先天異常の症状と治療方針
いわき市医療センター
形成外科
福島県いわき市内郷御厩町久世原
先天異常って?
形成外科で扱う先天異常は主に体表の異常です。学会では唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)、四肢(しし)の異常、その他の異常に分類しています。それぞれの症状と治療方針について説明します。先天異常は乳児~幼児~小児期に手術することが多く、全身麻酔の手術で入院が必要です。当院では麻酔科と協力して入院期間をなるべく短期間になるよう工夫しており、ほとんどの場合1泊2日または2泊3日の入院で治療が可能です。
「唇顎口蓋裂」の症状と治療方針
唇顎口蓋裂とは、上口唇(じょうこうしん)、歯茎(はぐき)、口蓋が先天的な理由でその一部または全体、左、右または両側が癒合していない病気です。染色体異常などに伴うこともありますが、原因は不明なものがほとんどです。理由ははっきりしませんが、左がやや右より多いようです。
700~1000出生に1人発症するといわれています。最も重症な完全唇顎口蓋裂に関しては一期的な手術(唇裂、顎裂、口蓋裂を同時に手術)が試みられていますが、当院では現在のところ、それぞれに対して時期を選んで手術を計画しています。
唇裂に対しては生後3か月、体重5㎏程度で初回手術、その後鼻の修正も含めて2~3回修正し、高校卒業の頃に最終的な状態になるよう計画しています。初回手術は癒合していない部分を合わせる手術で、皮膚だけではなく皮下の口輪筋(こうりんきん)の連続性が得られるように合わせます。その後、成長とともに口唇、鼻の変形が目立ってくることがあり、修正手術を計画します。
口蓋裂に関しては1歳6か月、体重10㎏程度を目安に手術を計画します。言葉などの発達により時期は前後します。口蓋裂の患者さんは言葉の発達に問題があることがあり、必要に応じて言語訓練も継続して行います。
顎裂は歯茎が連続していないもので、唇裂を合併していることが多く、唇裂の初回手術のときに、ある程度閉鎖することもあります。しかし上顎(じょうがく)の発達障害を合併する場合もあるため、永久歯が生えてきた後に歯列矯正して、6~10歳頃、ある程度矯正された時点で、歯茎の欠損部に骨を移植する方法で治療を進めています。当院に矯正歯科がないため、歯列矯正に関しては近くの歯科の開業医の先生方にお願いしています。
「手足の異常」の症状と治療方針
多指(趾)症(たししょう)、合指(趾)症が主なもので裂手症(れっしゅしょう)、低形成症、巨指症、絞扼輪症候群(こうやくりんしょうこうぐん)などがあります。400~500出生に1人発症するといわれています。
多指症は指の数が多いもので、手は親指側、足は小趾(小指)側に多いようです。合指症を合併するものも多くみられます。
合指症は隣り合った指が癒合したもので、手は2~5指間、足は2~3趾間に多いようです。指の股の部分が浅くなるものから骨の癒合があるものまで、さまざまな程度の異常があります。
手は使い始める1歳過ぎに手術をしますが、足は歩行には特に障害とならないことが多いので2~3歳頃の手術を勧めています。
多指症はレントゲンで判断して余剰指を切除し、残りの指をなるべく正常な位置に固定します。合指症は癒合した指を切り離し、切り離した部分に皮膚を移植します。
その他の異常はあまり定型的でないことが多く、ケースバイケースで手術時期や方法を考えます。
「その他の異常」の症状と治療方針
耳は異常の種類が多く、小耳症(しょうじしょう)、埋没耳、副耳、耳(じ)ろう孔(こう)、立ち耳、耳垂裂(じすいれつ)、ダーウィン結節、スタール変形、耳介低位など手術の対象になるものから、特に治療を必要としないものまであります。ここでは手術の対象になることが多い疾患を説明します。
小耳症は変形の程度が特に大きいもので、耳の低形成でしばしば内耳の低形成を伴います。耳の軟骨は痕跡程度しかなく、耳全体(軟骨、皮膚)を作る必要があります。iPS細胞等の再生医療が利用できるようになるまでは、自分の肋軟骨(胸の軟骨)を使うしかないのが現状です。肋軟骨が十分なサイズになるまで手術は行えないので、手術時期は6~10歳頃になります。肋軟骨を耳の形に成型して耳の位置の皮下に移植、軟骨が生着したところで2回に分けて耳起こし+植皮をします。トータルで2~3年間かかります。格好のいい耳を作るのは非常に難しく、iPS細胞等の再生医療の発展に期待したいところです。
副耳は耳の前から頬(ほほ)、まれに頸部(けいぶ)にできる皮膚の隆起で、軟骨成分を含むことがあります。受精卵から赤ちゃんになる過程のどこかで、耳ができるときの不具合によるものとされています。比較的多く、さまざまな大きさを合わせると100~200出生に1人の割合と思われます。軟骨を含まないものは初診時に糸で縛って取ることもありますが、そうでない場合は1~3歳頃に切除することを勧めています。
耳ろう孔は耳の前にある小さなくぼみと軟骨近くまであるろう孔(管状の穴)で、特に目立つものではなく、存在するだけでは手術を勧めることはほとんどありません。ただ、ろう孔の中に垢(あか)が溜(た)まり、感染した場合は膿(うみ)が溜まって痛くなり発熱します。このような場合には、感染が落ち着いてからろう孔の切除を勧めます。
頭部ではいわゆる大泉門などが早期に閉鎖する小頭症(しょうとうしょう)があり、脳外科と一緒に治療をする施設がありますが、全国的にも手術が可能な施設は少なく、当院では今のところ行っていません。そのような患者さんには手術を実施している病院を紹介します。
体幹、陰部にも形成外科がかかわる先天異常があります。臍(さい)ヘルニアはいわゆるでべそのことで、出っ張った部分の皮膚を切除、ヘルニアの中身はお腹(なか)の中に戻して出口をふさぎます。陰部では尿道下裂、包茎もあります。
また出生時には分からないものの、成長とともに目立ってくるものもあります。副乳は第2次性徴とともに最初は痛みとして自覚することが多いようです。痛みの原因となったり、感染を伴ったり、まれに悪性化したりすることもあるため切除を勧めます。
特殊なものとしては性同一性障害の性別適合手術がありますが、当院ではまだ環境が整っていないため行っていません。
更新:2024.01.26