぼ完全に阻止できます。
がんの三次予防とは、再発の可能性の高い進行がんに対して、あるいは既に遠隔転移を合併しているがんに対して、的確な治療(放射線化学療法、拡大手術と術後化学放射線療法など「集学的がん治療」と呼ばれます)を複数組み合わせることで、がんで死ぬリスクを可能な限り低減することです。
がんの一次予防は、若いときからのがん教育(生活習慣への介入)が大切です。二次予防は、早期発見(健診の介入)が大切です。三次予防は、積極的に治療を受ける(適切な医療機関を受診する)ことが肝要です。
予防医学の最前線としての成人健診
予防医学の観点からいえば、がんの早期発見を目指している成人健診は、「二次予防」を主に担っています。成人健診の対象は、国内では胃がん・大腸がん・肺がん・乳がん・子宮がんの5つです。
胃がんと大腸がんは、胃カメラと大腸カメラの導入により、早期がんで見つかる頻度(ひんど)が格段に高まっています。胃カメラの際に、アクシデントに早期の食道がんが見つかります。これらのがんは、内視鏡下に切除が可能で、開腹したり開胸したりという大がかりな治療(侵襲(しんしゅう)の大きい治療)が不要となるケースが圧倒的です。
肺がんは、胸部X線写真だけで発見することは困難です(ただし、抹消型の単発例はX線でもチェックされます)。ヘビースモーカーや家族歴のあるリスクの高い人は、断層写真が推奨されます。
乳がんは、マンモグラフィを中心とした検診でよく発見されるようになりました。日本人の女性は欧米人の女性とは異なり、40~50歳代の働き盛りに多いことが特徴です。早期の乳がんは部分切除で済むことが多く、積極的に受診することが大切です。
子宮頚(けい)がんは、擦過(さっか)細胞診でチェックしますが、経腟的超音波を同時に施行することで、卵巣がんや子宮体がんが見つかります。
このほか腹部超音波では、隆起型の胆嚢(たんのう)がん、腎臓(じんぞう)がんが見つかることがあります。さらに頻度はずっと低いですが、膵(すい)がんや肝がん(原発性ないしは転移性)も見つかることがあります。
成人健診で大切なのは、健診は「何かある」と指摘する検査であり、確定する検査でないということです。すなわち、健診で「要精査」との判定が送られてきたら、そのまま放置せずに必ず精密検査を受けることが大切です。精密検査を受けないことによる見逃しや見落としが問題になっているからです。
当院の人間ドックの3本柱
当院の人間ドックでは、「がんを見逃さない」「動脈硬化を進行させない」「高ストレス状態をそのままにしておかない」の3項目にフォーカスをあてながら健診をしています。予防すればいいのは、がんだけではありません。寝たきりを防ごうとすれば、脳血管障害の予防が必須です。突然死をもたらす心筋梗塞(しんきんこうそく)を防ごうとすれば、高脂血症の予防が必須です。それらは、大きく捉えれば、「動脈硬化」を予防することを意味します。
また近年、心身への荷重が負担になり(「高ストレス状態」の持続)、メンタルに変調をきたし、心が折れてしまって自死や過労死に至るケースの増加が問題となっています。「高ストレス状態」を早期にチェックし、職場の労務環境に介入することも大切になってきました。
まず、「がんを見逃さない」ためには、要精査の患者さんが精密検査を必ず受けることが重要です。そのために当院では、受診日当日に精密検査の予定を組むように努めています。
次に、動脈硬化については、糖尿病が大きな促進要因となっています。糖尿病による動脈硬化をいち早くチェックする検査として、頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(けいどうみゃくないまくちゅうまくふくごうたいひこうど)(IMT)の測定が、国内では早くから施行されてきました。当院の人間ドックでも2002年から測定を開始しました(図3)。糖尿病の方には経年的なIMTの増加傾向(Δ(デルタ)IMT)に特徴が認められました。
通常の変化率は年間0.008mmで厚くなっていきますが、動脈硬化促進群では、年間0.01mmを超え、0.03mmを超える急増群も認められます。この急増群には糖尿病の方が多く含まれます。数回にわたって受診した方に、このΔIMTのグラフを見せ、BMI(肥満度を表す指数)が26超、悪玉コレステロール(LDL)を善玉コレステロール(HDL)で割ったL/H比が2.5超、ヘモグロビンA1C値が6.0%超を持続する人は動脈硬化促進群になる確率が高いことを説明し、生活習慣に介入して(有酸素運動の励行、具体的な減量への取り組み)、「動脈硬化を進行させない」ことに取り組んでいます。
高ストレス状態に対して当院では、勤労者メンタルヘルスの大御所である山本晴義先生の開発した81項目のストレスチェックシート(図4)を用いて検査を行い、不眠状態が継続している場合は、積極的に心療内科(心のクリニック)受診を促しています。就労環境そのものへの介入は困難ですが、「高ストレス状態をそのままにしておかない」足がかりを、受診者とともに模索しています。
この意味で、人間ドックは全人的医療(ホリスティック・メディシン)の窓口なのです。期待と安心感を持って当院ドックを利用していただければ幸いです。
更新:2024.10.28